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【#創作大賞2024#ファンタジー小説部門】僕は超能力者になりたい

【あらすじ】
 この世界で僕だけ超能力がない。平凡な両親ですら、超怪力だったり、壊れた物を適当に修復するくらいの力を持っているのに——。高校のクラスメイト達は僕の事を『新人類』と呼び、何かと無駄に高度な技で僕をからかってくる。僕は学校へ行きたくなくて、わざと遅刻をしていったら、甘いクリームがべちゃりとひたいに落ちて来た。最悪だけど、いつも通りの一日の始まりが、誰かの悪意にまみれていたなんて——。




 何かが床に落ちた音と母さんのまぬけな叫び声で目が覚めた。母さんがまた何かを壊したらしい。わざと目覚まし時計はかけずに、うっかり寝過ごしたふりをしようとしたのにトイレまで行きたくなってしまった。何とか尿意をごまかそうと寝返りを打つと、枕元のつぎはぎだらけのペンギンのぬいぐるみが小首をかしげたまま僕を見つめていた。

「おはよう」

 一階のリビングに行くと、父さんがあんバターをたっぷり塗った食パンを美味そうに頬張っていた。

「おはよう、今日は何を壊したの」

「うん、それ」

 父さんの視線の先にはバラバラに壊れた椅子の脚を持って照れ笑いする母さんがいた。

「また、制御装置し忘れたの?」

「うん、ちょっとうっかりしちゃったのよね」

「いつもそう言っては物を壊してるよね」

 ペンギンのぬいぐるみがつぎはぎなのも、実は母さんがうっかりしたせいだ。

「ごめんって。わざとじゃないんだから。あ、パン焼こうか」

「いいよ、自分でやるから。それより、早くそれ付けて」

「分かってるわよ。もうちょっとオシャレなブレスレットみたいだったら忘れないのに」

 そう言いながら、超能力を制御する為の装置——見た目はステンレスのシンプルなバングル——を左腕にはめた。母さんは一言で言えば人並外れた怪力の持ち主だ。夫婦喧嘩の時には家が壊れそうな程だと言うから、二人には小競り合いすらして欲しくない。

「あれだけ迷って選んだ結婚指輪もしないくせに」

 父さんがちょっとつまらなそうに言った。父さんだって、指がむくんで取れなくなると言って特別な日にしかはめないくせに——夫婦って不思議だ。

「ああ、そうだ。これにダイアでもはめ込んでもらおうかしらね。裏にシリアルナンバーも名前も入ってるし、ちょうど良いわ」

 母さんが急に焦った様に言った。

「ちょうど良いってまさか、また結婚指輪を壊したのか?」

「ごめんなさい。従姉妹の娘さんの結婚式にしようと思って、まだ指にはまるかなって試そうと思っただけなのよ」

 母さんの言い訳を聞きながら、パンをトースターに入れ、珈琲の缶を開ける。

「殆ど入ってないじゃん」

 それに、なんとなく床が粉っぽい。

「さっき、母さんが珈琲を淹れようとしてぶちまけたんだ」

「あ、何となく分かった。手を洗う時に制御装置を外したんでしょ」

「だって、珈琲の粉が内側に入り込んじゃったんだもの」

「そして、制御装置を外したまま椅子を尻で踏み潰したと」

「お父さんったら、私は怪獣じゃないんだから。ちょっと人より力が強いだけなの」

「その有り余る力、何か役に立てないものかね。足も速ければ、飛脚便のスターになれるのにな」

「方向音痴じゃなければね」

「本当に残念だ」

 父さんがガサツにガハハと笑った。

「もう、そんなくだらない話してないで、椅子を直してよ。この椅子、お気に入りなんだから」

「分かった、分かった。離れてろ」

 父さんはそう言って、鼻の付け根を指で揉んだ。たちまちバラバラに壊れた椅子が集まり出し、元の姿に戻った。

「お父さん、さすがね! 愛してるぅ!」

「食後の運動にすらならん」

 得意げに珈琲を小指を立てて飲んだ。

「でも、あんまり格好良くないんだけど。何で、鼻を揉むと力が発動するんだよ」

「指を鳴らしたり、首を回したりして色々試した中で、一番集中出来るって発見したんだよ」

 もちろん父さんの腕にも制御装置がはまっている。本人曰く、「こんなもんしなくても完璧にコントロール出来るのに」だそうだ。

「母さん、ジャムも無くなりそうだから買って来てよ。ねえ、聞いてる?」

 母さんは眉間に皺を寄せて椅子から立ち上がった。

「これ、背もたれが前後反対についてるじゃない。お父さんたら、適当なんだから」

「そうか? 最初からそんなもんだったろ」

「全然違うわよ!」

「椅子なんて、座れりゃ良いんだ。おっと、会社に行く時間だ。話は帰ってからな」

「もう、都合悪くなったらすぐそうなんだから。帰って来たら直してよね」

 母さんが壊したくせに偉そうだ。

晴翔はると、お前ものんびりしてないで早く学校行けよ。サボり癖つく前にな」

 ふいに父さんが無骨な手で俺の頭を軽く叩き、家を出て行った。

「痛いなあ、もう。分かってるよ」

 苺ジャムをたっぷり塗った食パンにかぶりついた。

「大地君が担任なのも学校に行きたくない理由の一つなのよね」

「小さい頃に散々泣かされた従兄弟がクラス担任なんて地獄だよ」

「また、大げさな事を言って」

「お母さんだって、あいつがサイコ野郎だって知ってるだろ」

 僕の眠った超能力を目覚めさせるんだと、危機的状況に何度も追いやられた。大人達にどんなに説明しても、皆は遊んでもらって良かったねと笑うだけだった。

「子供の頃はね、自分の力を使ってみたくなるもんよ。でも、今は立派な数学教師じゃない。晴翔の事を気にかけてたわよ」

「大地、また今朝も来てたのか?」

「大地先生でしょ。恵美さんのオムライスが食べたくなったって言ってね。あの子、可愛いところがあるのよね」

「職員寮が近いからって来すぎだろ」

「でも学校の様子を聞けるし——あっ、のんびり話してる場合でないでしょ!」

 我に返った母さんに追い立てられ、重たいリュックを背負う。

「……行って来ます」

 どんなにのんびりしたって、自宅から高校まで徒歩五分で着いてしまう。

「ドカ雪でも降らないかなあ」

 外へ出ると、溶けそうな程の熱風が襲った。

 まだ、六月だと言うのにすでに真夏並みの暑さだった。腕にはめられた制御装置の内側に汗がつっと流れ込んだ。自分や周りの人を傷つけない為の制御装置は、学生証としての機能がなければ、自分にとってただ重苦しいだけの物だ。

 当たり前に備わっているはずの超能力が、僕には無い。

「サボり癖か」

 学校の予鈴が鳴り、バタバタと急足で駆けて行く生徒の背中を重い足取りで追いかけた。

   *

 高校入学してすぐ、自分が普通と違う事を思い知らされていた。超人ばかりのクラスメイトに馴染めるはずもなく、父さんが心配した通りどうしたらサボれるかと、そればかり考えていた。

