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ペルセフォネ

柘榴の実がはぜ割れる音が聞こえた
冥界の記憶が蘇る
封じ込めていた感情、忌まわしい出来事
母の手から引き剥がされ、無理矢理遠くへ連れ去られた
少女時代を形作っていたあらゆるもの
花の咲き乱れる谷間、鳥たちのさえずり
暖かく燃える暖炉の火
それらは私の元から飛び去っていった

一人娘を失った母は、どんなに悲しんだことだろう
母は私を探し歩き、杖を片手に国中を旅して回った
大地は荒れ果て、花々は枯れ、鳥は嘆きの歌を歌った
老婆に身をやつした母の姿を見て
人々は哀れみ、慰めの言葉をかけた
その時私は冥い闇の底にいて
悲しみの余り何も食べずにこのまま死んでしまおうと思った
恐ろしい冥界の王は、何とか私に食べさせようと手を尽くし
騙された私は遂に柘榴の数粒を口にしてしまった
玲瓏と透き通る深紅の輝きを湛えたその実は
血のような甘みと苦みを私の舌の上に奥に押し広げた
ああ、この宝石のような果実が私を惑わしたのだ
乙女のもとへ忍び寄り、甘い囁きを注ぎ込む誘惑者よ
お前のお陰で、私は一年のうち三分の一の季節を
冥い地の下で過ごさねばならなくなった

でも、ともかく私は地上に戻ってきた
私の帰還を喜び祝って風は薫り、大地は再び実りをもたらした
暖かい春の日差しが降り注ぎ、乳と蜜の流れる、私の故郷

母と私は様々な称号を受け、人々から崇められた
黄泉より再び蘇ったこの私は、麦穂を手に、声高らかに叫ぶのだ
「ヒュエ・キュエ 流れよ、孕め、地に満ちよ」と
洞窟の暗闇の中でミュステースらは、様々な恐ろしいものを見る
雷鳴が轟き、死者たちの叫び声が聞こえ、黒い影が彼らを脅かす
ヘカテのもとから送り出されたこれらの野獣や幽霊から逃れ
彼らは泥の中深く沈められる
そして引き上げられ、身を清め、レーテーの水を飲む
彼らは暗がりから、古い汚れた生から這い出でて
光明の中に新しい生を見出す
新しい衣服を纏い、大地の母胎から新たに生まれ出ずるのだ

私は娘にして女王
娘である時、私はコレと呼ばれる
私の前には不死の花アスフォデルが捧げられる
蛇が古い皮を脱ぎ捨てるように、古い生を脱ぎ捨てよ
一粒の麦が地に落ちて死に、そして多くの実を結ぶように
私のもとへ来る者には豊かさを約束しよう

光を、拡張する光を
すべてを融け合わせ、ひとつにする、叡智の光を
冥界はもう私にとって、恐ろしいものではなくなった
それは生命の力を内包する混沌、豊穣の源なのだから
柘榴の実の一粒が、私の舌に甘味と苦味をもたらすように
この世界が垣間見せるのは
光と闇とが交互に紡ぎ出すアラベスク
私は柘榴の実の中に、これらをそっと閉じ込めよう
幼年期の幸福な思い出を、その中に見出せるように

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