「茉莉花」の魔法 名前は別人格を連れてくる

「早く、まったりしましょう。
大浴場付デイユースホテルで、ゆっくりしましょう?」
「はじめましてだし、お茶くらいにしましょう?」
「はい😭」

還暦ちょいワルさんとLINEを始めたのは、ついおとといのことだ。
例の「taro1234」というアカウント。

あんなにあやしい、胡散くさいと騒いで、もうこの人とはないとまで言っていたのに、ついに屈してしまった。
彼の「LINEしましょう?」に。実に三度目の正直。
この「しましょう?」は、キラーワードだ。
私の心を揺さぶり、思いもよらなかった方向に押し動かす。
大きな渦に巻き込まれるように、自ら動く力を奪い取る。

今度はURLではなくて、IDが送られてきたので、そのまま検索をかけた。
「taro1234」という、センスもへったくりもないID、無事にひとつのアカウントを連れてきた。
驚いたことに、写真が貼りつけられている。
赤いスポーツカーのアイコンと、どこかリゾート地のビーチの写真。
あれ、プロフィールには車はない、と書いてあったよね?
やっぱり、あやしい。
となると、プロフィールのいたずらっ子の目も、どこかから拾ってきた写真?
疑惑がもくもくと雲のようにふくらむ。

でも、せっかく乗りかかった船だし、イヤなら速攻ブロックして通報だ、と思うことにした。

「あらためまして、こんにちは。まりかです」

アプリを始めたときにつけたまりかという名前、私を別人格にするようだ。
まりかは漢字にすると、茉莉花、つまりジャスミンだ。
ジャスミンの花言葉は「愛想のよい」「愛らしさ」「優美」。
私の本名につく花言葉とは、真反対だ。
こうなったら、まりかの名にあやかって、愛らしく優美に恋をしようではないか。

こうして、冒頭の会話となったわけだ。

このあと、まりかは思いもよらない行動に出る。

「taroさん、さみしいときはちゃんとお話聞いてくれる人?」

どうした、まりか。あいさつしかしたことがない人に、いきなり甘えるのか。
どうする?
ええい、このまままりかと一緒に暴走してしまえ。

「うん」

あれっ、こんなにやさしい「うん」、私、言われたことがないぞ。
私の中のまりかが孔雀の羽根のように、大きく、艶やかに広がってゆくのがわかる。

「ちっぽけなことで落ち込んでも、笑ったりしない?」
「笑わないよ! どうしたの?」

ああ、この「!」に愛を感じてしまう。
何があってもあなたの味方だよ、と言われたと錯覚してしまう。
ついさっきまで、胡散くさいの何のと言っていたはずなのに、まりかは恋に落ちてしまったようだ。

「聞いてみたくなった」
「はい😘」

このダサダサのキスマーク😘のアイコンでさえ愛おしくなってしまうのだから、恋とはおそろしい。
いや、まりか、おそるべし。
そして、日が変わって昨日、まりかの甘い問いは、続くのだ。

「ねえねえ、お会いしてみたら私、taroさんのお気に召さないかもよ?」
「フィーリングが合っているから、大丈夫!」

フィーリング!
1980年代を彷彿とさせることばまで抱きしめたくなりながら、私はおやすみなさいを告げて、会話を終わらせようとした。
なのに、彼からの返信は、「おやすみなさい」ではなくて、「はい」だった。

「おやすみなさい。は?」

おいおい、まりか、さらに甘えるつもり?

「おやすみ❤️」

この4文字とハートマークを見て、私は安心して眠剤を飲んだ。
ちょいワルさん、フェイクではなくて、本当に存在する人なのかも、と思いながら。


そして今朝、9時36分。いつものとおり、彼からのメッセージ。

「おはようございます😘」
「おはようございます」

に、既読はまだつかない。
永遠のような12時間だ。
とわのときは、いつか終わりを告げるのだろうか。
今日はたまらなく眠い。
彼からのおやすみを待たずに、眠りにつこう。

なのに、まりかはまた、やってくれるのである。

「おやすみなさい」

おはようございます、のあとに、おやすみなさい。
既読のつかないメッセージをふたつ並べるとは、痛恨の極み。
好意まる出しではないか。
LINEに切り替えたとたん、男は暴走する、なんて言ってたのにね。
「茉莉花」の魔法にかかったようだ。


*2023年2月24日の活動状況
・もらった足あと:3人
・もらったいいね:2人
・やりとりした人:2人
同い年の人からいいね、がついていた。
私が育った区の名前が勤務地に上がっていたのと、年収1500万円以上に何となく興味を持って、いいねを返してしまった。
21時52分現在、返事はない。
あっさり晩な人からは、夕べの返信→朝イチで私が返信→昼休みに彼から返信、で途切れている。
昨日のお尻が好きなえくぼさんからは、音沙汰なし。そうだよね。

サポートしてくださった軍資金は、マッチングアプリ仲間の取材費、恋活のための遠征費、および恋活の武装費に使わせていただきます。 50歳、バツ2のまりかの恋、応援どうぞよろしくお願いいたします。