「おい、もうすぐ本鈴がなるぞ」

 プリントを抱えた教師が僕を見咎めて叫んだ。

「はーい」

 投げやりに返事をして、上履きに手を伸ばす。

「うわっ」

 もふっと温かい手触りがして慌てて手を引っ込めた。恐る恐る下駄箱を見ると、中に丸々と太った白い鳩が我が物顔でくつろいでた。

「くそ、またかよ」

 昨日は机の中に黒猫が潜んでいるのに気付かずに手を突っ込んでしまい酷い目にあった。何故かクラスメイト達は僕にありとあらゆるくだらないイタズラを仕掛けて来る。

「お前も簡単に捕まってるんじゃないよ」

 とぼけた顔の鳩をむずと捕まえて外に放つと、ひたいにべしゃりと何かが落ちて来た。

「助けたお礼がこれかよ!」

 鳩のフンだと思って慌てて拭くと、それは甘いクリームだった。

「もう嫌だ、こんな学校……」

 ため息混じりでその場に座り込むと、何処からか男の野太い悲鳴が聞こえた。

「なんだ? チャレンジャーか?」

 多感な年頃の超能力者達を守る為に、学校の周辺には様々な仕掛けが施されている。あえて、そこを通ろうとする者を畏敬の念を込めてチャレンジャーと呼んでいた。初めは遅刻の罰則を恐れるあまり、こっそり塀を乗り越えようとして、防犯ネットに引っかかった生徒に付けたあだ名だったらしい。

「巻き込まれるのも面倒だなあ」

 辺りを見渡したがそんな生徒は見当たらない。気のせいという事にして、半袖シャツの襟についたクリームをティッシュで拭う。甘酸っぱい苺の香りがした。

「そこの、呑気そうなやつ! こっちに来て助けてくれ」

「えっ」

 今度ははっきりと聞こえた。気になる言い回しだが、向こうから自分が見えているとなると、無視をするのは得策ではない。あとで、何をされるか分からないからだ。面倒ではあるが、少しでも教室へ行くのが遅くなるなら手を貸しても良いと思った。

「えーと、どこですか?」

「木の上! すげー、デカいやつ」と、やけくそ気味の声が返って来た。

 学校の防衛上、全てが大木だ。

「どの辺りですか? 木の特徴を教えて下さい。木肌がゴツゴツしてるとか、樹液が出てるとか、鳥の巣があるとか、何かないですか」

 校庭で過ごす内に詳しくなってしまったのだ。

「詳しくって言われてもなあ。俺からしたら全部が同じ木に見えるよ」

「場所を特定したいんですよ。何が見えますか」

「あっ、体育館の前にある真ん中の木だ! 倉庫にある梯子を持って来てくれ! 用務員の小島さんには絶対に見つかるなよ。勝手に道具を使うと物凄く怒るんだ」

 当たり前だろと思いながら、

「分かりました。少し待っていて下さい」と、仕方がなく答える。

 備品の場所を知っているならば、上級生かもしれない。ますます面倒な相手だ。

 体育館横の倉庫は鍵が開いており、幸か不幸か用務員の小島さんはいなかった。

「ちょっとお借りしますよと」

 伸縮梯子を持ち出し、言われた通り体育館前の大木に梯子をかけた。樹木ラベルには『もちの木』と書いてあり、それによると高さ十八メートル、幹の太さは四メートルもあるらしい。

「梯子持って来ましたが」

「助かるわ。着地に失敗して足首をひねったんだ」

 右足を痛そうにしながら梯子を降りて来た大柄な男は、日焼けした健康的な肌と青い目をしていた。いきがってカラコンをしているのではなく、超能力を使う事で身体的に変質するものらしい。

「三年の黒田悟だ」

「一年の千葉晴翔です。なぜ木の上に?」

「誰にも言うなよ」

「言いません」

 こんな面白い事を告げ口する相手がいないのは実に不幸だと思った。

「好きな女にサプライズする為の練習で事故ったんだ。俺の能力はテレポート(瞬間移動)なんだ。彼女の誕生日に、ケーキを持って現れてバースデーソングを歌いながら告白するっていう計画だ。思い通りの場所に出るって難しいんだぞ。それに何度やってもケーキと離れ離れになってしまうんだ」

