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6畳の棺桶

寝れない


ごうごうと部屋に鳴り響くエアコンの音を聞きながら目を瞑っていると、色々なことを思い出す。

寝る前に頭の中で、思い出と妄想が駆け回って寝れないのはADHDの特徴らしい。


明日は何時に起きようか、ああ新しい職場の呑み会があるんだっけ、二日酔いはめんどいな、渋谷だっけか、焼酎は避けなきゃ、電車は嫌だな、あ来週海行くんだっけ、海って蛇出るのかな、前ハリーポッター展で蛇語のコーナーあったな蛇、蛇…



蛇。
そうだ。ヘビが出ると、俺の子供の頃は一大イベントだった。


俺が子供の頃、山口県の田舎では、アオダイショウというヘビがよく出没していた。


俺の家の前には大きな田んぼがあって、田んぼの横を車1台が通れるかと言う道が通っている。
その道にははみ出さんとばかりに草が生い茂っていた。
水が張っている田んぼと、天にも届かんとばかりに背を伸ばす草たちを見ると、子供ながらに夏が来たんだな、という気持ちになっていた。

そんな田んぼは居心地がいいのか、アオダイショウというヘビがよく出ていた。

俺の幼馴染は男3人組で、しょっぺとしょうごという奴と仲が良かった。
お互いの家も歩いて30秒ほどの距離だった。
よって、同じ町中で遊んでいれば叫べば家の中まで声が聞こえるほどだ。

その日、俺は部屋でコロコロコミックを読んでいた。


「ゆっぺーー!!!アオダイショウがおるよー!!!」


外から声が聞こえた。幼馴染のしょっぺの声だ。

俺は部屋から外に出て塀から田んぼを覗くと、しょっぺとしょうごが騒いでる。

「はよこいっちゃ!アオダイショウおるぞ!!」
しょっぺが言う。

子供の頃は、ヘビを捕まえることが楽しみの1つでもあった。

「いま行くけえまっちょって!」

俺はすぐに走って田んぼへ向かった。


俺は走った。

空は青く、サンサンと輝いていた。
水の張った田んぼに光が反射して、煌(きら)めいていた。
それは、子供時代の輝かしい時間を示しているようだった。

まだ生きていたうちの犬は、走って外に行く俺を恨めしそうに見ていた。


蝉の声が響いていた。





その後は、ヘビを捕まえて振り回して遊んだりして、飽きたら駄菓子屋で買ったお菓子をみんなで分けて食べた。

その後デジモンの育成ゲームをして、ドンキーコング2をクリアしたのだろう。どうせ田舎の小学生がやることなんて、そんなものだ。

でも、それが夏の思い出の1ページだった。
あの頃は時間が無限大で、何にでもなれる気がしていた。








目を開けるとそこは
エアコンの音がごうごうと鳴り響いた部屋だった。
午前4時。東京で独り身。
あの夏の思い出を反芻すると、一気に息苦しくなった。
胸が痛い。息が詰まりそうだ。
この狭い部屋で、心から楽しい事もなく、ただ生きるために日銭を稼ぐ人生に何の意味があるんだろう。

この6畳の部屋が、まるで棺桶のように思えた。

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