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【短編小説】君の見る色彩

僕にはこの世界が歪で、それでいて美しく見えた。
この世界を言葉で表現するとしたら、一体何になるだろう。

朝起きる。
流れ作業でスマホを手に取り、ネットの世界へログインする。
あちらの世界はいつ見ても騒がしく、まだ脳が起きていなくても強制的に目が覚める。

「〇〇は正しい?正しくない?」
「〇〇という事が起きました、皆さんどう思いますか?」
という投稿がやたらと目に入る。

「こんなのがバズるなんてくだらねぇな」

ネットの世界は怖い。
自我を保たれなければ、すぐにあちら側の住民になる。
最近は特に、大勢の意見が正しいという風潮が強いと感じる。

再生数が多い=真の意味で面白い、世間に認められている人、と錯覚を起こす。
数字を持っていなくても、世の中面白い人はたくさん居るのに。

最初は無名でバッシングを受けていた有名人でも、バズればみんなが掌返して褒め称える。

なんて気持ちの悪い世界だ。


それでも僕は現在、ネットの世界で配信活動をしている。



結果論だけ見て批判する者、長いものに巻かれる者。
全てが鬱陶しくて仕方がない。

そして当然のように存在するいじめ。
心の優しい人が損をする世界。
正直者がバカを見るという言葉に違和感を覚える。

生きづらい自分を安心材料にしてもらうべく始めた配信活動。

しかし現実は、少し卑怯な人か、少し危ない橋を渡る人の方がバズりやすい。
真面目に綺麗な作品を作っている人の方が埋もれやすい。

この世界は歪だ。
嫌になる。




それでも、僕自信が潰れない理由が存在する。

この世界には、少しだけ優しい世界が広がっていると教えてくれた人たちがいた。

「僕には才能がない」
「才能なんてこちらが決める事だ」

「僕はなにをやっても上手くいかない」
「君はまだ片足を突っ込んだばかりじゃないか」

「これは同情でもお世辞でもない、君の勇気の結果なんだよ」


見てきたこの世界はあんなにも歪だが、同時に美しさも兼ね備えている気がした。

僕はほんの少しの希望を胸に、また前へ歩き出す。

「リアルじゃ救いのない世界かもしれないけれど、きっと人を救える奴になれるよ」


例え数多の人間が敵になったとしても、僕はきっと前を向ける。
絶望することが多いこの世界で、それでいてこんなにダメな人間でもなんとかやっていけてる。

息がくるしい、溺れてしまいそうだ。
だけど、この世界はまだまだ捨てたもんじゃない。



まるで適当に絵の具を塗り広げたパレットのような、汚くも美しい世界が広がっている気がした。
絵の具はある程度汚く描いても美しく見える。

これからも歩み続ける。
この世界に、少しでも綺麗な色を足せるように。

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