「もしかして、今日もケーキを持ってました?」

「ああ! どこ行った、俺のケーキ!」

 ひたいに落ちて来たクリームはケーキの残骸だったらしい。

「空中でバラバラになっちゃいましたかね」

 黒田さんはうなだれ、首を振った。

「あの、普通に歩いて行けば良いのでは?」

 黒田さんは分かってないなと、馬鹿にした様に笑う。

「女はびっくりするのが嬉しいんだろ?」

「はあ」

 黒田さんはサプライズというものを誤認識している。指摘しようかと口を開きかけたが、授業を知らせるチャイムが鳴ってしまった。

「千葉君、ありがとな」

 黒田さんは自身ありげな笑みを浮かべ、目の前から消えた。

「ちゃんと教室に戻れるのかな」

 背後で野太い叫び声とバッシャーンと外のプールに落ちた音がした。

「だから、歩いて行けば良いのに」

 これ以上、面倒に巻き込まれない様にそそくさと学校内へ入った。

   *

 二階にある一年のクラスは四つある。その内、AからCは普通学級だ。

「こら、遅刻だぞ」

 後ろからクラス担任であり、数学教師の三浦大地がプリント類を抱えてやって来た。

「スミマセン」

「こう、遅刻が続くようならご両親を呼ぶ事になるぞ。面白がるだろうなあ」

 大地が従兄弟の顔に戻ってニヤリと笑う。

「うわ、絶対に嫌だ」

「だったら、不貞腐れてないで、ちゃんと来いよ。あっ、返却するテスト持ってくるの忘れた。席に着いてろよ」

「はーい」

 大地が慌てて職員室に戻るのを見送って、一番奥の古びたドアの前に立つ。手書きの『D』というクラスが僕の教室だ。

「入らないの? それとも身体が動かないの?」

 小柄で色白の瀬名夕葉ゆうはが無表情で言った。

「ごめん。瀬名さん」

 ドアを開けて慌てて中に入る。 

「別に怒ってない」

 夕葉からふわりと甘い花の様な香りが漂った。

「夕葉、千葉君が好きな匂いだって!」

「えっ」

 夕葉がちょっと顔を赤くして、早足で自分の席に行ってしまった。

「川崎さん、勝手に人の心を読んだ上に曲解するのはやめてよ」

 晴翔の隣の席で笑うのは、テレパスの能力を持つ川崎奏子そうこだ。

 にやにやと笑みを浮かべる奏子を無視して、一番前の席に座る夕葉の元へ行くとやはり花の香りがした。

「匂い袋なの」

 小声でブレザーのポケットから淡いピンクの小袋を取り出して見せてくれた。確かにそこから香りが漂って来る。

「何の匂い?」

 夕葉がちょっと考えるそぶりをした。

「あっ、言えないなら無理に言わなくて良いよ」

 考えてみたら、使っているシャンプーや香水の匂いをただのクラスメイトに聞かれたら嫌だろう。嫌悪感すら抱くかもしれない。

「そんなことないと思うけど」

 テレパス奏子がまた僕の心を勝手に読んだ。

「だからさあ——」

 奏子に抗議しようと口を開きかけて、夕葉が僕を見つめているのに気づく。

「あの、気を悪くした?」

 夕葉がぷるぷると頭を振る。

「あのね、うちの秘伝のレシピだからあまり詳しい事は教えられないけど、季節の植物を何種類か混ぜて——を封じ込めた悪霊避けのお守りなの。良い香りに感じる?」

「えっ、うん」

 聞き取れなかった部分がすごく気になるが、指摘しない方が身のためかもしれない。奏子も知らん顔で教科書を眺めている。

「そっか。これが良い香りに感じるなら、きっと千葉君は善人なんだろうね」

「サボり魔の癖にピュアって事?」

 奏子があっさり教科書を閉じて言った。

「それだって理由があってこそよね?」

 二人にじっと見つめられて居心地悪い。

「いや、まあ……。それより、その匂い袋、人によって感じ方が違うの?」

「悪霊や悪い考えにとりつかれた人にとっては我慢出来ない香りみたい。それが、どんな香りなのか私には分からないの」

 夕葉は霊能者の家系でありながら、その能力にはムラがあり、Dクラスに甘んじていた。

「私は家業を継がないからいいの」

「瀬名さんも心を読めるの?」

「読まなくても顔を見たら分かる。千葉君、利用されやすい性質だから気をつけてね。そうだ、これあげる」

 鞄から薄い緑色の匂い袋を取り出した。

「中身は少し違うけど、効果は殆ど同じだから」

「ありがとう。でも、大事なものなんでしょ。貰っちゃっていいの?」

 夕葉が真面目な顔で僕の肩に手を置いた。

「千葉君みたいな霊に取り憑かれやすい人にこそ効果を試してしいの。今後、通販サイトで売るつもりだから」

「そうなんだ。頑張ってね」

 おとなしいと思っていた夕葉の意外な面を見た気がした。ポケットに匂い袋をしまうと、大地がプリントを抱えて入って来た。

「先週のテストを返したら、小テストをやるぞ。みんな大好きサプライズだ!」

 ここにもサプライズの使い方を間違っている人間がいた。皆が不平不満の声をあげる中、夕葉は険しい表情で窓の外を見つめていた。

「わっ、カラス。何か食べてるぞ」

 窓際の生徒達が騒ぎ出した。

「何だ?」

 大地も険しい表情で窓際に駆け寄る。ギャアギャアとカラス達が寄ってたかって宙に浮く何かをついばんでいる。

「誰か弁当を取られたか?」

 間抜けだなあとクスクスと笑う者もいた。

「先生、でもちょっと様子が変」

 夕葉が先ほどの匂い袋を握りながら言った。その瞬間、クラスの雰囲気がサッと変わる。夕葉の霊能者としてのセンサーに引っかかったらしい。でも、僕にはカラス達が食べているのが、空飛ぶケーキだと察しがついていた。告げ口するみたいで気が引けたが、皆の不安そうな表情を見たら黙っていられなくなった。それ程、夕葉の力を皆が信じているのだ。

「三年の黒田か。あとで厳重注意だな。さあ、小テスト始めるぞ」

 大地が窓から目を離し、そう宣言すると皆が安堵のため息を吐いた。

 黒田さんが厳重注意で済むのは、超能力者として優秀だからだ。僕が問題を起こしたとしたら、退学になるに違いない。皆は自嘲を込めてこのクラスは落ちこぼれの集まりだと言うが、僕に言わせれば十分すぎる能力を持っていた。僕の家系で何の能力も持たずに生まれて来たのは今のところ僕だけだ。もしかしたら、この先の未来では超能力なんて無くなっているかもしれない。僕の事を陰で『新人類』と笑う人達がいる世界では、そんな風に思わないとやっていけなかった。

「あと十二分だぞ」

 その声にはっとして、慌てて問題文に目を通す。復習していた箇所から解いていき、何とか六割は回答出来た。

「終了! 後ろから回収して」

 赤点は何とか免れそうだ。

「最初、フリーズしてたでしょ。黒田さんの事を先生に告げ口したの気にしてた?」

 奏子が心配げに言った。

「いや、僕が言わなくても誰かが見てたんじゃないかな」

「それはそうかもね。黒田さん、良くも悪くも目立つ人だし」

 奏子が肩をすくめる。

「カラスいなくなったね」

 空飛ぶケーキも跡形もなく消えて、カラス達も散り散りになったみたいだ。

「ほら、いつまでおしゃべりしてるんだ。教科書とノート出して。昨日の続きから」

 こうして、日常に戻るはずだった。

    *

 二時間目の芸術の授業は音楽、美術、書道に分かれ、他のクラスの生徒と合同して行われるが、Dクラスの生徒達と積極的に交流を持とうとする者はいなかった。

 僕は人前で歌を歌うのは苦手だし、字も壊滅的に下手だ。そうなると、消去法で得意ではない美術を選ぶしかなかった。

「独特な世界観ね」

 夕葉が僕の描いた自画像を覗き込んで言った。

「気を遣ってくれてありがとう」

「本当にそう思ったのよ。ほら、この歪んだ輪郭線なんて、心の内側がよく表現されていると思う」

「えっ、そうかな」

 そんな複雑な想いなんか込めてないが、そう言われると悪い気はしない。

「でも、客観的に自分自身を見つめるって、キツイ作業よね」

 夕葉が自分の自画像を睨むように言う。繊細なタッチで描かれた夕葉は何故かハーブらしき植物と珊瑚色の数珠を握りしめていた。

「まだまだ修行がなりないって事ね」

 そして、深いため息を吐いた。

「確かにね。鏡を見続けるのってあんまりないよね」

 ヒーリング能力に長けた田口愛美が大きな三面鏡をパタンと閉じた。色んな角度から見た愛美が一つの絵に組み合わせてあり、まるでテクノミュージシャンのCDジャケットだ。

「そんな鏡を持ち込んでおいてよく言うよ。田口さん、自分大好きだよね」

 透視の能力を持つ西田智希が、煩わしそうにメガネを外して眉間を揉んだ。

「西田君こそ、能力丸出しの絵なんか描いて。自分は非凡だって言いたいんでしょ」

「仕方ないだろ。俺にはこう見えたんだから」

 気になってそれとなく見たら、頭蓋骨にメガネがかかっていた。

「透視って、こういう事なの?」

「メガネがアイデンティティなのね……」

 夕葉がぽつりと言った。

 アイデンティティ——その言葉がやけに胸に刺さった。

「それに、非凡だなんて思ってないよ。千葉君みたいな人がそういうんじゃないか」

「えっ、僕?」

「だって、君って『新人類』なんだろ」

「それ、ただの悪口だから」

「そうなのか?」

 突然、振られた愛美は困った様に笑う。

「俺はてっきり、こんなもの無くても人は生きていけるって証明だと思ったよ」

「そんな、大げさな……」

「そうかな。超能力で社会貢献している人の方が稀だと思うけど。少なくとも俺は、超能力で飯を食っていこうなんて考えないね」

 そう言って頭蓋骨のメガネを指でなぞった。彼はちょっとナルシスト気質らしい。

「いや、でもさ。そんな大きな事じゃなくて、家族とか友達がピンチな時に超能力があれば助けられるんじゃないかって思っちゃうよ」

「千葉君、三年の黒田さんを助けたんでしょ? 超能力関係ないじゃん」

 愛美がポケットからコームを取り出して前髪をとかしながら言った。

「まあ、そうだけど」

「上手く超能力を使えない黒田さんと、ピンチの黒田さんに梯子をかけてあげた千葉君、どっちが凄いんだろうね」

「——それは」

 僕は答えられなかった。確かに今回は僕が役に立てたけど、いつも上手く行くわけじゃない。それに、黒田さんは、これからいくらでも自分の力を伸ばす事が出来るはずだ。

「千葉君は千葉君だよ」

 夕葉が慰める様に言った。

「ありがとう」

「だから、今日の体育も頑張ろうね」

「……うん」

    *

 体育という名の術鍛錬の授業では、それぞれ与えられた課題をクリアする事により、持っている能力をコントロール出来る様になるのを目的としている——はずだ。心技体をバランスよく鍛えるという目的で、障害物競争やサバイバルゲームが取り入れられていた。

