『セツアンの善人』
冒頭から、これは今の世界、今のこの国を映し出した作品だと思った。
自分勝手に動き回り、ペットボトルの空容器をポイポイ投げ捨てる人々。
床に転がったままでも、誰も気にもしない。
一昔前の近未来的にキュービカルな舞台美術、上からは少しレトロなプロペラと電球が滑らかに上下し、衣装は民族衣装の気配を纏っていて、場所も時代も曖昧に描かれているけれど。
水売りのワンの「みんな喰うのに必死でギスギスしてる」と言う台詞。
シェン・タが歌う「どうして悪行が報われ、善行が酷い仕打ちを受けるのでしょう」と言う歌詞。
第二次世界大戦中、ブレヒトがナチスの迫害から逃れ転々と亡命する中で1940〜41年に書き上げられ、43年にチューリッヒで初演となったこの作品が、こんなにも現代日本と重なる事に戦慄を禁じ得ない。
最後観客に投げ掛けられた問いを、私たち一人一人が真剣に考え行動していかねば、善人が報われる世は来ないだろう。
作:ベルトルト・ブレヒト
上演台本・演出:白井晃
キャスト:葵わかな 木村達成 渡部豪太 七瀬なつみ あめくみちこ 栗田桃子 粟野史浩 枝元萌 斉藤悠 小柳友 大場みなみ 小日向春平 佐々木春香 小林勝也 松澤一之 小宮孝泰 ラサール石井
演奏:磯部舞子(Vn. 東京公演) 島津由美(Vc.) 熊谷太輔(Perc.)/加藤優美(Vn. 兵庫公演)
スウィング:渡邊りょう 伊藤麗
東京公演:24年10月16日(水)~11月4日(月・休)@世田谷パブリックシアター
兵庫公演:24年10月29日(火)〜31日(木)@芸術文化センター 阪急中ホール