【こぼレビュー】ぐれいてすとキャッピー
作った人:あきろう
遊んだ:PC(Xboxゲームパッド)
パズルゲームには正解がなくてはいけない。
これは割と、作り手にとってはキツい命題である。
なんでかというと、難易度のコントロールがとても難しいからだ。
例えばスーパーマリオブラザーズの一度食らってもOKなキノコ取得状態、コレなんかは保険としてAでダメージを受けてもBでダメージを受けてもゲームを続行できるよう機能している。ロックマンみたいなHP式なんてのもそうだ。プレイヤーは一律の腕前ではないからそれを許容するハードルを広げる役目がある。
しかし一意の解答のあるパズルゲームは、ほとんどの場合それ以外を許容しない。別解が用意されているものもあるとはいえ、パズルの面白さ自体が論理的な導きにある以上、なんとなくクリアできたでは済まされない。
だが、そんなパズルの難しさを緩和したのが魔法の塔(WWA)ともいえよう。このゲームではひとつのパズルに対して、複数の論理的アプローチを可能にした。きちんとしたゲームデザインの話でいうと、さっきのHP式によるハードルの緩和をスコアに置き換えただけではあるがそれでも、このゲームは間口が広く、きっちりプレイヤーに考えさせるゲームになっている。
そんな魔法の塔とは、PC98時代(92年ごろだったよーな)に作られWindowsでも95のかなり早い時期にはシェアウェアとしてVectorで公開されていた、まあいわゆる名作ゲームだ。
魔法の塔のルールはほとんどのWWA後継作でそのまま取り入れられている。要するにHPと攻撃力と防御力だけがステータスで、攻撃ー防御=ダメージ。これをどちらかが(まぁプレイヤーが負けたら終わるのでモンスター側しかないのだが)倒れるまで戦う…これを繰り返しながら、ゴールへ向かうという作品だ。
これはもう見ての通り単純さが強い。でもその単純さを逆手にとってとんでもない数の敵を出し、更に部分部分に別解を作り、攻略ルート自体を複数作ってパズルに仕立てたのだ。
魔法の塔はかなり凝っていて、初見では詰むように出来ているというか、ある種の気づきが必要になっている。進みながら増えるルールもあるし、進んでみないとどうなるかわからないところもある。これはタワーだから言うわけではないがちょっとドルアーガ的な…規模の大きなゲームで全面やりなおし前提のリプレイ性ってちょっと古い部分ではあると思うが、敵を選んで殴るだけのゲームなのでそのリプレイも実はそこまで苦痛ではない。やってることでわかることもある。それを今風に言えば、RTA的な最適解ルートを探すこと自体がゲームの主目的といえば面白さも通じやすいかもしれない。まぁそういう感じの遊びだ。
この魔法の塔の形式だけを自由にWebで再配布できる形にしたWWA作品は一時、本当に追いきれないほど出ていた。お絵描き掲示板が各個人ウェブサイトにあったのと同様、今じゃ伝わらない空気感があったわけ。
で、本作である。
本作はほぼ完全にWWA作品の伝統に沿ったゲームだが、初めてWWA系を触った人にも遊びやすくできている。
1ステージの難度はクリアだけならかなり易しめだ。ただ、易しいといってもそれなりに「工夫をした」とプレイヤーに思わせる場面があり、これはパズルゲーム…だけでなく、アクション性のないゲームにとってはとても大事なことだ。全くの馴れあいでは作業になってしまうし、手を出せないゲームは途中で投げてしまうだろう。そこのコントロールをパズルゲームですることは本当に難しい。
この許容は作者のうまさでもあると同時にWWAが持つ器の大きさでもあると思う。
純粋に通る順序を決められたパズルではなく、ゴールにたどり着くならどういう経路でもいいという緩さがうまく作用している。昔流行った理由もそれだったのかもしれない。
本ゲームは更にスキル制を取っており、各ステージには3つまでスキルを持ち込める。これらのスキルはチートレベルの強力さがあるもので、特にHPを代償に鍵開けをするスキルなんていうのはパズルの根底を崩すものだ。
だが、それが難易度の緩和に作用しているうえに、やりこみの意を促すものになっている。やりこみには特にリワードはないが、一番上のメダルを出すのはかなり難しい。
また、「無双」というスキルが面白い。戦闘で相手のダメージを受けなかった場合にHPを回復する…つまり、パズルに一ひねりを加えるわけだ。一見した損得だけではなく後で倒して回復とする敵を選別したルートにすることで更に点数を取れたりする。説明書に記載もあるがこれは高得点を目指す必須スキルとなっているので、つまり3つもあるスキル枠のうち一つはほぼこれになる…というのがうまい具合の縛りになっている。スキルが3つとも選択可能だとちょっと広すぎるのだが、なんとなくやりこみ用の道筋がある。うまい仕様だなと思う。
難易度も普通にクリアするだけなら本当に易しい(半ばクリアすれば全部の敵を倒してもかなりおつりがくる)が、幾つかあるおまけダンジョンを目指すとこれが本当にギリギリ攻撃の一回の差でクリアできた…とかになる。各ダンジョンのギミックも常にパズルに軽いひねりを与えプレイヤーを飽きさせないし、ちょっとしたメッセージやイベントのユーモアは上品で押し付けがましくない。疲れた時ほどこういうのでいいんだよな。
この「純粋なパズルながら緩さがあり、回答が一通りではない」という仕様を活かした全体の設計が卒なくされており、細かな一つ一つのステージにも作りこみが光っている。というわけです。
文化というのは継承だけではなく、そこに意味があってこそ。
本ゲームは、20年以上も続く文化の系譜に連なる作品であるとともに、各種の提案を加え現代で楽しく遊べるレベルに引き上げた素晴らしい作品です。
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