「何で僕ばっかり狙うんだよ!」

 網の中をもがきながら進む僕の後ろから、ホラー映画さながらに四つん這いの女が凄い勢いで追いかけて来る。

「怖いって!」

 四つん這いの女は髪の毛を振り乱し、僕の身体を通過すると、コースを外れてボルダリングを登って消えた。

「あれ? 行っちゃったよ」

「今度こそ上手く行ったと思ったんだけどなあ」

 幻惑を作り出す能力のある山上浩明が首をかしげた。

「追いかけられるならもっと可愛いものがいい……」

「可愛いもの? お菊人形とか? あっ、茶運び人形も良いかも」

「何でだよ! どれも嫌だよ。一体、何がしたいんだよ」

 浩明がその質問を待ってましたとばかりに笑みを浮かべる。

「千葉君の逃げ足ってさ、鍛えたらもっと早くなるんじゃないかと思うんだ」

「はあ?」

「その為にはゴールまで幻惑を保てるようにしなきゃ……」

 浩明はぶつぶつ言いながら、ノートに何かをメモしていた。

「先生からどんな課題を与えられたんだよ」

 始まって間もないのに、すでにぐったりだ。

「千葉君、ゴール目指して頑張って! 平均台なんて走って渡ればすぐだよ」

「……何もなければね」

 誰が仕込んだのか、平均台に沿って頭上にパン食い競争のパンが一列に並んでいた。

「このパン、爆発しないよね?」

 浩明はシャドーボクシングのポーズをする。

「こんな風によけていけば」

「いや、思い切りパンチしてんじゃん!」

 動物の形をしたパンが風もないのに不敵に揺らめいていた。

「すごく嫌な予感がする」

「ファイト!」

 いつの間にか僕の周りにギャラリーが出来ていた。皆、早々とゴールして、僕を全力でいじる気だ。

「もう、ヤケだ!」

 僕は平均台に上がり、パンに体当たりした。

「ニャーン」

 三毛猫の顔のパンから猫の声がした。

「ん?」

 ライオンパンからはライオンの吠える声がした。

「あ?」

 振り向くと、皆が笑いを必死に堪えていた。

「あのね、自分でも驚くほどパンが上手く焼けたの。それで、動物の鳴き声が聞こえたら可愛いかなって」

 皆の後ろからおずおずと佐々木千里が出てきた。彼女は生きていないものなら、様々な音声を吹き込む事が出来る。

「もちろん、パンとして美味しく食べられるから、あとでみんなに配るね」

 そう言った瞬間、蜘蛛の子を散らすみたいに去って行った。

「えっ、何で? こんなに可愛いのに」

「だから、食べにくいんだと思うよ」

 千里は潤んだ目で僕をじっと見た。

 今日も散々な目にあった。ぜーぜーと息を切らしながら水を飲む僕に、夕葉がそっとタオルを差し出してくれた。

「千葉君、今日もお人よし全開だったね。だから、みんなに実験台にされちゃうんだよ。パンも結局、全部引き受けちゃうし」

 夕葉は自分の事を棚に上げて、憤慨している。

「もう無茶苦茶だよ……」

 ゴロンと寝転がると、指先に触れた猫パンがニャーンと鳴いた。

 僕の唯一の武器はとにかく走って逃げる事。それを面白がってか、分身の術や幻惑の力で行く手を邪魔する者もいれば、鳩や猫を召喚して足止めをする。とにかくまともに競技なんて出来るはずがなかった。

