第3話 これは、ホントに消えてますね。サツマイモ

第2話はコチラから



 消えた偽物のサツマイモ探しという興味を持った響斗は、半ば強引に僕の手を引きながら学校の廊下をズンズンと進んでいる。一体どこへ向かっているのだろうか。

「ところで、神城先輩」
「なんだよ」
「本当にサツマイモは消えたんですか?」

 動きを止めた響斗は小首を傾げながら僕のことを見ていた。あんなにも張り切って探そうとしていたのにも関わらず、こんな質問を投げかけてきたことが衝撃的で僕の視界はぐらりと傾きかけた。

「突然何を言い出すかと思ったら……」
「いや、だって、ボクは見てないですもん。無くなったのかどうか」

 確かに、僕と部長が消えたサツマイモについて議論している時、響斗はいなかった。彼は実際にオブジェから消えた状態は見ていない。

「謎を解く前に自分の目で確かめたいです。そうでなきゃビビッとひらめくなんてできないですからね」
「でも、部長にサツマイモ探すまで戻ってくんな! みたいな感じで追い出されたしな。今戻っても大丈夫かな……」
「大丈夫ですよ。ボクが仲間になったんですぐ見つかりますよって大口叩けばいいんですよ」

 ほら行きますよ、と悩む僕を引きずるように響斗は美術部の部室へと向かい、扉の前に立つと「部長ー? ボクでーす。響斗でーす」と呼びかける。
 しかし、部屋からはなんの返事も返ってこない。部長の耳には届いていないのか、それともまだ戻ってきていいタイミングではなかったか。

「部長ー? 入りますねー」

 響斗がガラガラと音を立てながら扉を開けた。彼の背後から部屋の中を覗くと、部長が座っていたイスは寂しそうにそこに佇んでいるだけ。見渡してみても部長の姿はない。

「神城先輩、部長いないですよ」

 部屋の中に足を踏み入れ隈なく探してみても、彼女の影は見つかりもしない。おかしいなと首を傾げていると、口を尖らせ不機嫌そうにした響斗がこちらを睨んでいた。

「もー、どこにもいないじゃないですか。怒って帰っちゃったんじゃないですか?」
「いや、それはないよ。だってこの鞄は部長のだし」

 そう言って僕は響斗にもわかるように指をさした。その先には棚の横に置かれた鞄がある。

「どこにいったんだろう。自販機のところかな」

 待ってれば来るだろ、その言葉を発する前に響斗の少し大きめな声が部屋中に響いた。

「先輩、これ」

 彼がキャンバスを指さしながら口をポカンと開けていた。それは部長の使っていたもので、僕はゆっくり近づきそれを覗き見る。

「えっ、なんだ、これ」

 部長の水彩画、一度描いたら修正することはできないはずなのに、サツマイモがあった部分だけ綺麗に真っ白になっている。まるで、現実で起こったことを写すかのように。

「これは、ホントに消えてますね。サツマイモ」

 キャンバスの下には見慣れたヘアゴムがちぎれて横たわっていた。


続く
担当:白樺桜樹

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?