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まどろみ荘 小雑記

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ヘンな下宿に住む、無数のヘンな住人達のお話。
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2015年9月の記事一覧

まどろみ荘小雑記 その六

どこかから吹き込んだ落ち葉が、くるくるとまわりつづける四畳半 まわるうちに葉は 2枚になった

橙色の服の人が ふさふさ尻尾を ゆる振り フライパンも振る

紺色の服の人は泳ぎながら はりきって壁紙を変えている

橙さんには模様が現われる壁だけが見え、紺さんには良い匂いだけがする 少しずれた平行の部屋ずつの、重ね写しの 秋の気配

まどろみ荘小雑記 その五

水草がゆれる四畳半で、ぼさぼさの髪した人が 中型の動物に もう勝手に出たらいけないよ、帰って来れなくなっちゃうからね と言って聞かせ 柔らかくなでる するりするりとゆれる尻尾と、のんびりと閉じられた眼

背や お顔 ずいぶん白い毛が増えた 過ぎる日と いつかの日を考えたのか 鼻を赤くしながら その人と動物 しばし見あい

すずめの頭と羽をした猫 にゃぁ、の代わりに ちゅん と鳴いた  

まどろみ荘小雑記 その四

壁に動く青空の描かれた畳敷きの部屋には 誰もいない ただただ風が 棚の色つきの空き瓶をすりぬけ壁から壁へ吹き渡っている

その下 所々ほつれた畳の間から 透けた人が顔を出した 手には、コンビニのおでんの小袋ーちくわぶと、ほたる石と、大根と玉子

するぅりと体全てぬけだしたところで、塩アイスを買い忘れたことに気付く

あぁ なんでかなぁの溜息のそば 赤い蜻蛉が壁の空へ吸い込まれていった

まどろみ荘 小雑記 その三

雄大に行き交う球形の海や野がみえる 木枠の窓の部屋で、銀色の服の3人が ちらしを眺めていた

一人は安い庭付き可住区域の価格を見比べ、もう一人は彗星弁当に心躍り、あと一人は好きなスタイルのお得な宇宙服を切り出して貼っている

灯りのない青い部屋、白や水色の小さな稲妻が かれらの頭上を ちりちりと

それでは またの日に、へんてこな住人のお話を。