「クリーチャーだらけの森に丸腰で放り込まれる様なものだよ」

「私もクリーチャーなの?」

 夕葉が悲しげによろめいた。

「えっ、いや、違うよ」

 慌てて言うと、夕葉は満足そうに微笑んだ。

「はい、絆創膏。ヒーラーの愛美ちゃんがいればそんなすり傷、あっという間に治してくれるんだけど」

 愛美が休み時間に三面鏡に顔を突っ込んで、シンデレラごっこしていたのはちょっと怖かった。

「かすり傷の為に貴重な力を使ったら勿体無いよ」

 夕葉がぷっと笑う。

「そんな事を言うの、千葉君だけだよ」

「だって、一日に使える力には上限があるでしょ。何かあったら困るだろうし」

 夕葉はうーんと考える素振りをする。

「そっか。千葉君はロマンチストなんだね」

「僕がロマンチスト?」

 思ってもみない返答に戸惑ってしまう。

「二人共、そろそろ着替えないとホームルームに間に合わないよ!」

 先に着替え終わった奏子が体育館を出て行った。

「千葉君、急げる?」

「無理」

 膝がガクガクして歩くのもままならない。

「おじいちゃんみたい」

「毎回、体育の度に言われるね」

 ヨボヨボと歩く僕を労りの目で見た。

「意地を張らないで治してもらいなよ」

「……うん」

 何とか着替え終え、教室に戻ると大地と話していた用務員の小島さんが大きな袋を持って出て行った。

「大地——先生、何かあったんですか?」

「うん、ちょっとな。みんな、席に着いて」

 大地の表情は硬く、クラスメイト達もいつもと違う雰囲気に戸惑っていた。

「今朝、カラス達が何かを食べていたのを見たと思う。調査をしないとはっきりとは分からないんだが、校庭で数羽のカラスが飛べない状態で発見された」

 今度は、はっきりと皆に動揺の色が見えた。

「それって、黒田さんのケーキに何かが入ってたという事ですか?」

 ざわめく中、奏子がスッと手を挙げ、凛とした声でそう発言した。

「もちろん、黒田には聞き取りをする。でも、まだ彼がやったとは決まっていない。だから憶測で噂話を広げるんじゃないぞ」

「分かりました」

 奏子はしおらしく頷いた。

「それから、友達同士でも飲食物のプレゼントなどはなるべく控えるように。反論はあるだろうけど、念の為の措置だ」

 動物パンを焼いてきた千里がそわそわしながら僕を見た。

「私は絶対そんな酷い事しないよ。だけど、何かあったら大変だから」

 ホームルームが終わると千里が動物パンを泣きそうな顔で回収しにやって来た。

「分かってる。佐々木さんがそんな事するわけないよ」

「色んな意味で罪作りよね、黒田さん」

「とばっちりね」

 奏子と夕葉がやって来て、パンが入った袋を覗き込む。

「体育の時はノリで遠慮しちゃったけど、食べていい?」

 奏子がパンを机に並べて言う。

「色んなパンがあって迷っちゃうね」

 夕葉が猫パンを選び、奏子がウサギパンを手に取った。

「ウサギの声って案外渋いのね」

「じゃあ、僕は……」

 象パンを割るとパオンと鳴き声がした。

「みんな、どう? 何ともない?」

 千里が心配そうに皆の顔を見た。

「美味しい! 中身はミートソース?」

 猫パンを二つに割って食べた夕葉が感心した様に言った。

「ウサギパン、とっても美味しい。それに、抹茶の良い香りがする」

 それを聞いて、千里がやっと笑みを浮かべた。

「良かった。ありがとう」

「うん、美味しい。象パンも抹茶味なんだね」

「僕にもちょうだい。腹減った」

 茶汲み人形の絵を描いていた浩明がこちらの様子に気付いてやって来た。

「千葉君、待ってろ。もっと、走れる様にしてあげるから」

「待ってねぇー」

「そう言うなよ。飛脚便のエースになれるかもよ」

 浩明は真面目な顔を崩さずに言って、黄色っぽい鳥の形をしたパンを手に取る。

「それは、オウムパン。かぼちゃの粉を混ぜてるのよ。実は、動物の種類で味を変えてるの。分かる?」

「あっ、もしかして肉食動物は中身がミートソースだったりして?」

 奏子が自分のひらめきに感動している。

「正解。象とうさぎは草食動物だから抹茶パン」

「へえ、凝ってるね」

 体育の時、雑に扱ってしまった事に申し訳なくなった。

「黒田さんが用意したケーキがどんな物か分からないけど、食べ物を人を傷つける為に使ったのなら許せないな」

「千里ちゃん、呪うなら手伝うよ」

 夕葉が匂い袋と珊瑚色の数珠をさっと出した。

「ちょっと、二人共、先走らないで。先生も言ってたでしょ? まだ、黒田さんの仕業かどうかは分からないって」

 奏子が呪文を唱え出しそうな夕葉を慌てて止めた。

「だけど、黒田さんじゃないとしたら、誰かがケーキに細工した事になるよね?」

 浩明がうーんと考え込む。

「黒田さんに恨みを持つ人とか?」

 今朝の様子を思い出しても、そんなに恨まれる人には見えなかった。

「怨みねえ……。あの人、何でだか分からないけどモテるんだよね。色々ありそう」

 奏子がそう言うと、浩明は心当たりでもあるのか嫌そうに顔をしかめた。

「大きな声じゃ言えないけど、うちのクラスにも『お気に入り』がいるらしいよ」

「なら、容疑者は多そうね。うまく、絞れるかしら」

 夕葉のその一言に、誰もが息を呑んだ。

「も、もう! 夕葉ったら、容疑者だなんて怖い事言うんだから」

「だって、もし黒田さんのサプライズが今日だったら、黒田さんの恋人が食べてたわけでしょう? 仕込まれたのが毒なのか、呪いなのかは分からないけど、大変な事になってたかもしれないよ」

「……倒れていたのはカラスじゃなくて、黒田さんとその恋人だったかもしれないんだ」

 千里はその様子を想像したのか、さすがに同情心を見せた。

「かわいそうなカラス達……」 

 夕葉につられて窓の外を見ると、数羽のカラスがバサバサと飛んでいくのが見えた。

「あのさ、みんなで調べてみようか」

 僕は思わずそんな事を口にしていた。

「おお、千葉君がやる気だ」

 皆が妙に嬉しげに僕を見つめていた。

「おい、まだ帰ってなかったのか。用事がないなら早く帰れよ」

 大地が一人の生徒と連れ立って教室に入って来た。同じクラスの原乃絵瑠のえるだ。僕達を見て、一瞬、顔をこわばらせた。

「野々原も調べ物があるとか言ってたが、今日は早く帰れ」

 そう言って、大地は忙しそうに教室を出て行った。

「奏子ちゃん達はどうしたの?」

「えっと、帰るところ。乃絵瑠は、図書室?」

「うん、週末に読もうと思って」

「乃絵留はクラス一番の読書家なんだよ。分厚い専門書とかも読んだりして。ね!」

「奏子ちゃん、恥ずかしいよ。私はただ、調べたりするのが好きなだけで……」

 乃絵留が、千里の動物パンをちらりと見た。

「ああ、千里の手作りパンをみんなで食べてたんだ。美味しかったよ。乃絵留も一つもらう?」

「良かったら」

 千里が袋を広げて乃絵留に差し出した。

「大地先生も案外、いい加減だね。没収くらいすれば良いのに」

「えっ」

 乃絵留の吐き捨てる様な言い方に、皆が顔を見合わせた。

「千里ちゃんも黒田さんの『お気に入り』だったよね。千里ちゃんを疑ってるわけじゃないけど、私は遠慮しておく。じゃあ、奏子ちゃん、また明日ね」

 乃絵留は奏子にだけ手を振って、リュックを背負うと教室を出て行った。

「ごめん。あの子、人見知りで、私とは普通に話すんだけど」

 唖然とする皆に、奏子が困惑顔で言った。

「何あれ、感じ悪っ!」

 怒りにまかせてパンの入った袋をトートバッグに押し込んで帰ろうとした千里の肩にそっと夕葉が手を置いた。

「千里ちゃん、今のはどういう事かしら。説明してくれる?」

 千里が真っ青な顔でブルブルと手を振る。

「いや、あのね。乃絵留ちゃんは、勘違いしてるんだよ。黒田さんと話しているところをたまたま見られただけで!」

「それだけなら逃げる必要ないだろ」

 千里がため息をついて、浩明がひいた椅子に素直に座った。

「私、お菓子とかパンを作るのが好きなのね。その時はクッキーだったかな。放課後に校庭でクラスの子と食べている時に、たまたま居合わせた黒田さんにもあげたの」

「何だ、そんな事か」

「それなら、今の僕達と同じだね」

 千里が居心地悪そうに頭をかいた。

「あのね、それが一度きりじゃなかったの」

「え?」

「だって、すごく喜んでくれるんだもん。それで、特に何も考えずにカップケーキとかゼリーとか、黒田さんがリクエストする物を作ってあげちゃった。もちろん、本命の彼女がいるって聞いてからあげてないよ」

