【こぼレビュー】Neon white

作った:Angel Matrix
遊んだ:Steam+箱コン
この記事のリクエスト:EAB

 レースゲームとは、最も作り手の制御しやすいソロゲームの形式である。

 本ゲームはかなりピュアなレースゲームである。
 つまり、自分との戦い・記録の更新をモチベーションの主目的に作られていて、その為の工夫がある。
 また、持ち越しの能力などがないのでステージ毎に完全に独立した箱庭になっており、共通の使えるテクニックはあっても個別の対策が必要となる。 そのコースが大中小100個以上ある。このボリュームは単純に褒めたいと思う。20くらいはおまけみたいなステージだが、80個くらいはリプレイに耐えうる工夫のこらされたステージで、すべてのゲームの仕様に意味をもたらしている。

 そう、ゲームの場合は仕様に意味をもたらすのはレベルデザインレベルデザインなのだ。
 ちなみにここでのいや私にとってのレベルデザインとは、上流工程によって作られたあるゲーム製作ツールを使って作る全ての存在を示す。もし、ここがスクエニで、RPG用に作られたでアイテム定義システムによってアイテムを定義したらそれはレベルデザインだ。ここに異論は求めていない。一生この定義でいることをここに誓います。

 ……まあ上記の定義もむなしく、このゲームでのレベルデザインは単純にステージ作成を指している。これがこのゲームはとんでもなく優れている。
 たとえばゲームデザインの初学に引き合いに出されるスーパーマリオブラザーズの1-1では、最初にゆっくりとキノコが歩いてきて、ふつうにジャンプして通り過ぎようとするとうまい具合に踏んでしまい、それで倒せることに気づかせるようになっていたり、いわゆる”ギリジャン”…崖ギリギリで飛ぶことでようやく届く場所や、Bダッシュをした慣性ジャンプが必要な場所、実践の中で気づきを与えるようにできている。更にいえば、敵を踏むことでジャンプの飛距離を疑似的に伸ばしたりだとか、そういう応用にもつながる。本ゲームはこういった気づきと応用の作用が100のステージの中になだからなステップアップとして盛り込まれている。つまりボリュームがあるだけでなく、意味のある100ステージと言えよう。

 僕はよくこういうのを総称して「含蓄」というけど要するに同じルール内で何が出来て、更にそれを利用した応用は何か、独立したいくつかの仕様が相互に作用することで”遊び”を楽しくする。手を使えないルールが高いボールを上げることのメリットを出し、ヘッディングという技術の発見があり、通常は考えもしない頭部でのボール操作という面白さを与える。サッカーに手が使えるならだれも頭でボールを受けようとしないだろう。

 仕様はシンプルならシンプルなほうがいい。仕様が膨らむことは作り手にとってもユーザーにとっても不幸になりがちだ。無限に何でも出来るゲームはほとんど遊ぶ価値がないゲームに等しい。
 ちなみにそれを逆手に取ったのがスーパーメトロイドで、始めは極端に制限された仕様から始まり無限に何もかもが出来るようになったところでちょうどゲームが終わるようにできている。閑話休題。
 レースゲームとは1コース内の仕様は完結しているべきである。スーパーメトロイドは例えるなら、スタートからエンディングまでが1コースということだろう。

 本ゲームはリトライに対してのペナルティが一切ないので、新しい仕様を突然ぶつけられてもそれほどストレスにはならない。また、ステージが100もあるので余裕がある。突然二つも三つもルールが足されることはなく、一つずつそれらを習得していく

 また、もしくはこれが本当の勘所なのだが、本ゲームは最初からベストタイムを取らせるつもりがない構成になっている。これは先までの仕様の話とは完全に関係がないことをあらかじめ書いておきます。
 本ゲームは3Dの箱庭であり、落下によるコースアウトはあっても特定のコースは存在しないゲームである。最初は誘導されるがまま…つまり、なんとなく道が繋がってる通りにクリアしても、それはただのクリアであり、各コースのクリアタイムごとに渡されるメダルはもっと上のタイムがあることを示している。
 具体的には銅・銀・金・エースのメダルがあり、金のメダルを得ることでショートカットを実際に示すようになる。金のメダルさえ取ればエースは取れるようになっている。では金のメダルを取るためにはというと、少しでいいから自分で気付く必要があるようになっている。
 これがとてもうまい。
 一つのステージに対して何度もリプレイして何も全てを把握して完璧にこなせというのではなく、「ちょっと回り道じゃないかな」とか「ここからあの遠い敵を先に倒せば」とか、ほんの一点でいいのだ。それだけで金メダルを取らせてくれるので、褒め上手というしかない。
 でも、それは初回のクリアとは完全に違う気づいたコースの味で、次にエースメダルを取る時には更にもうひとつ以上気づきを得ているはずだ。それは、ただ繰り返すだけとは違う創意工夫がプレイヤーにあったと気付いた内容は同じでも誰もが思っているはずだ。この三度の興奮。
 ゲームの神座(かむくら)と言っていいだろう。
 神座にはこうある。

 そう、三回目の(エースメダルの)味こそが、本来のコースの味なのだ。
 つまり含蓄のレイヤー構造である。
 全体の構造として、仕様を部分ずつ解禁するレイヤーがあり、ここに含蓄がある。
 で、コースのひとつひとつに一度じゃすべてがわからない含蓄がある。
 はっきりいうと含蓄とは諸刃の剣でもある。
 例えば、ジャンルはかなり違うといえど格闘ゲームだろう。大抵の格闘ゲームに含蓄は多い、それはそうなんだが、それらを理解してこなさないと勝てるようにはなっていない。皆さんもご存じのようにこういった含蓄の多さは敷居の高さ(誤用)につながる。
 かといって含蓄をほとんど省いたDive kickが面白いかというと、作品としては面白くても毎日遊んでいる人はいないだろう。
 この匙加減をどう取るかがデジタルゲームの実製作上の最大の課題と言ってもいいのだが、本ゲームはそれをこの上なくエレガントにクリアしている。

 ちなみに神座のラーメンは彩華ラーメンの浅いパクリなので、おまえが誇るなよとは思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?