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3. 合意的現実


  歴史の勉強がとにかく苦手。だけれどテレビの特集とか大河ドラマとか、観始めちゃうと止められないみたいなヤツ。ドラマティックじゃないと頭が動かないのかも、昔から暗記ができなくて、とにかく社会科系の勉強は避けてきた。数字と言葉が好きだし満足してる。

  高校時代にひとりだけ、たくさんのプラスアルファを混じえた授業をする倫理学の先生がいた。その先生の授業はプリントが完璧に作られていたから、理系クラスのわたしたちにとっては絶好の昼寝チャンスタイムだった。頭を上げてニヤニヤしながら授業を受けていたのはわたしくらいで。誰も先生の言うことを聞いてもいないのに、わたしだけ夢中で笑っているみたいな時間が大好きで、完璧なプリントがメモだらけで隙間も無くなっちゃうみたいな。定期テストでだいたい95点は取っていた。理系だし医療系希望でもなかったから倫理学なんて一切勉強しなくていいのに、中学受験に失敗して以降で勉強が楽しいと思えたのはあの時間だけだった。

  地味で陰気臭くて魅力いっぱいの先生は哲学科の院卒でB型、理系の先生たちと近しい匂いがして大好きだった。(わたしは5年間B型の化学の先生に片想いしていたんだけれど、B型の理系には本当にうんざり、わたしもそうだから。余談。) その倫理学の先生が熱を抑えて解説してくれたのが、ジグムントフロイドだった。高校3年生の夏に、物理学から心理学へ進路変更しようか迷ったのは、ジグムントフロイドのせいだった。ジグムントフロイドとお話したかったからだった。

  一部の心理学者や哲学者は、存在証明を認知ありきだとした。ジグムントフロイドは、わたしだけが「それ」を信じるのだとしても「それ」の存在証明になると言った。わたしはそんな彼が大好きで、彼の考え方にメロメロに酔ってしまったユングや村上春樹のことはちょっと冷めた目でみてしまう。彼は気持ち悪くて、変態で、考えもつかない性癖ばかりで、優しくて酷くて愛と欲に満ちていて、そんな美しいひとにわたしが酔うなんて癪に障る。対等でいられないなんて絶対に嫌だ。

  わたしだけにわかることがあるとして、誰かがそれを信じてくれたら、とても幸せ。苦しさは変わらないけれど、幸せがうまれる。ひとりでは耐え難い現実ばかりだけれど。わたしはジグムントフロイドを信じているし、いつでも彼は目の前にいるし、幸せ。

 

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