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あす、6時に起きるために。

オーディオドラマ『あすは6時に起きなくちゃ。』の最終話が公開されました。

私、ヌマタ(沼田友)は作・演出で携わらせていただいています。
主演は、忍者系VTuber声優・朝ノ瑠璃さんです。

最初に断っておくと、誤解を……恐れずに言えば……僕は朝ノ瑠璃さんの熱烈な大ファン、最推し……というわけではないです……!
なので、朝ノ衆の皆さんを掻き分けて僕がキャスティングで職権乱用したれ! 的なそういうのでは、本当にありません!!!

それでも、「いつから僕は瑠璃姉さんのこと知ってるんだろ?」と、オファーのお手紙を書くときに思い出そうとして……。

で、確か、キズナアイ杯(2018年7月)の時。瑠璃姉さんの本戦の動画がニコニコ動画に上がって「あ、朝ノ瑠璃さんもアップしてるな~」と思った記憶があるから、遅くとも、この頃までには存在を認識していたはず。髪型がまだこうだった時、ですね。

(当時、生配信って動画勢はめったにやっていなくて、こうして後から編集した動画をアップしていたんですよね)

当時は、そもそも活動しているVTuberの数がまだそこまで多くなく、ある程度ならギリギリ名前と声とキャラクターくらい把握できている頃で。それで「多くの方の一人」として、僕も認識していたのかもしれません。

でも、強烈にその存在を意識したのは、やっぱり、うさちさんの紙芝居のコレですよね。

実を言えば、この時の瑠璃姉さんのイメージがまだずーーっと僕の中に残っていて、それが今回のオファーの「私」の一つではあったのかも。相手の期待に答えたくてワクワクして、すこし背伸びをして、それでもどこかで前のめりにトチっちゃう可愛らしいお姉さん。

そこからは本当にちょくちょく、全部の配信ではないけれど「よく見ている」VTuberさんのお一人であり続けていて。
列挙してしまえばきりがないのですが、色んなコラボで、もう伝統芸のように見事なマシュマロ配信で、体張ったネタの短い動画で、気になるゲストが来た時の忍ばNightで。
そういえば、コー瑠璃でホラゲーを遊んでる配信のアーカイブを横でずーっとかけながら作業していた事もありました。確かこういう世界になってしまった直後くらいだったんですよね……このシリーズは多分3週くらいしたな。あの時は本当にお世話になりました……、という気持ちです。

で、瑠璃さんがエキュートオーディションを通じて、声優として本当に本当に頑張ろうとしていたことも、勿論知っていて。

それだけが理由ではないけれど、だからこそ、「ああ、もし、僕がお仕事で声優を指名できることがあれば、ぜひ朝ノさんを応援したいな。本当に、役で、あなただけの役として、指名できることがあればいいな」とまず初めに思ったのかも。しかし同時に、「でも『役があったら』が大前提。たまたまピッタリだ、と思った役がいる時でないと。最初から朝ノさんありきなんて、本末転倒だ」とも思っていたから、沢山ある夢のうちのほんの一つ、という感じで、その時は一旦心のファイル棚にしまっていたのです。

ところが、その「夢」のファイルは、数ヵ月もしないうちに取り出すことになりました。

ZOWAさんからオーディオドラマの相談を受けたのは、確か去年の今頃だったと記憶しています。企画を一から提出できる、ということだったので、いくつか自分の手元にあったストックの中から、特にテレビドラマの脚本を書こうとしていた時期に書きかけだった『眠りにつくまでの数分間のお話』を(少し修正して)提案することにしました。そうか、オーディオドラマだったら、声か。この形式であれば主演は多少ネームバリューがある方がいいよな。この長い尺を自分でコントロールできるだけの実力がある方で、何より役にぴったりな方で……。と、考えたときに、突然、「そうだ、朝ノさんだ!!」と。

『眠りにつくまでの数分間のお話』。主人公は30代に突入した、お仕事一筋の生真面目な女性。とにかく仕事が好きで、自分に合ってもいて、日々ずーっとそれを頑張っている。
年齢を重ねたので実際に現場でもうまく立ち回れるようになってきたし、実力にもやる気にも満ち溢れているし、そしてだからこそ、立ち止まると急に不安になったり、20代の時の「理想のキャリアを積んだ自分」の亡霊や、変化し続けてゆく「周りの人たち」への感情とも、戦い始めなければならなくなったり。
一生懸命で、まじめだから、ふと一人きりになるとぐるぐる余計なことを考え始めて、苦しくなって。それでも自分で答えを見つけるまで、あるいは答えを先送りにする自分を肯定できるまで、自問自答し続ける「私」。
そんな人を演じてもらえる方って、誰だろう。最終話に入れたセリフだけれど、「頑張らなくていいんだよ?」というメッセージに対して、「それでも、頑張りたいんだ、私は」って、その言葉を嘘偽りなく、本当に心から伝えられる人とは、誰だろう。

ねぇ、ここまで書いたらわかると思うんですけれど、それって瑠璃姉さんじゃん。朝ノ瑠璃じゃん。「心配してくれてありがとう。でも私は頑張りたいんだよ。頑張って、頑張って、これからもずっと、頑張りたいんだよ」って、これまでの全ての活動を通じて、その背中で、全身で伝えているような、そのメッセージをまるで背負って立ち続けているような人じゃん。だったら、瑠璃姉さんじゃん。もう、この人しかないんじゃん、って。

