【晩夏のゾーッとするクラシック・4】 [ 閲 覧 注 意 !] レスピーギ:ローマの祭~アヴェ・ネローネ祭/ロリン・マゼール&クリーヴランド管弦楽団【皇帝ネロ主催の残酷な祭】
レスピーギの「ローマ三部作」
イタリアの作曲家オットリーノ・レスピーギ(1876-1939)は、ローマの栄光を讃えた3曲の交響詩を作曲しました。「ローマの噴水」「ローマの松」「ローマの祭」です。この3つの交響詩を「ローマ三部作」とも呼んでいます。
各曲とも4つの部分に分かれ、それぞれ表題が付けられています。
交響詩「ローマの噴水」
・夜明けのジュリアの谷の噴水
・朝のトリトンの噴水
・昼のトレヴィの噴水
・黄昏のメディチ荘の噴水
交響詩「ローマの松」
・ボルゲーゼ荘の松
・カタコンブ付近の松
・ジャニコロの松
・アッピア街道の松
交響詩「ローマの祭」
・アヴェ・ネローネ祭
・五十年祭
・十月祭
・主顕祭
☆「アヴェ・ネローネ祭」は「チルチェンセス」との表記が一般的ですが、ほかの三部と音韻を踏んでいた方がカッコいいので、この表記にしました。
ちなみに「サーカス」の語源となったのが「チルチェンセス」です。
「ローマの噴水」は叙情的、「ローマの松」は芸術的、「ローマの祭」は通俗的と評されますが、今回は「ローマの祭」と「ローマの松」をカップリングした名盤です。
曲目と演奏者
オットリーノ・レスピーギ
交響詩「ローマの祭」
交響詩「ローマの松」
ニコライ・リムスキー=コルサコフ
「金鶏」組曲
指揮:ロリン・マゼール クリーヴランド管弦楽団
前に記したように、各曲は4つの部分に分かれ、それぞれに表題が付けられています。
「ローマの祭」は、古代ローマ→ロマネスク時代→ルネサンス時代→20世紀の現代の4つの祭に託して、ローマの歴史をたどります。
「ローマの松」はローマ市内各所の松に託して、ローマの栄光を讃えます。
交響詩「ローマの祭」
アヴェ・ネローネ祭
この祭は、皇帝ネロが円形競技場でキリスト教徒をライオンに喰わせて処刑した残酷な祭(後述)
五十年祭
この祭は50年に一度行われるロマネスク時代の祭。巡礼が祈りを捧げながらモンテ・マリオの丘を登る。頂に達し、歓喜の声がわき起こり、祝福の鐘が鳴る。
十月祭
ぶどうの収穫を祝うルネサンス時代の祭。ローマの城がぶどうに覆われ、狩りの響き、鐘の音に包まれる。夕暮れ時、恋人たちがマンドリンを奏でながら愛の歌を歌う。
主顕祭
主顕祭前夜のナヴォナ広場。踊り狂う人。売り子の声。魔女ベファーナの人形。手回しオルガンのワルツ。酔っ払い。サルタレロの強烈なリズム。狂喜乱舞。
☆主顕祭の前夜には魔女ベファーナが、暖炉に吊した靴下の中に、よい子にはキャンディーやおもちゃを、悪い子には木炭をプレゼントすると伝承されていました。
マゼール&クリーヴランド管の「ローマの祭」~アヴェ・ネローネ祭
実は「ローマの祭」は「噴水」「松」に比べて演奏頻度は高くありません。楽器編成が大きいこと、「曲が通俗的」という評価がマイナスに働いていること、作曲当時にイタリアを覆っていたファシズムの台頭と関係があるとみなされていることなどが理由とされます。
実際、「噴水」「松」は演奏・録音しても「祭」は演奏しない指揮者もいましたが、マゼールは「祭」を得意としていました。
1曲目の「アヴェ・ネローネ祭」は、皇帝ネロが円形競技場でキリスト教徒を処刑した残酷な祭です。
☆これ以後、太字の部分は閲覧注意です。スプラッターに免疫がない人や心臓の弱い人は読まないでください。
冒頭、つんざくような弦楽器の金切り声(=興奮したローマ市民の叫び)、ファンファーレ(=皇帝ネロの登場)。弦楽器の金切り声とファンファーレが繰り返され、最高潮に達したところで突然静まる。
低音の金管楽器(=檻に入った猛獣が引き出される)、弦楽器による悲痛な歌(=引き出されてきたキリスト教徒の悲歌と祈り)。キリスト教徒たちの悲歌が高まり、血に飢えた猛獣たちの咆哮も響く。バスドラムによる猛獣たちの足音。
突然ファンファーレと冒頭のローマ市民の興奮した叫びが回帰し、処刑が始まる。猛獣たちの檻が開けられる。猛獣たちはキリスト教徒に襲いかかり(以下略)
こんなシーンが、マゼールの切れ味鋭いタクトとクリーヴランド管の鉄壁のアンサンブルで音化されます。(以下略)の部分で鳴り響く無表情なパイプオルガンの響きが恐ろしい・・・・
この曲を聴くと「クラシックを聴くと心が洗われる」「クラシック音楽は情操教育によい」という言説は「一面的でお花畑だなー」と思います。
クラシック音楽初体験が「アヴェ・ネローネ祭」や「幻想交響曲」の「サバトの夜の夢」だったら、絶対に精神が歪むよ。
この残酷劇に続く祈りに満ちた「五十年祭」、秋の収穫の喜びを歌う「十月祭」への流れと刻一刻と変化する表情もみごとです。最終曲の「主顕祭」。「狂喜乱舞」と言っても、完璧なアンサンブルとタクトさばきでの狂喜乱舞です。終結部は案外おとなしく、ここはテンポを上げて音の饗宴で終わってほしい気もしますが、そこまで追い込まないのはマゼールとクリーヴランド管の矜恃でしょう。マゼールは「狂いもの」が得意でしたが、知的な冷静なアプローチでも定評がありました。
ついでですが、「主顕祭」は、8分の1.5拍子という「なんじゃこりゃ!」な拍子が基本になっています。
<次回予告>
【晩夏のゾーッとするクラシック・5】レスピーギ:ローマの松~カタコンブ付近の松/ロリン・マゼール&クリーヴランド管弦楽団【地下墓地に眠る死者たちの祈りと歌】
同じCDの紹介を2回続けてしまいますが、もうこのCDは内容が濃すぎるので。