 千里が慌てて付け足した。

「じゃあ、うちのクラスの『お気に入り』は、千里なの?」

「裏切られた気分だわ……」

「違う違う! 本当に私は自分が作った物を美味しいって食べてくれるのが嬉しいだけで、黒田さんが好きだったわけじゃないの」

「つまり、食べてくれるなら誰でも良かったと。何だ、黒田さんも大した事ないな」

「山上君、嬉しさのあまり悪い顔してるよ」

「分かりやすいわね」

 奏子と夕葉が呆れたように笑った。

「黒田さんが甘い物好きなのは、割と女子達には知られてる事だし、他にもプレゼントしてる子はいると思う。ただ——」

 千里の表情が曇る。

「黒田さんが本命の彼女と付き合い出して、その『お気に入り』の子達がその後どうなったかは分からないんだよね」

 それは、黒田さんに良いように扱われた事に納得していない女子がいるかもしれないという事だ。

「これ以上、学校にいたら本気で怒られそうだから、今日のところは帰ろうか」

 外で教師達が集まって、相談する声が聞こえたのをきっかけに、渋々皆がカバンを持って立ち上がった。

「じゃあ、また明日ね」

「うん、バイバイ」

 帰り道が同じ方面だという千里、夕葉、浩明は三人で帰って行った。

「ねえ、もうちょっとだけ話せない?」

 奏子がずっと気になっているカフェがあると言う。どうせ家に帰っても、今日の事が気になって宿題が手に付かないだろう。

「いいよ。どこ? もしかして、僕の家の近くかも」

「新人類ってカフェ、知ってる?」

 奏子が満面の笑みを浮かべた。

   *

「十五分くらい歩くけど、落ち着いてて内緒話するには良いと思う」

 奏子は迷わずにずんずんと住宅街へ進む。

「内緒話って? さっきの話の続きなんだよね」

「まあまあ、話は着いてからにしようよ。そこのメニューにさ、美味しいパフェがあるんだ」

 奏子の言葉通りに十五分程で着いたのは古民家カフェだった。

「『新人類』っていう店名、千葉君にぴったりでしょ?」

「そりゃどうも」

 木製ドアを開けると、黒光りする重厚な柱が見えた。元々あった囲炉裏は潰され、子供が中央で遊べるスペースになっていた。もうすぐ四時、ほどほどに混んでいたけど、運良く窓際の席に座る事が出来た。

「お呼びの際はベルをお鳴らし下さいませ」

 少し無愛想な女子店員は、腕に店名入りの制御装置を付けていた。多くの飲食店ではトラブル防止の為に義務化している。その反面、超能力を売りにしている夜の店も少なくない。

「レトロで可愛い」

 奏子は金色のベルをチリンチリンと鳴らした。僕はアイスコーヒー、奏子はマロンパフェを注文した。  

「黒田さんのサプライズ決行の日っていつなのか聞いた?」

「えっ? いや、いつとは言ってなかったなあ」

 それに、その時は迷惑な人だと思って、ろくに話を聞こうとしなかった。

「先生達にはきっと話してるよね」

「まさか、大地から聞き出せって言ってる?」

 いつもは軽口な大地でも、今回ばかりは話してくれなさそうだ。

「まあ、黒田さん本人に確かめれば良いんだけど、流石にこのタイミングだと警戒しそうだよね」

「最悪、僕達が犯人にされそう」

「前提として、黒田さんが犯人ではないって事で良いのよね?」

 奏子はマロンパフェのクリームをすくって食べた。僕もアイスコーヒーにガムシロップとミルクをたっぷり入れて一口飲む。

「さすがに、それは無さそうだけど」

 本命の彼女に毒入りケーキをサプライズするなんて、猟奇的すぎる。

「だよね。黒田さんはサプライズの為に予行演習してたわけでしょ?」

「そうだね。あの話ぶりだと何度かケーキを持って彼女との待ち合わせ場所に現れる練習をしているみたいだったし」

 そして、まだそれが成功に至っておらず、ケーキは別の場所へ行ってしまうと言っていた。

「待ち合わせ場所って、屋上かな? あそこ、告白のメッカでしょ」

「え、そうなの?」

 黒田さんの落下地点とカラス達が騒いでいた場所を考えると、体育館か屋上のどちらかの気がした。

「千葉君、怖い事を考えちゃったんだけど」

「何?」

「黒田さんが練習に使っているケーキってさ、『お気に入り』の子が作ったものだったりしないかな」

「えっ、それは流石にひどくない?」

「それでね、『お気に入り』の子は、自分の作ったケーキが本命にサプライズする為の実験台として利用されたと後で分かったら、怒るよね?」

「ショックだし、キレるかも」

 奏子はうんうんと頷く。

「それで、黒田さんに渡すケーキに毒を入れたんじゃないかな」

 カランとアイスコーヒーの氷が鳴った。

「僕も色々考えたけど、ケーキをすり替えたりするより確実で、簡単な方法だよね。ただ、黒田さんにケーキを渡せば良いんだから」

「でも、それだと自分が毒を入れましたって告白してる様なものじゃない?」

「そっか、そうだよね。黒田さんはサプライズのつもりなんだから、本命の彼女に見られない様に、『お気に入り』の子から受け取りたいよね」

 言葉にしてみると、黒田さんが姑息で嫌な性格に思えてくる。

「何だか不自然だなあ」

 一番簡単な方法が、一番事実と遠い気がした。

「どうやって、毒入りケーキが黒田さんの手に渡ったかはひとまず置いておいて……。肝心の毒についてはどう思う?」

 奏子がホイップまみれの栗を美味しそうに頬張った。ホイップクリームを見るとなぜか、額のあたりがヒリヒリした。

「毒って、超能力で作れるのかな?」

「私は聞いた事無いけど、そういう能力者がいないとも限らないと思う」

「うちのクラスにはいないよね?」

「全て、自分の超能力を申告していればね」

 クラスの皆の顔を思い浮かべる。それぞれ個性は強いけど、人をむやみに傷付ける人間がいるとは思えない。

「私も信じたいけどね。でも、私達って人としても、超能力者としても未熟じゃない?」

「どうにもコントロール出来ない事もあるね」

「私だって、急に飛び込んで来る強い気持ちは我慢して聞くしかない時もあるんだよ」

「そうなんだ」

 テレバスゆえにクラスメイトの聞きたくない言葉を受け止めるしかない時もあるのだ。

「千葉君、私、また変な事を考えちゃったんだけど」

「えっ、何? 怖いんだけど」

 奏子がまたうんうんと頷く。

「どうにか毒を手に入れた犯人は、次に何をすると思う?」

「何って、使うんでしょ? ケーキに仕込んで……あれ?」

 犯人はサプライズの練習をしているのを知っていて毒を仕込んだとしたら、またそれも妙だ。

「いきなり毒を使うって、さすがに犯人も怖かったんじゃない? だから、どの程度の毒性があるのかをカラス達で実験したんじゃないかって思うの」

「あっ、確かに……」 

「だからね、この犯人は浮遊術を使って、毒入りケーキを宙に浮かばせておいた。誰かに見つかっても、黒田さんのせいに出来ると考えたのかも」 

「なるほど」

 念じるだけで物を浮かび上がらせる事が出来るサイコキネシスと呼ばれる超能力者が同じクラスに複数人いる。その中に犯人がいるのだろうか。

「分かんない事だらけね。やっぱり、素人探偵じゃ、問題解決なんて出来ないね」

 奏子が残りのマロンパフェをたいらげた。

「いるかどうか分からない人間に毒を作らせるより簡単な方法があるよ」

 僕もアイスコーヒーを飲み干した。

「どんな方法?」

「いわゆる、闇サイトだよ。毒でも爆弾でも買える」

「はあ?」

 幸せに生きている人間には知る必要もないサイトだ。

「そこでなら、きっと手に入る」

 探る様な目で僕を見た。

「読まれるくらいなら自分で話す」

 奏子はニュートラルな目に戻った。

「家族も親戚も友達もみんな、何かしらの能力を持ってる。川沿いを歩けば、知らないお爺さんが飼い犬を抱っこして空飛んでる。子供が触れずにボールを飛ばしている。そんな時、たった一人で宇宙からやって来た宇宙人みたいな気になるんだ」

