日本女性のフルタイム就業率は過去 30 年で低下……していない!

舞田敏彦氏による 「日本女性のフルタイム就業率は過去 30 年間で低下した」 とする主張

X (旧 Twitter) で、舞田敏彦氏による次のような記事を見かけた。

表題通り、日本女性のフルタイム就業率は過去 30 年間で減少している、という主張である。 記事内には次のようなグラフも提示され、日本の成人女性のフルタイム就業率が 28.2 % から 19.4 % に下がっている、とされていた。

日本の成人女性のフルタイム就業率が 1980 年代前半よりも下がっている、とする主張
(「日本女性のフルタイム就業率は過去30年で低下した」 より)

果たしてそれは本当なのか?

しかしこれは、私にとっては直感に反する主張である。 女性の労働力率は全年齢で上がっているし、フルタイム共働き家庭数は横ばいなので、どんな要素が女性のフルタイム就業率を下げるのかわからないのである。

女性の労働力率は全年齢で上がっている (「男女共同参画白書 令和 4 年版」 より)


共働き世帯数は横ばい (「仕事と育児・介護の両立に係る現状及び課題」 より)

実際のデータを見てみる

舞田敏彦氏がグラフの作成に使ったデータなどの詳細は次のページに書かれていた。

World Values Survey (WVS) の統計データを使っているとのことなので、実際の WVS の統計データを見ていく。 次のページで WVS データベースの情報をオンラインで確認できる。

自分としては、高齢化が進んで、2017-2022 調査では高齢者が多く含まれているために全体としてフルタイム就業率が下がっているというデータなのではないか、という仮説を持っていたので、年齢で区分けして見ていく。 次の 1 枚目が WVS Wave 1 (1981-1984) 調査 (日本のデータは 1981 年) で、2 枚目が WVS Wave 7 (2017-2022) 調査 (日本のデータは 2019 年) である。

WVS Wave 1 (1981-1984) における、日本の女性の雇用状況
WVS Wave 7 (2017-2022) における、日本の女性の雇用状況

Wave 1 (1981-1984) 調査と Wave 7 (2017-2022) 調査における女性のフルタイム就業率の変化を見ると、全年齢では 27.5 % (無回答を除くと 28.2 %) → 19.0 % (無回答を除くと 19.3 %) と、舞田氏の主張の通り減っている。 舞田氏の記事では、28.2 % → 19.4 % となっていたので、舞田氏は無回答を除いて計算しているのだと考えられるが、この記事では簡単のため無回答も含めた割合で記述する。 (無回答を含めない方がより正しい値ではあるが、無視できる程度だと考える。)

年齢区分ごとに変化を見ていくと、29 歳までは 44.8 % → 48.8 %、30 歳から 49 歳までは 24.2 % → 26.9 %、50 歳以上が 17.1 % → 9.1 % となっており、50 歳未満では上昇、50 歳以上が減少している。

Wave 1 (1981-1984) 調査の方ではより詳細な年齢区分がなかったが、Wave 7 (2017-2022) 調査では年齢を 6 区分で見れるので見てみた。

WVS Wave 7 (2017-2022) における、日本の女性の雇用状況 (年齢区分を 6 段階にしたもの)

すると、55 歳以上 64 歳まででも、フルタイム就業率は 14.7 % 程度はある。 65 歳以上では 1.5 % と大きく減少している。 そして何より重要なのが、65 歳以上の回答数が最も多いことである。

考察

確実に言えることは、「WVS の統計データに基づくと、50 歳未満に限っては、1981 年と比較して 2019 年の方が女性のフルタイム就業率は高くなっている (とはいえ微増)」 ということである。

そして、Wave 7 (2017-2022) 調査においては、日本の女性の回答の中で高齢者の占める割合が多くなっており、そのために高齢者も含んだ全体で見た場合には、「1981 年と比較して 2019 年の方が女性のフルタイム就業率は低くなっている」 というデータになる。

よって、WVS の全年齢対象の統計データを使って 「日本女性のフルタイム就業率は 30 年間で低下した」 とする舞田敏彦氏の主張は、(一般にフルタイム就業率についての議論は現役世代を対象に行われている前提で受け取ると考えられるので) 誤解を招きかねないものであると言える。

ここからは Wave 1 (1981-1984) 調査の高年齢層の解像度が低いために厳密性に欠ける予想であるが、おそらくは 65 歳ぐらいまでも、1981 年よりは 2019 年の方が女性のフルタイム就業率は高くなっているのではないか、と考えられる。 Wave 1 での年齢区分の解像度が低いことが惜しいところである。

結論

自分の結論としては次の通りである。

  • 1981 年と 2019 年との比較で、(現役世代の) 女性のフルタイム就業率は微増していると考えられる (とはいえ、ほぼ横ばい)

    • WVS のデータに基づくと、50 歳未満に関しては確実に増加している

    • 50 歳以上に関しては明確ではない

  • 「女性のフルタイム就業率は 1981 年と比較して減少している」 とする主張は、高齢者も含んだ情報に基づくものであり、誤りではないが誤解を与えかねないものである

付録

本件についての私の X への投稿。


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