穴の中の名探偵【ショートショートnote杯】

　公園近くの防空壕跡に何者かが住みついたと町内で騒ぎになった。見回りを強化したが不審者は見つからなかった。だが、その後も子供達の間で話題になっているようだ。
「クラスの女子が落としたラブレターが添削されて防空壕で見つかったとか、隣のクラスの子の逃げた飼い猫が防空壕の前で見つかったり、あとはーー」
「宿題の分からないところが代わりに解かれていたってやつか？　お母さんに聞いたよ」
「僕も置いてみようかな」
「宿題くらい自分でやれよ？」
　息子が風呂に入った隙に依頼書を取り出す。匿名希望の依頼人と防空壕跡を使って手紙をやり取りしていたのだが、そろそろ潮時のようだ。
　猫はともかく、宿題を解いたのはまずかった。子供達の可愛い悩みから深刻な悩みまで、様々な手紙を机に並べる。
　一つ一つに返事を書いた。
　ある日、防空壕跡が封鎖された。親が強く希望したらしい。返せない手紙と相手を想って胸が痛んだ。