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「数学ギョウザ」(410文字)


餃子屋のカウンターへ腰を下ろすと同時、頼んでもいないのに6個入りの餃子がドンと置かれた。
店内にメニューはなく、席には自由にタレを作れる調味料セットが置かれている。一皿目はタレにラー油を足し、二皿目からは並んでいる調味料を直接かけたり、他のものを足したりと様々な味を楽しんだ。隣の男は、相当美味しかったのか最後のひとつに向かって「ありがとうございました」と頭を下げていた。

「14,142円です」
「は!?」
信じられない額を告げられ詰め寄ると、店主は悪びれることもなく調味料のトレイを指さした。
「『足し』たり『かけ』たりしたでしょう。うちの餃子は数学式なんです」
そんなことがあってたまるかと食ってかかると、隣に座っていた男が立ち上がりそのまま店を出ていった。ますます意味がわからない。
憤りのままに睨みつければ、店主は、
「あちらさんは、最後に『礼』の言葉を『かけ』てますので」
と指でゼロを作り、Q.E.D.とばかりに口を閉じた。

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