[こぼレビュー]フランチャイズ つくだ☆マジカル

書いた:小田扉
出した:小学館(連載は読売中高生新聞

 あつみが働くコンビニつくだの店主であるボナンザは魔法使いであり、かつて同僚の三人と共に魔王と戦ったことがある。

 不条理な驚かせがいのあるギャグと意味のあるストーリーを連結させることは難しい。だが、1話完結ギャグ漫画には赤塚不二夫の幻影があり創作が難しい。
 この問題に取り組むにあたってストーリーを追いかけてるようで完全にストーリーを手放した作風のうすた京介がウケたのが90年代。その方法とは「部分部分で見れば意味がありそうなストーリーだが全体を通すとなにもない」ということに尽きるだろう。ストーリーと呼べるものでなくてもよい、その話数・4ページ、最悪1ページでも話が繋がっていればいけるということだ。これにダウンタウン以降のボケがシュールでも普通の目線のツッコミを重視し進行するスタイル。この影響を受けたギャグ・シリアスを問わない漫画家の多くが現在もうすた文脈の展開を自作に閑話休題として挟ませることで、読者にテンポを損なわせない漫画を描くことに成功している。
 とはいえ、この形式には弱点がある。それはやはり不条理だからこそ面白く、不条理性はやや脱線しなければならないことだろう。結果的に、現代的にアップデートされた赤塚不二夫が出来ただけでその幻影からは離れることがかなわなかった。
 この方向以外のギャグはないのか?調査隊はアマゾンへ……向かうまでもなく、ここにあった、というのも、本作である。
 本作はどちらかというとこれらうすた京介以降のギャグマンガには出来なかった事に対して挑戦をしている作品である。その目標はストーリーがしっかりある不条理ギャグマンガだ。この目論見は見事に成功しているといっていいだろう。

 とここまで書いてなんだが、本作には実は「不条理」はない。というのは、本作に起こるすべての事象は本当にあったことであり、作者がその場で面白くしようと作意したものではないからだ。
 本作は魔王を倒すべく地球に送られた魔法使いボナンザの一代記である。巻末に年表がついているように、地球に来てから現在までの20年の行ったり来たりしながら様々な順に語られていき、その中で以前の話数にあった不条理に理由がつけられたり、意外なミッシングリンクが語られたりしていく。
 そうつまりすべての事象には理由があり、ただその語り方をシャッフルしているだけ…これがストーリーのあるギャグマンガの正体である。この事前準備は相当大変だったろう。だが、そのおかげでこの漫画は十分なストーリーの強度を持ち得ている。

 漫画としてはもちろん「笑い」を駆動にしているが実際のストーリーは短い時間の積み重ねに大河感を強く出している。過去を一巡りしたあと見るボナンザには出会い当初とは全く違うものを感じるはずだ。人生には酸いも甘いもある、そういう紆余曲折や時間の重みがきちんと作中にある。
 そして、裏テーマとでもいおうか、「家族」がこの漫画には様々な形で書かれる。ボナンザは20年前には地球に出てきたばかりの魔法使い同士で赤貧のシェアハウス生活をし、正体不明の佃商店の店主と結婚し子無し家庭になることはほぼ確定している。コンビニのバイトあつみはシングルファーザーの家庭で、元魔物たちも犬だったり様々な形はあれど家庭を持っていることが描写される。いわゆる日本の核家族に当たるもの「以外」ばかりが出てくるのは実に興味ぶかい。
 全体を通して通底するのは何があっても気の持ちようで人生は素晴らしいし、世界というのはかなり適当だから気にするなというポジティブなメッセージであろう。
 掲載誌の対象である中高生向けにこういった形で何かを伝えるのって、素晴らしいことだと思うな。

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