それでも一応僕は大人なので、「でもダメかもしれない……ZOWAが嫌がったら……ご本人が嫌がったら……」という想像はしっかり持ってはいて。まずZOWAさんがOKして下さり、ただ色々な事情で企画が動き出した2022年1月から、実際のオファーまでかなり間が空いてしまって。
ところがその間によう……! 朝ノさんがどんどん売れてしまってよう!!!!
「こんな小さな企画に今更振り向いていただけるだろうか……」「ていうか先に目を付けてたのはこっちやぞ!!ばーかばーか!!」などと時間が経てば経つほど焦りや何かよくわからない感情でグッチャグチャになりながら、ようやく「では、クロコダイル(事務所)に連絡します!」という段階になって、僕からお願いしてPDF2枚くらいのお手紙を書かせていただいたら、本当に、速攻で、快諾のお返事をいただけました。ありがとうございました……!

収録したスタジオのサインボード。ミライアカリのサイン、でけぇ。

収録は一日。限られた時間でした。朝ノさんは本当に!! 演技が上手くて!!! そして耳がとてもいい方でした。スタジオワークの経験に乏しい僕の(つたない)お願いにも全力で応えて下さって、あっ、ちょっと今ニュアンス違ったかも、という部分が出来てもこちらから言うことなくご自分で言い直されたり。時にはこちらすら「えっ?今何がいけなかった?」って思う部分でもご自身で一旦立ち止まって、「そうか、なるほど……」と思えるようなご提案を自らなさって下さったり。本当に「声優力」というか、俳優力のつんよい、ひりひりするような情熱と実力を兼ね備えた方でした。

正直、あまりこういう「平凡な女性」役はまだ多くやられていないと思うのですが(もちろん、それもギャップの狙いではあった)、まったくもって最初に思い描いたイメージ通り、ぴったりだったし、こういう「等身大のお姉さん」を演ってる朝ノ瑠璃を作り手として是非世に問うてみたかったので、あとはもう、「ねえ、皆さんはどうでした?」って感じです。

キュートさもあって、でも凛としていて、自分の弱さもさらけ出せて、でもそれすらも最後には自分で受けとめられる、「私」。まぁ「私」は忍者ではないしイコール朝ノ瑠璃では勿論ないけれど、物語の必然の先にあるキャスティングとして、とても手ごたえのあるものに仕上がり満足しています。だからこそ! みんな聴いてね!! そしてiOSの方はアプリDLしてね!!!!

ここからは余談です。

当初の脚本から結構大きなリライトを挟むことになり、それが理由で消えちゃったのですが「地方から出てきている私」が当初はメインストーリーの一つになる予定で、なので「私」も朝ノさんと同じ石川県出身にしました。Twitterの告知音声ではけっこう遊んじゃったけれど、本編にも入れた『VTuberネタ』は二つだけ。ひとつは第二話のラスト。そしてもう一つは、きっと少なからずの方が気づいているけれど言わないで下さっている……そう、名前。僕も4~5年間VTuberを見てきて、それなりに色んなお別れを経験することになって、この「もうひとつの世界」ではどうか元気でいてほしいな、みたいな想いを込めて、苗字や名前を少しづつ拝借させていただきました。それが、「たくさんの人とさよならしなければいけないということ/それでも一人で生きてゆかなければならないということ」という、この物語の裏テーマとシンクロすればと思っています。

辛抱強く私のお願いに答えてくださったviviONの録音スタッフさん、編集スタッフさんに深く御礼申し上げます。そしてお忙しい中、素晴らしいメインビジュアルを描いて下さったハマちゃむさん。「私」に出会わせてくれたもう一人の恩人です。このお仕事へ繋げてくださり、最後まで粘り強く僕のことを受け止めてくださったプロデューサーの迫田祐樹さん。塚原重義さんからの素敵なご縁です、がっつりまたお話したいです。八面六臂の活躍をしてくださったRecoのスタッフさん。またどこかで必ずお仕事しましょう。この挑戦的な企画にゴーサインを出して下さった住田陽一さん。そして共演の矢吹高音さん、ほたかけるさん、増田雄市さん。本当にありがとうございました。

「眠る瞬間だけは、誰だってひとりぼっち。私の眠りは、私だけのもの」。

もしかしたら今はまだ、あなたには必要がないかもしれないけれど。でも、「ああ、ちょっと疲れたな」と思ったとき、「最近、悩んじゃって眠れないかも」と感じたとき。
「大丈夫だよ!」とか、「あなたは頑張ってるよ~!」とかは、無責任に言えないけれど。でも「わかるぜ、つらいよな」「眠れないよな」「それでも明日も起きるしかないんだよな」って、その瞬間だけでも、声と物語の力で寄り添って、この大変すぎる人生や社会を一緒に生き延びてゆく、そんな「共に生きるための」何かに、このオーディオドラマがなれますように。

いつか、あなたが眠る時の「声」も、聴かせてください。


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