「まさか、辛くなって毒を買ったの?」

「結局、怖くなってやめたよ」

「それが普通だと思う。毒を買う人は相当の覚悟があるのよ」

「カラスの苦しむ姿を見て、目が覚めるかもしれないよ」

「毒の効果は絶大だと確信を持ったかもしれないわ」

 奏子の言葉はじわじわと蝕んでいく毒の様に不安が胸に広がっていった。

    *

 次の日、数名が欠席していた。昨日の騒ぎのせいで、本人か家族の判断で欠席する生徒もいても仕方がないのかもしれない。

「賢い選択かもしれないわね」

 奏子が悟った様に言う。

「もしくは、狙われる理由があるかね」

「うわ、瀬名さん」

 夕葉が後ろからぬっと現れた。

「気配を消す練習はマルっと」

「何でもかんでも僕で試すのやめない?」

「千葉君、ちゃんとお守り持ってるよね」

「え? うん。ポケットに」

「首から下げられるようにオプションを設定しようかしら」

 顔色を読まれたらしい。

「嫌なモノがうごめいている気がするのよね」

「——という事は、とても調子がいいのね」

「最近、張り合いが出来たから」

「ふうん」

「二人とも何の話?」

 にやにやと笑う奏子の後ろで、どさりとカバンが落ちて来た。

「あら」

 奏子がカバンを持ち上げる。

「どうだった?」

 勢い勇んで教室に入って来た駒田渉が、奏子の手にあるカバンを見てガックリとうなだれた。渉は、アスポート(物体移動)という能力を持ち、今は教室の外から自分の机にピンポイントで移動させる事に取り組んでいた。

「おかしいなあ。鳩と猫は千葉君の下駄箱に上手く移動出来るのにな」

「えっ。あれ、駒田君の仕業だったのかよ」

「うん。最初は偶然だったんだけど、二度目は狙ってみたら出来たんだ。ある種のマーキングっていうのかな。入り口と出口が決まってしまったって感じ」

「僕の下駄箱を出口にしないでよ」

「ごめんごめん。そのうち書き換えるから」

 渉が奏子からカバンを受け取って、嬉しそうに笑った。

「昨日より、確実に出口に近づいてるんじゃない? 応援してる」

 渉はさっと顔を赤らめた。

「魔性の女ね」

「夕葉には言われたくないわね」

 二人の間に異様な空間のねじれが現れた。

「次の授業は自習になるかもよ」

 渉がカバンからパソコンを出して、ゲームを始めた。

「何で?」

「目白先生が体調不良なんだって」

「聞いた。自分の机に置いてあったパンを差し入れだと思って食べたら、具体悪くなったんだって。どうせ、賞味期限切れだったんだろ」

 浩明が学校に来て早々、お弁当を広げて食べ始めた。

「寝坊? 早寝早起きの浩明にしては珍しいじゃない」

 奏子が浩明の寝癖だらけの頭を見て吹き出した。

「昨日はなかなか寝付けなくて」

「私も」

 千里が眠そうに机に突っ伏した。

「あのさ、みんな、気付かないふりしてる?」

 目白先生が毒入りパンを食べてしまったかもしれないのに、何の反応も見せないのが不思議だ。もしかしたら、知らん顔して他の生徒達の反応を見ているのだろうか。奏子をちらりと見ると、奏子も僕の方を見て深く頷いた。

「ねえ、千葉君の額、少し赤くなってる。もしかして、毒にかぶれたんじゃない?」

 奏子が小声で言う。

「鏡見てみる?」

 差し出された鏡を見ると、確かに炎症を起こして赤くなっていた。

「昨日は何ともなってなかったよね?」

「時間差で出るのか……。怖いな」

「保健室に行って来なさいよ」

 やり取りを見ていた夕葉が、突然わなわなと震え出した。

「うわ、どうしたの?」

「しっ、千葉君。来るわよ!」

「えっ、何が?」

 夕葉の目が怪しく光った。

「私の——千葉君を傷モノにするなんて許せない! もう怒った! 呪い殺してやる!」

「えっ」

 夕葉が胸ポケットからお札を取り出して呪文を唱え出した。ゆらゆらと黒い煙の様なものが夕葉の頭から飛び出して、勢いよく窓ガラスを割って出て行った。

「えええー!! なに今の!!」

「夕葉が本気出したら、理屈抜きで犯人見つけるなんてわけないのよ」

「ますます分からないんだけど」

「要するに、好きな人を傷付けたら黙って見てられないって事よ」

 夕葉は固く目を閉じ、呪文を唱え続けている。小柄で大人しい夕葉が、やけに神々しく見えた。

「だけど、力を使い続けるのは危険なんじゃないの?」

「大丈夫、愛美達が守ってくれるよ」

「千葉君、これはチャンスだよ」

「山上君まで何を言ってるんだよ」

「千葉君、あの煙を追いかけるよ! 夕葉のフォローをよろしくね!」

 ヒーリング能力に長けた田口愛美と数名が夕葉の周りに集まった。

「落ちこぼれの私達が事件を解決する、王道ストーリーでしょ」

「ここは落ち着いて大地を呼ぼうよ」

「千葉君、腹をくくろう。君はこの事件の当事者なんだ」

「格好つけてるところ悪いけど、僕は何の力も無いから」

「そんな事ない、君の逃げ足には誰も敵わないよ。鍛えた俺が言うんだから、間違いない!」

「それに、みんなの力を上手く使えるのは千葉君だけよ」

 いつの間にか、クラスの皆が後を追いかけて来た。

「あれよ」

 黒い煙がもちの木の上で渦巻いていた。入り口と出口の話を思い出す。

「あそこに犯人がいる」

 奏子が意識を集中させた。

「二人、いるわ」

「二人?」

「一人は黒田さん。もう一人は……」

「サプライズするの諦めてなかったんだ」 

「好きな子にケーキと歌と告白のプレゼントをあんな所で?」

 渉が信じられないと天を仰いだ。

「それは結果的にあの場所になったってだけで」

「どうする?」

 クラスメイト達も不安げに成り行きを見つめていた。

「あの子、相当、怒ってる。ヤバいかも」

 奏子にはもう一人が誰なのか分かったらしい。

「『邪魔をするな。吹っ飛ばしてやる』って! 夕葉! 逃げて!」

 奏子の叫び声と同時に爆発音がして、夕葉の出した黒煙が吹っ飛ばされて散り散りになった。  

「うわ、危ない」

 衝撃波で窓ガラスにヒビが入った。

「やばいよ、このままじゃ、怪我人が出ちゃうよ」

「大地先生を呼んで来よう!」

 数名がバタバタと走って行った。

「僕、あそこに行ってみる」

「千葉君、君は当事者だなんて無責任に言った事を謝るよ」

 浩明と渉が慌てて僕を追いかけて来た。

「小島さん、また無断でごめんなさい」

 梯子を抱えてもちの木へ急ぐ。

 もちの木にかけた梯子に登ろうとしていると、二人が梯子を押さえてくれた。

「ありがとう」

「急にやる気出してどうしたんだ」

「僕が一番、適任な気がして。それに、腹立つし」

 窓にヒビが入っただけで済んだが、それはたまたま運が良かっただけかもしれない。

「俺も一緒に行くよ。幻惑の力が役に立つかもしれないし」

 浩明が僕に続いて梯子を登る。

「ありがとう。実はちょっと、心細かったんだ。駒田君は登らずにここで待機していて欲しい」

 何人も登って行ったら、犯人が逆上して襲ってくるかもしれない。

「分かった。やって欲しい事があったら叫んでくれ」

「叫べば良いんだね?」

「そう。声が出せなかったら心の中で叫んで。こっちには、耳がいいやつが沢山いるから」

「分かった」

 梯子を降り、太い幹にしがみつき登って行くと、ヒステリックに叫ぶ女子の声が聞こえた。二人がいる中腹まで辿り着くと、枝葉の影から様子を窺った。顔中傷だらけの黒田は足を負傷している様で息が荒い。女子は同じクラスの原乃絵瑠だった。確か、今日は欠席していたはずだ。

