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にほふ

作曲・改訂年/2012-13/18-19
編成/16人の奏者 (1.1.1.1-1.1.1.0-1perc-1pf-1hp-1acc-2.1.1.1) (当初は15人の奏者のために作曲)
演奏時間/約14分
impuls- 8th International Ensemble and Composers Academy for Contemporary Music 2013、Reading Session(グラーツ/オーストリア)のために作曲。
影も溜らず ー 淡座リサイタルシリーズVol.1 桑原ゆう個展(世界初演)のために改訂。

English title: smelling, efflorescing
Year of composition and revision: 2012-13/18-19
Instrumentation: 16 musicians (1.1.1.1-1.1.1.0-1perc-1pf-1hp-1acc-2.1.1.1) (first version was for 15 musicians)
Duration: approximately 14 minutes
Written and selected for the Reading Session at impuls- 8th International Ensemble and Composers Academy for Contemporary Music, 2013
Revised for Shadowless - Yu Kuwabara Portrait [Awai-Za Recital Series Vol.1]



作曲ノート

 中学生のころから源氏物語を読むのが好きだった。初めて書いた歌曲、東京藝術大学学部二年次の提出作品のテキストには、源氏物語の和歌から三首を選んで用いた。その頃から、宇治十帖で、薫の君と匂宮が対照的な存在として描かれているのを不思議に思っていた。「薫る」と「匂う」は、現代ではどちらも同じような意味で使われているが、実は両者の違いは大きいように感じ、紫式部はその違いを、薫の君と匂宮を通して端的に表現しているのではと感じていた。
 「薫る」と「匂う」について調べてみると、「匂う」とは香気臭気に限った言い方でなく、光に関係する言葉であり、美しく咲いている、美しく映えるという意味もあることがわかる。誰でも知る箏歌「さくら さくら 弥生の空は 見わたすかぎり 霞か雲か 匂いぞ出ずる いざや いざや 見に行かん」の歌詞においては、桜の匂いが、目に見える霞や雲のイメージと重なり合う。本居宣長の「しき嶋の やまと心を 人問はば 朝日ににほふ 山ざくら花」では、桜の見た目の鮮やかさと匂いとが、一緒くたになって朝日に照らされ、光り輝いているように感じる。
 つまり「匂う」とは、人の嗅覚と視覚の両方に作用する言葉である。あらためてそれを考えた時、多少突飛な考えではあるが、そこにもう一つの感覚、聴覚を加えることはできないかと思った。つまり「匂う」ような音楽は書けないかと考えたことが、この作品のベースになっている。作曲当初から改訂までに時間がかかっているため、音の扱いよりも構成に興味が移ってきた近作に比べ、よりリニアにつながっていくような音楽である。
 《にほふ》は、二〇一三年に、グラーツでの現代音楽フェスティバル「impuls」のプログラムにて、エンノ・ポッペ指揮、クラングフォルム・ウィーンにより試演されたが、その後、初演の日の目を見ることはなかった。その時の想いを成仏させるようなつもりで大幅な改訂を施し、二〇一九年七月に開催した「影も溜らず — 淡座リサイタルシリーズVol.1 桑原ゆう個展」で、世界初演を果たした。


Performance & broadcast history
(As of 18 August 2022)

10 February 2013 - trial performance
Impuls Academy [Special Program - Reading Sessions]
MUMUTH, Kunstuniversität Graz, Lichtenfelsgasse 14 8010 Graz, Austria
Enno Poppe, conductor|Klangforum Wien
www.impuls.cc/en/academy/special-programs.html#c1297
www.impuls.cc/en/events/events-2013/102.html
www.impuls.cc/fileadmin/user_upload/Newsletter/newsletter20130525.pdf

2019年7月19日 - 世界初演
影も溜らず — 淡座リサイタルシリーズVol.1 桑原ゆう個展
@東京オペラシティ リサイタルホール(東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワーB1F)
演奏/水戸博之(指揮)、梶川真歩(フルート)、本多啓佑(オーボエ)、西村薫(クラリネット)、中田小弥香(ファゴット)、籠谷春香(トランペット)、嵯峨郁恵(ホルン)、村田厚生(トロンボーン)、中山航介(打楽器)、大田智美(アコーディオン)、鈴木真希子(ハープ)、大須賀かおり(ピアノ)、三瀬俊吾(ヴァイオリン)、松岡麻衣子(ヴァイオリン)、笠川恵(ヴィオラ)、竹本聖子(チェロ)、佐藤洋嗣 (コントラバス)


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