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サロンドショコラに行けなかった私がトチ狂ったおはなし

私は激怒した。必ず、今年はかの豪華絢爛な、年に一度の魅惑の祭典に行かねばならぬと決意していた。私は、主婦である。私はパートをしていた。2月。パート仲間が、家族が、インフルエンザにバタバタ倒れて行く。結果、ただ一人元気だった私は行けなかった。行けなかったのだ。私は激怒した。そして決意したー。

よしわかった!今年は質より量で攻めたろう!!!

と。手元の軍資金は一万円ちょいと。毎月自分のささやかな給料から一年間コツコツ積み立てていた。「それをまた来年にまわせばもっといいの買えるやーん」という正論は置いておく。だって一寸先は闇だもの。明日、今日みたいに生きていられるかなんてそんなのわからないんですもの。ほら、漫画『プリンセスメゾン』の主人公沼ちゃんだって言っている。

いつくるかわからない日を待つよりは、今のベストをつかみたいんです。

池辺葵さん著、『プリンセスメゾン』3巻、193ページの台詞から引用です。だよね沼ちゃん!そう思う!私もそう思うよ!と心の中で呟きながら一万円をポケットに忍ばせて向かった先は、行きつけの地方イオン内にあるスーパー。私は熟考した。さてどうしようか。チョコレート菓子といっても色々だ。駄菓子系のものからお得量袋入りのもの、お酒入りのものポッキータイプなど色々だ。その時の私は、菓子コーナーで両腕を組み眉間にシワを寄せ、さぞかし難しい顔をしていたことだろう。ふと、脳内にキラキラ輝く銀色のアルミホイールが浮かんだ。パリパリ、シャリシャリという音が思い出された。そおっと包み紙を剥がして行く指先。多分これは自分が子供の頃の記憶だ。アルミホイールの先に現れる艶々とした茶色い輝き。パキッ、という心地よい音。一枚の板チョコを、三等分。そうだうちは三人きょうだいで、お菓子は常にいつも三等分だった。大人になってから、一枚の板チョコを一人で全部食べられるようになって、すごく贅沢に思ったっけ。         …というわけでなんとなーく「板チョコに絞ってみよう!」と決めた。決めたら迷ってはいけない。ただでさえ「…やっぱ来年に回したら?お金もったいなくない?」という迷いが出てくるからだ。迷うな、進め!突き進め!そうして私は最初の一枚をカゴの中に入れた。賽は投げられた!ルビコン川を超えたったー!吹っ切れた!とにかくいろんな種類の板チョコを一枚、また一枚、カゴの中に納めて行く。もちろん頭の中で計算をしつつ。これは、これはなんという贅沢、サロンドショコラも贅沢だけどこっちも中々に贅沢ですわと気づくと背中に汗が。カゴの中にはすでに13枚。しかしそれでも、まだ千円くらい、予算は一万円。ま、まだまだイケる………。すると目の前に、とっても素敵なデザインの、カラフルな、あの憧れのMeiji THE Chocolateが並んでいるではありませんか。………………………全種類一気買いができるやん……………………………。脳内にまずいホルモンがぶわああっと分泌されたような気がしました。どうしよう、と一瞬迷った、が!しかし!その時スーパーのBGMで流れてきたのはアナ雪「レリゴー、レリゴー」のあのメロディだった!これはもう神様の偶然では、let it goですよ!行きましょうありのままに!というわけで、全種類カゴに一気入れ。そしてこのスーパーの板チョコ全種類制覇となり、レジへと向かう。幸いバレンタインイベント中、カゴいっぱいでもおかしくない!気が楽だなあ〜とほっこり。ここでのお会計は、26種類購入して、4041円。マイお買い物バックいっぱいのチョコレートをぶら下げ、まだ6000円分イケるという事実に呆然とする。どうしよう。26枚も買ったらもう十分だよねー、普通ならきっとそう。しかし。しかしだ。ルビコン川を超えたらやっぱローマまで行かないと駄目じゃない!?という謎の思考に突き動かされた。スーパーの隣に、輸入食品を取り扱うお店があった………止まらなかった……足は馬のように軽やかに走った。輸入チョコレートってどうしてあんなに魅惑的なんでしょうね。しかもバレンタインフェアでいつもよりお安くなっているという更なる誘惑。ここでは9点買いで3260円!計、7301円!え………まだイケるのお!?35枚買ってもまだ予算内ー!???と驚く。あと3000円!?他にチョコレート売ってるとこってどこだ?とキョロキョロ探すと、ドラッグストアが。そうだドラッグストアでもお菓子置いてるよねー!とハンティング開始すると、あるわあるわ違う種類のチョコレートが!ドラッグストアで9点買いして、1713円。合計44枚で、9014円。

これにてお買い物終了!帰宅するとすぐ、私は戦利品をテーブル一面に並べた。カラフルに染まったテーブルを眺め、私はその時、確実に幸せであった。悔いは無い。サロンドショコラに行けなかったけれど、これはこれでなんという贅沢であろうか。いけないことをしてしまったという気持ちもあるが、サロンドショコラだと多分、いいものだと5個から6個くらいしか購入できなかったであろうことを思うと、これはこれでいいんじゃないか?と思ったりして。そうして家族が帰ってきた。子ども①は見るなり「ちょっとお母さん!何やってんのーーー!」と叫び、子ども②は「祭りじゃ祭りじゃー!」と奇声を発しながらテーブルの回りを踊りはじめた。「おかーさん来年はチロルでやってー!」「五圓チョコでー!」とか恐ろしい事を言う子どもたちを相手にしていると、夫が帰ってきた。夫はチョコいっぱいのテーブル周囲を、えっほえっほ踊っている妻と子どもを文字通り目を丸くして立ち尽くし、そして

「HAHAHA!馬鹿ダネ☆!」

と笑い飛ばしてくれた。良い夫でよかった。ありがとう。ありがとう、夫よ。夫のためというよりは私の欲望がメインのチョコレートハンティングだったんだけどね!!ごめんなさい!しかもこれ、賞味期限とか全く考えてなかったね!一年持つかな!?しかし!それでも結論として、家族みんなが笑顔になりました。結果オーライ、って事で許してくださいな。

ハッピーバレンタイン❣️




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