「何これ、何の匂い?!」

 乃絵瑠は苦しそうに咳をした。

「ん? あいつ、どうしたんだ。何か変な匂いするか?」

 浩明が辺りの匂いを嗅ぐ。

「あっ、瀬名さんの匂い袋の効果だ!」

「匂い袋?」

「うん。確か、悪い考えを持つ人には、異様に臭く感じるんだって」

「異様に臭い……。それは、辛いな」

 乃絵瑠は髪の毛を乱し、苦しそうにのたうち回った。

「おい、そこのお前——千葉って言ったか」

 黒田さんが僕を見つけて小声で呼んだ。

「何の能力者なんだ? 何とかしてくれ」

 それは長年、自問自答し続けて来た事だ。

「そうですね、しいて言うなら僕の能力は『逃走』かな」

「じゃあ、何で来たんだよ! そっちのは?」

「そうですね、幻惑で原さんを三人に増やしたり出来ます」

「何だ、その地獄は! いてて。よりによって、何で来たのがお前らなんだ」

 黒田さんはとうとう涙目になった。

「何をごちゃごちゃ言ってるのよ!」

 乃絵瑠はクラスでは大人しい部類の人間だった。

「黒田さん、もしかして告白中でしたか?」

「お前、これ見てそう思うか? 彼女はその、可愛いなって声をかけて、遊んでたっていうか」

「最低でしょ、この男!」

 乃絵瑠が叫ぶと、地上から石や枯れ枝が持ち上がって来た。乃絵瑠はサイコキネシス (念動力)の使い手で夕葉同様に気持ちが昂ると力が爆発するタイプらしい。

「原さん、毒入りケーキも君が?」

「そうよ。サプライズとやらが成功したら相手の女と食べると思ったのよ」

 乃絵瑠は黒田さんから目を離さない。

「目白先生も実験台にした?」

「ああ、パンの事? 学校に関係ない物を持って来たらダメだなんてうるさく言うから。ちょっと黙ってもらったわ」

 くすくすと乃絵留は笑う。

「それ、動けない黒田さんに当たったら危ないよね?」

「うるさい、気が散る!! 最初から毒になんて頼らなければ良かったのよ」

 中にはガラス片も混じっている。

「君だって痛い思いするよ」

「かまわない。この男に付けられた傷に比べたら」

『やって欲しい事があったら叫んでくれ』

 暴れる者を取り押さえる方法は、一つしか思いつかなかった。浩明を見ると、同じ事を考えていたらしい。思い切り大きく息を吸い込むと、せーので一緒に叫んだ。

「捕獲網が欲しい!!」

 出来る限りの大声で叫んだ。

 唖然としている黒田さんと乃絵瑠の上に巨大な蜘蛛の巣が覆い被さった。

「何よ、これ!」

 もがけばもがくほど、網が身体に絡みついていく。

「いてっ」

 その上に石や枝やガラス片が大量に落下した。四人は悲鳴を上げながら、救助を待つ事になった。

   *

 後日、黒田さんと乃絵瑠には三日間の停学処分とメンタルケアが課せられた。僕はというと怪我よりも毒による炎症の方が深刻だった。とてつもなく苦い化膿止めと毒の中和剤を三日間飲み続ける羽目になった。毒は闇サイトで乃絵瑠が買ったものだったが、出品者は特定出来なかったらしい。

 やっと、回復して学校へ行くと、目の前に黒田さんが見計らった様に現れた。

「黒田さん、お茶でも飲んでたんですか?」

「あっ、びちゃびちゃになってるよ」

 シャツの裾に茶色いシミが出来ていた。

「なかなか上手く行かないな」

「優秀で格好良くて、問題起こしても数日の停学で済むんですから、上手く行っているんじゃないですか」

 黒田さんは少し驚いた顔で僕を見た後、大声で笑った。

「千葉君、あの時は何で逃げなかったんだ?」

「単に逃げ遅れただけですよ。それに、原さんも無事に連れて帰りたかったですし」

「悪かったよ」

 黒田さんは、軽く頭を下げた。

「あの騒動の後、好きな子にもこっ酷く振られたんだ。自業自得だよな」

「まあ、そうですね」

「意外とはっきり言うんだな。これからは自分の能力を磨く事に専念するよ」

 多少は懲りたという事だろう。

「あの子の殺気が怖いから行くわ。またな、千葉君」

「え?」

 黒田さんが歩いて行った方から、夕葉が睨みを効かせながらやって来た。

「千葉君、あんなやつ無視しないと」

「そうだね。ごめん。そうだ、このお守り、凄く効いたよ。助かった」

「本当? 良かった」

「みんなにも改めてお礼しなくちゃな」

 あんな大きな捕獲網を長距離飛ばすには、皆が協力しないと無理だったはずだ。中には力を使い過ぎてダウンしてしまった人もいたらしい。

「お礼なんていいよ。いつも千葉君には助けられてるもの。それより、みんなが千葉君と普通の話をしたがってるよ」

「普通の話?」

「好きなテレビ番組とかスポーツの話とか、何でも」

 夕葉の言葉に自分の方から距離を取っていた事に気づかされる。

「超能力の有無で人の価値が決まるわけじゃないでしょ?」

 それでもあの時、特別な力があれば防げた事もあったという思いは消えない。

「午後の授業始まるよ!」

 窓から奏子が顔を出して、叫んだ。

「今、行く!」

 大声で返事をすると、夕葉がくすりと笑った。

「何?」

「千葉君にはみんなとは違う力があると思うよ」

「そうかな?」

「そうよ」

「でも、やっぱり僕も瞬間移動とかしてみたいな。サプライズにも本当は興味あるんだ」

「それは、やめて」

 夕葉が本気で嫌がった。

「大丈夫。瀬名さんに会いに行く時は手ぶらで行くから」

 夕葉が上目遣いで僕を見る。

「あのね、私、怒りに任せて変な事を叫んだらしいんだけど、覚えてる?」

 顔を真っ赤にした夕葉を見て、その時ばかりは僕もテレパスになれた気がした。

「やっぱり、僕も超能力者になりたいな」

 そして、もっと好きな子をドキドキさせてみたい。 

 ほんの少し、お守りから邪な匂いがした気がした。




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