2025年までに75%のVCが投資判断にAIを使うようになるだろう

少し前のものになりますが、Venture beatよりGartner社の予測に関する記事をお伝えします。
https://venturebeat.com/2021/03/10/gartner-75-of-vcs-will-use-ai-to-make-investment-decisions-by-2025/

Gartner: 75% of VCs will use AI to make investment decisions by 2025

2025年までにVCやアーリーステージ投資家のエグゼクティブレビューの75%がAIとデータ分析によってなされることになるでしょう。
言い換えれば、どの企業が人間による評価/判断に値するかはAIが決め、ピッチデックや財務の重要性が薄れていくかもしれません。
Gartnerのホワイトペーパーによると、今後4年以内にAIやデータサイエンスを活用した投資家が一般的になるだろうと予測されています。

高度な分析能力の向上により、アーリーステージにおける投資は、フィーリングや定性的な意思決定から、プラットフォームベースの定量的なプロセスに移行しつつあります。
LinkedIn、PitchBook、Crunchbase、Owlerなどのソースやサードパーティのマーケットプレイスにおけるデータが集められ、過去・現在の投資パフォーマンスととも活用されていくでしょう。
またこれらのデータは、投資の実行可能性/戦略/潜在的なリターンを、短期間でより精度高く判断できる洗練されたモデルの構築に用いられることが増えています。
つまり、いつ・どこに・どれくらいの額、投資すべきかは自動的に決定されるようになってきているのです。

また、現在プロダクトが使われているマーケット、そのマーケットサイズ、詳細な財務情報が分析されているのと同じような方法で、成功するために必要なパーソナリティの特徴や働き方も定量的に分析されるようになるでしょう。
従業員の職歴、分野での専門性、過去の成功可否から、AIツールによってリーダーシップチームがどれくらい成功しそうなのかを判断するようになるのです。
Gartnerのレポートによると、現在のテクノロジーでは顧客の願望や顧客が将来どのような行動をするのか予測することができるようになっています。
人間がほとんどインプットすることなく、自然言語処理AIによってプロファイルを分析することができます。
つまり、リアルタイムや録音された音声から人の資質を判断することができるのです。
現在この技術は主にマーケティングやセールスに活用されていますが、2025年までに投資家がリーダーシップチームの成功確率を判断することにも活用されるようになるでしょう。

サンフランシスコに拠点を置くSignalfireというVCは、すでに独自のプラットフォームを活用しています。
Beaconとよばれ、600万以上の企業のパフォーマンスをトラックしています。
年間1000万ドル以上のコストをかけて、学術論文、特許登録、オープンソースへの投稿、規制当局への提出物、企業のウェブページ、販売データ、SNS、クレカのローデータなど、1000万以上のデータソースを活用しています。
パフォーマンスの目立つ企業は、このダッシュボード上でフラグがたちます。これによって、Signalfireは他のVCよりも早く案件を見ることができているのです。

ただし、AIやマシーンラーニングが投資判断において正解を示してくれると言いたいわけではありません。

昨年11月、ハーバードビジネスレビューでは、独自の投資アルゴリズムを作り、225のエンジェル投資家の投資パフォーマンスと比較した実験を行いました。
チームは最先端の技術を駆使し、ヨーロッパのエンジェルネットワークが提供する623の案件から、最も有望な投資機会を選ぶようシステムを調整しました。
このモデルでは、投資家が入手できるものと同じデータを活用したところ、経験が浅い投資家よりは良いパフォーマンスとなりましたが、経験豊富な投資家には及びませんでした。

ハーバードビジネスレビューモデルの問題点の一部は、経験豊富な投資家にはないバイアスを持ってしまうことでした。
例えば、このアルゴリズムでは、有色人種よりも白人の起業家を選びやすく、女性よりも男性起業家を好む傾向にあったのです。
おそらくこれは、女性やその他過小評価されているグループが、資金調達プロセスにおいて不利な状況になりやすく、結果としてVCからの資金調達が少なくなる傾向にあることが原因でしょう。
こいうったバイアスを完全になくすことはおそらく難しいので、AI情報に人間の判断を加えた"ハイブリッドアプローチ"が重要だろう、とハーバードビジネスレビューは結論づけていました。
大規模なデータを解析しているため、アルゴリズムによって、よい投資先を選びやすく、悪い投資先を回避しやすくなるのは事実です。
しかし、公平性と効率性の間には常にトレードオフが存在するのです。

投資家は、このアルゴリズムを意思決定としてではなく、将来を予測してくれるものとして考えるべきです。
複雑で予測不可能な意思決定をしなければいけない状況では、"人間の意思決定に取って代われるべきか"ではなく、どのように人間とAIの強みを組み合わせるべきなのか"が議論されるべきなんです。

VCにおけるデータ活用の流れ

海外のことはちょっとよくわからないので、あくまで日本におけるデータ活用がどれほど進んでいるのか、について少しお話したいと思います。
結論からいうと、ほとんど進んでないと言えると思います。
日本のVCは一つ一つのファンド規模が欧米と比較し各段に小さいですから、そういったものに投資する体力がない、というほうが正しい表現かもしれません。
そもそも、日本の未上場のデータソースと言えばEntrepediaぐらいで、それもここ数年でデータベースがやっと充実してきたといえるでしょう。
ただ、詳しくは言えないのですが、独自のデータソースを持つような一部の企業ではそういったことにチャレンジしているところもあります。
そこで導かれた結論もこの記事と同じで、データ活用は必要だが最後は人間が判断しないといけない、ということでした。
活用方法のレベルとしては2段階あると思います。
①良さそうな案件はあくまで人間が探す
 判断をサポートする材料として、アルゴリズムを活用する
②アルゴリズムを良さそうな案件サジェストに使う
 サジェストしてもらった中から、人間がいい悪いを最終判断する

①はデータが限定的でアルゴリズムの精度が低くても使えますし、必ずやるべきだと思います。
ただ、日本の未上場企業のデータでは②のレベルに到達するのはまだ時間がかかりそうだ、というのが私の感覚でした。

こういった流れは海外の方が数歩先を進んでいると思いますので、引き続き注視していきたいと思います。

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