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恋活、一時戦線離脱

「レンタルビデオはさ、借りてきて、ビデオデッキに入れる瞬間がいちばんドキドキするよね」


と、恋活仲間のひめちゃんが言っていた。
前評判やパッケージ、あるいは絶対おもしろいというインスピレーションで借りてきても、必ずしもその一本が期待どおりとは限らない。
レンタル代330円返せ、120分返せと思うことも、少なくない。
もっとも、レンタルビデオもビデオデッキも昭和、平成の産物だ。
いまは何本観ても一律のサブスクリプションだからつまらなくても損した気にならないのかもしれないし、気になるシーンだけ倍速、4倍速でちゃちゃっと観ればよい、と、言われてしまいそうだけど。


「マッチングアプリも、同じだよね。
プロフィールや写真を見てドキドキして、メッセージ交換で私の王子さまは彼に違いない! と、ひとりで盛り上がったりしてさ。
でも、どう見ても70代にしか見えない背中を丸めた人や、あの写真は15年前でしょ、という人が待ち合わせ場所にいたときの絶望感!
メッセージではあんなに話が弾んだのに、会って話し出したらすごくつまらないこともあるんだよね。
あれ、何なんだろう」


力説するひめちゃんに、まりかも実感を込めて大きくうなずいた。
まりかが1年ちょっとでアプリで直接会った殿方は20数人。
もちろん先方だって同じくらい、まりかにがっかりしたのだろうけれども。


マッチングアプリのよいところは、会う前に殿方についてある程度の情報を得られるところにある。
プロフィール写真や自己紹介文、スペックなどが通販のカタログよろしくアプリに並ぶ。
プロフィールをパスしたら、今度は文字でのやりとり、ときには通話機能でおしゃべり。
ここで話が合うほど期待値は高まり、会ったときの落差に驚くリスクも高まる。
写真ではあんなにかわいかったワンピースが、届いてみたら色合いがくすんでいたり、生地がペラペラだったり、というように。


ひめちゃんは最近、お見合いパーティーやお見合いバスツアーに主戦場を移したようだ。
マッチングアプリがネット通販なら、こちらはフリーマーケットというところだろうか。
デパートのようにブランド別にショップが並ぶわけではなく、足を運んでみなければどこに何があるかわからない。
手ぶらで帰ることもあるだろうし、思いもかけない掘り出し物に出会えるかもしれない。
事前情報で要らぬ夢を見ることもない分、リスクは小さいかもしれない。
想定外に退屈な時間をすごすこと、不快な思いをする危険は、アプリと同じかもしれないけれども。



葉桜のころ、タカシと短い恋を終わりにしたまりかは、しばらく恋活から距離を置こうと決めた。
夜な夜なマッチングアプリで殿方探しに明け暮れていた時間にヨガに通い始め、期待に胸ふくらませて絶望で骨まで砕けた週末は映画や小旅行に費やすことにした。
お顔合わせに必要と言い訳しながら買い集めた、大して気に入っていない洋服を処分して、クロゼットも気持ちも余白ができた。
毎朝のグリーンスムージーで2キロも痩せて、願ったりの毎日である。


理想の殿方を探す前に、理想のまりかを見つけ出そう。
口コミ高評価で買ってみたものにがっかりするより、自分で足を運んで五感で感じて選ぶ目を養おう。
そう、基礎体力づくりに勤しむのよ。


恋活、一時戦線離脱。
きっとまた、最前線に戻りたくなる日が来るだろうから。


サポートしてくださった軍資金は、マッチングアプリ仲間の取材費、恋活のための遠征費、および恋活の武装費に使わせていただきます。 50歳、バツ2のまりかの恋、応援どうぞよろしくお願いいたします。