ココロ開かずして

「帰ってからいろいろ考えましたが、やっぱりココロ開かずしてアシは開けないなー、と思いました。
細マッチョで気遣い上手なアキラさん、素敵なのですが、ごめんなさい。
いい人見つけてね」

会って1時間の男に、カラダの相性を試させてほしい、とまりかが言われたのは、昨日のことだった。

何ならこのまま、彼のドイツのスポーツカーに乗せて、ホテルに連れてゆこう、という勢いだった。

体力勝負の仕事をするアキラさんの上半身は、ピタピタの黒いTシャツに包まれ、肩から二の腕にかけての筋肉と、分厚い胸板を見せつけていた。
袖口からチラリとのぞく、きれいに整えられた腋毛は、明らかに女を欲情させるための演出だった。
体に張りついたTシャツがくっきりと割れた腹筋を浮き上がらせ、細身のジーンズに流れ込むさまは、芸術的だった。
後ろから見たお尻も、たるみなど一切なく、完璧だった。

体中から、女の五感を強烈に刺激するホルモンを放っていた。
まりかは獣のように、ああ、この人に抱かれてみたい、と思った。
父のお夕飯の準備と、ワンコの散歩がなかったら、そのままのこのこついて行ってしまったかもしれないし、いまこの瞬間も彼のふかふかの筋肉に包まれて眠っていたかもしれない。

でも、ちょっと待てよ。


この人は私のことを好きなのだろうか。
私はこの人のことを好きなのだろうか。

そもそも、好きって何?
好きだから、何なのよ?


たしかに、肉体的に満たしてくれることは、非常に魅力的だ。
しかし、それだけ?
ココロとカラダだけでなく、私はアタマも満たされたい。
知的好奇心を満たしてくれる人と出会いたいのだ。


ひと晩考えて、やはり彼のお試しには乗らないことにした。
別の人に会いましょうと言ったら、サクッと会う約束をしてくれたことも大きかったかもしれない。

さくらまりか、ココロ開かずしてアシ開かず、なのだ。
性欲を満たすことも大切だけど、心のひだひだをせめて1枚でも2枚でも、受け止めてくれた殿方に抱かれたい。


このまま、ほかの人と商談が成立するまでのらりくらりとアキラさんとLINEをして、あるいは成立しないからとりあえずアキラさんとお試ししてみる、もアリだったのかもしれない。
でも、まりかは複数の人とメッセージのやりとりはできても、生身で複数の人と会うことはできないたちらしい、と、気づいた。
ひとりを終わりにしてからでないと、次にいけないようなのだ。
これは理屈ではない。
何と損な性分なのだろう。
アキラさんに抱かれながら、本命を探す方法だってあっただろうに。


まりかは10時の会議が入る前に、冒頭のLINEを送った。
正午に会議が終わってアプリを見ると、彼のアイコンが消えていた。
ブロックされたのだった。
LINEに既読はついていたが、返信はなかった。
おそらくこちらも、ブロックされているのだろう。


さようなら、動物づかいのアキラさん。
男の魅力満載のアキラさん。
まりかのことは、つかいこなせなかったね。


*2023年4月20日の活動状況
・もらった足あと:12人
・もらったいいね:3人
・やりとりした人:3人
不思議なもので、ひとり気持ちに区切りがつくと、足あとが多くなる。
そして、やりとりしている人とのメッセージも、一歩深まる気がする。

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