2014年5月の記事一覧
橋の上のデン子ちゃん [short story]
人気(ひとけ)の無い山。岩肌にへばりつく小さなダム。その上に架かる高い高い鉄橋――。
いずれも特に珍しいものではなく、普段は地図上の印でしかないただの点なのだけれど、そんな場所へわざわざやって来たスーツ姿の若い男は――橋の手前にある深い茂みの中に車を止め、表に何やら"遺書"などと書かれた真新しい茶封筒をひとつ車内に残し、まるで悟りきったような顔立ちで、橋に向かって静かに歩き始めた。
もう一
See you, soon [short story]
抜けるような秋空だ。
屋上に干された無数の白いシーツが風で静かに揺れている。木枯らしが俺の耳の側を通りすぎた。そのまま、眼下に広がる穏やかな町並みを眺める。風上からかすかに、踏み切りの音が聴こえていた。
普段は風に吹き散らされるだけの、殺風景な市民病院の屋上。フェンスに寄りかかったまま、俺は町並みから目を逸らし、ゆっくりと目蓋を閉じた。
どれぐらい経ったのだろう。夕方、もうすぐ日が沈もうと