【こぼレビュー】ベケット

撮った: フェルディナンド・シト・フィロマリノ
見た:ネットフリックス

逃亡モノ、というジャンルがある。

何かを知った、もしくは知っているために、(しばしば突然)主役が逃げる作品だ。要するにミステリーの一形態であり、大体人情を感じるわき役が出てきて余計なおせっかいをかいてくれる。

 本作はテネットで主役になったデンゼルワシントンの息子が主人公で、かなりの部分で(タイトルの韻まで)テネットと対にしている。
 簡単にいうとギリシャで事故った主人公は色々あって当局の追跡を受けながらもアテネを目指すことになる…というものだ。

 テネットは「世界を揺るがす陰謀に主人公は自由意志の決定によって関与することを決める物語」だが、ベケットは「ようわからんが自分が当局に殺されかけるので、逃げて逃げるのに逃がしてくれない物語」だ。
 スケール感としての世界・個人、明かされている陰謀・ようわからん事件、ついでにいえば多国語を話せロシアでも困らん主人公・ギリシャで全然言葉が通じなくて一言目は「英語は?」の主人公、訓練された主人公・IT技術者のヘタレ主人公…とにかくすべての要素が対になっている。ここまでくるとテネットとセットで見てこそ面白いまである。

 デンゼルワシントンの息子はいい役者だ。存在として、顔がでかいから?なんか滑稽さが常にある。彫刻みたいに整った顔なのにどんなにシリアスでもちょっと笑えるんだよね。ヘタレていても、かっこよくても似合う感じだ。今作ではそのどっちもあますところなく出ていて、なかなかよかった。

 話としてはおおむねギリシャという舞台が担っている部分が大きく、ネットフリックスが可能にしたオールギリシャロケのお金の使い方の正しさを感じるばかりだ。
 とにかく、(アメリカ人にとって)知らない言語の世界の怖さというのは映画で言えばシンレッドラインから色々あるわけだが…変な話だが、ポリコレ的に「言葉が通じない」というのはいいのか?とまで思ってしまった。言葉が通じない人を描くことは差別的に見えても仕方ないんじゃないの?笑
 というほど、日本でいう田舎のこわさと英語の通じない世界のこわさというのは表現としては似通っていて、ギリシャ人に失礼な映画だなぁと思った。そのためか、作中のギリシャ人はいい人ばかりが出てきます。


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