存在しないディスクレビュー(1)

皆さんは秋宮障次郎というアーティストをご存知だろうか、普段からemo/skramzを好んで聴く人ならば1度はこのパンチしかない字面を見たことがあるはずだ。
秋宮障次郎は秋宮SHO(Vocal)ケミ時雨(guitar,chorus)
からなるskramzデュオだ。
筆者が初めに彼らを認知したのは今から3年ほど前に遡る。いつもの様にSoundCloudのfans all likeを頼りにアングラアーティストのディグを楽しんでいた時だ。2021年頃の彼らはまだSoundCloudの若い世代を中心にカルト的人気を誇っていたTRAP METALのシーンの重鎮。という認識だったが1年ぶり、2022の夏頃にyoutubeにupされた「boy meets girl」のmv(現在は削除済)で彼等を再確認した時は先程のハードなtrapのサウンドから打って変わってかなりバンドサウンド、5000やthe cabsなどのemo/skramzからの影響を強く感じさせるものだった。
もちろんその曲は素晴らしいものだったがヒップホップサイドのリスナーからすればこれは決して喜べる進化では無かっただろう。
実際彼らの今のリスナー層はバンド好きが大半を占めていると思う。筆者の様に彼らの前世を(失礼)知る人間もかなり少なくなってしまったのではないか。

話がまたそれてしまった。私の悪い癖だ。
それでは早速彼らが昨年末リリースした1st EPのレビューを書いて行こうと思う。

秋宮障次郎1st EP/恨島トンネル
Tracklist
01 まがい物(feat.初音ミク)
02 スーパー・ドメスティック・ヴァイオレンス
03 グミチョコラムネ
04 希望の無い世界で、なう(2023/11/14 10:23:20)
05 未来栄光

1stEP恨島トンネル。リリースされた瞬間に聴いた。
今までにもアルバムリリース(mixtapeという名目だが実質アルバムである)は度々確認されたが現在は全て削除されている。新作がリリースされる度に前作が抹消される彼らの全貌を知りたい方はiTunes,bandcamp等でしっかり購入&ダウンロードしておく事を強く推奨する。
肝心な内容だが彼らは本当に期待をいい意味で裏切ってくれる。今作は全編絶叫無しそして楽曲の節々からは歌謡曲を思わせる独特なイナたさが確認できる。これはサウンドこそ現代の激情と似ても似つかないがかつて三上寛が世に知らしめた新しい激情の形のように彼らも現代における新たな激情を完成させたのではないだろうか。次は全曲レビューに移る。

01 まがい物(feat.初音ミク)

この曲はEPのintro的役割を果たしている。
アコースティックギター1本の弾き語りであり秋宮の決して上手では無いが不器用にも力強く歌い上げる美メロには心を殴られる様な感覚を感じる。終盤ボーカロイド初音ミクによって呟かれるポエトリーリーディンも素晴らしい。

02 スーパー・ドメスティック・ヴァイオレンス

今作で唯一アップテンポな楽曲でありケミ時雨がメインボーカルを務めている。この曲がもし現実を歌った物であるのならばこの世界には絶望しか存在しない。
自らが人間として生きる難しさや鬱屈とした家庭の思い出を過度にフォルマントシフトされたボーカルによって歌われる。筆者はこの曲をあえてjpopであると提唱したい。それくらい希望に満ちていなければ彼は救われない。

03 グミチョコラムネ

次はinstrumentalである。おそらくskit的立ち位置なのだろう。SEでは2022年に滅亡したとある王国の国王による全世界に向けた降伏宣言が流れるのだが政治的思想を普段一切感じさせない彼らがこれを歌うとは思わなんだ。またそれをインストで表現するという点に驚きを隠せない、ある種のレベルミュージックの形であることは
まだ断言出来ないが革命であることに間違いは無い。

04 希望の無い世界で、なう(2023/11/14 10:23:20)

もはやこの曲は伝説である。後の世に語り継がれる名曲であることが確定している。サウンド面で言えば銀杏BOYSや中期GEZANを感じさせる真正面なロックなのだが(もはや青春パンクをも感じさせる)歌詞に光が無さすぎる。絶望をここまで多幸で包む秋宮は月並みな言い方になってしまうが天才であり他に言葉は必要ない。
一聴した分には下北沢に多く生息するサブカルもどき共でもぶち上がりそう。

05 未来栄光

ここに来て全てを肯定してくれた。この地球に存在する全てのもの、既に絶滅した恐竜や忌まわしき観測者にすら愛情を与えている。秋宮のボーカルもさることながらケミ時雨のピアノ演奏とバッキングコーラスが本当に素晴らしい。この曲は全小・中学校の卒業式で歌われるべきである、来たる世界滅亡の日では全人類でこの曲を歌おう。最期の日を激情で埋め尽くすことで救済は降る。

いかがだっただろうか秋宮障次郎、本当に素晴らしいアーティスト達だ。この記事を読んだ全ての人間が彼らにたどり着けることを祈っている。


※この記事はフィクションです。



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