従来のIPOに代わる選択肢は何か?SPACとDirect listingについて

少し前(2021/04)の記事になりますが、Pichbook newsよりお届けします。
https://pitchbook.com/blog/the-case-for-taking-a-company-public-without-an-ipo

What are the alternatives to a traditional IPO? SPACs and direct listings explained

SPACとは何か?

SPAC(A special purpose acquisition company)は、IPOを通じて資金調達を行い、企業を買収することを目的として設立された上場企業です。
上場時にターゲット企業が定まっていないことから、"blank check companies"とも呼ばれています。
SPACは上場後、通常2年以内に1~2社を買収します。
SPACによって買収された会社は、通常IPO時にかかるコスト(各種手数料や引き受けコスト)を支払うことなく上場します。
TPGやCarlyleグループのような大手PEファームは既にSPACを活用しています。
HostessやDraftKingsといった企業はSPACによって上場しました。

SPACのプロコン

このような盲目的な買収プロセスは、失敗するようにみえるかもしれませんが、実際にはIPO時に企業が安定しやすいというメリットがあります。
従来のIPO投資家は、"短期的なマインドセット"で判断しており、その結果、初値が適切でなく、中長期的に影響を与えることがあるからです。

SPACはコスト面でメリットがある一方、リスクもあります。
出資者がターゲット企業に満足できなければ、資金を引き揚げる権利を持っているからです。
SPACのマネジメント陣はよい買収先を見つけるインセンティブがあります。(調達額の20%の株式を持つことができます)
一方で、出資者をを失うリスクとも隣り合わせです。
もし多くの出資者が資金をひきあげれば、取引から手をひかなければいけなくなります。

2020年ごろから、SPACは上場プロセスにおいて、従来のIPO手法よりも多くみられるようになりました。そしていまだその勢いは衰えていません。
コロナ禍で多くのIPO計画が保留になる中、SPACは上場し続けています。
その理由の一つは、SPAC企業の価値が調達額と等しく、市場の浮き沈みの影響をうけづらいことにあります。
また、SPACにとって不況は買収の機会が増えるチャンスだ、と投資家たちは期待しています。

Direct Listingとは何か

Direct Listingとは、未公開企業がIPOプロセスを行うことなく、証券取引所で直接投資家に株式を販売することによって、上場することです。
これまでDirect Listingで上場する企業は、新規株式は発行せず既存株のみを公開する必要がありましたが、2020年12月より新規株式発行による資金調達も可能となりました。
この手法での有名な事例は、SpotifyとSlack、そして最近NY証券取引所に上場したSqurespaceです

Direct Listingのプロコン

Direct listingではロードショーや引き受けプロセスを行わないので、時間と費用を節約することができます。
通常引き受けプロセスでは、IPOで資金調達する額の5-8%を支払う必要があります。
Spotifyは上場プロセスの中で、数人のアドバイザーを固定費で雇ったのみで、さらにコストを抑えました。

加えて、通常のIPOプロセスではロックアップ期間が設けられますが、Direct Listingでは既存株主は上場後すぐに株式を売却することができます。
しかしながら、引き受けプロセスやロックアップ期間を設けないことはリスクも伴います。
このようなリスクを軽減するために、Spotifyのような企業はセカンダリ取引を活用しました。セカンダリ取引では、既存株主に上場前に株式を売却する機会を設けることで、適切な株価を把握でき、上場直後のボラティリティを抑えることができます。

SPACを取り巻く環境

IPOに代わる手段としてDirect ListingとSPACの基礎の基礎に関する記事をご紹介しました。
ここ1-2年では特にSPACに関する話題が増えたように思います。
ファクトも少し整理してみると、米国におけるSPACの上場件数は2020年度は昨年比で4倍、調達金額は6倍となっており、2021年はそれを上回る勢いになると予想されています(Source: INITIAL)

画像1

中でも、どのような企業がこの手法を用いているのかというと、これまで上場が難しかった、まだ収益化できていない/収益化に時間がかかるディープテック企業が多いようです

画像2

ただし、今年の4月からSPACによる上場は急減速。
SECの監視強化が要因だとか、コロナの出口が見えてきて市場自体明るくなってきたからとか理由はいろいろ言われています。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN271C60X20C21A4000000/

また、日本ではどうなのか、というと現在はSPACでの上場は認められていません。しかしながら、SPCAを解禁する流れは来ています。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO72415480Z20C21A5EA2000/

「元々上場基準が緩い日本でSPACなんていらない」という声も聞きますが、
出口の選択肢が増えることはスタートアップ市場にとっては追い風になると思うので、私は肯定的に見ています。
(でも確かにそれよりM&Aがもっと盛んになるなインセンティブ設計が急務だという意見には賛成します)

引き続きSPACに注目し、アップデートがあれば共有します!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?