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「バス来たね」「はい!」

朝?4時に起きてしまう。ここは秋田駅前のホテルだ。昨夜の酒が悪さをしている。もう最近たくさんは飲めなくなった。コーヒーも1日2杯、酒も2杯が限界だ。最後の居酒屋で自分の皿に乗せた料理を食べられなかったことを今でも後悔している。美味しかったのに。ここまでは手書きで書いたが、鬱陶しくなってしまってタイピングに切り替えた。ああ、PCに最適化された身体。なんということだ。

朝早く起きると、どうしても暗い気分になる。二度寝もできないので音楽でも聴こう。最近は日食なつこさんというアーティストのことを二度聞き(新しいアーティストも別の人から2回聞くと忘れないものだ)彼女の歌をよく聴いている。「夕闇絵画」と「やえ」という曲をどうにも自分と重ねてしまってつらい。曲と自分を重ねられるようになったのは、忘れもしない23歳の時からだ。他者との関係性の経験が増えると読解力が増す。読解力は増す方がいいのだろうか。わからない。

普段は朝食抜きのプランにするのだが、今回は手配の都合上朝食が付いているので、老人みたいだなと思いつつ6時半すぎに身支度をして朝食を食べる。

きりたんぽ鍋が朝からある。せりを入れ放題にできるのが良かった。薬味はなんでも好きだ。薬味でできた家に住みたい。いや、そこまでではない。

お腹がいっぱいになって、コーヒーを飲んだら精神が緩んだのか眠れそうな気分になってきた。音楽を小さい音量でかけながら横になる。寝るときに音楽をかける習慣は自分にはなかった習慣だ。

最初は日食なつこが流れていたはずだが、途中で起きるたびに藤井風が歌っている。藤井風が「なんなん」と言っている。と思いながら二、三回ねた。最後に起きた時は藤井風が雨の中歌っていた。

そろそろチェックアウトの時間だ。荷物を詰めてチェックアウトする。ホテルを出る時いつもドアを閉めておくべきか、清掃の方のために開けておくべきか悩む。でも何か客室内で起きて、それを自分のせいにされたくないなという小心者的理由でしっかりと鍵を閉めてフロントに向かう。

フロントで鍵を返し、秋田の街に出る。さてどうしようか…

街の中を歩こうかとも思っていたが、雨が降っているのであまり歩きたくない。旅行会社から日帰り温泉のクーポンをもらっていることを思い出し、路線バス20分のところにある日帰り温泉に行くことにした。

運よく、1時間に一本のバスが数分後に出る。それに乗ろう。バスに乗ると、秋田市街をぬけ、すぐに住宅地のようなエリアに入る。歩道が広い。

日帰り温泉はお客さんがいなくて最高だ。露天風呂で歌う。中村佳穂の「忘れっぽい天使」を替え歌して歌う。湯気だか、霧だかわからないモヤが風呂の周りを漂っている…私はどこにいるんだろう。

風呂にも最近は長く入れない。一時間もせずに上がる。バスまで少し時間があるので、歩きながら駅に向かってみる。途中、車がたくさん停まってる食堂があったので入ってみる。良さそうなラーメン屋さんだ。

野菜正油ラーメンを食べる。きりたんぽ鍋のようなスープ、美味しい…あたたまる。

店を出ると、バス停があった。バスは10分後にくるという。最高だ。どうせバスを使う人などいないだろうと思い歌う。歌に夢中になっていると、道の向こう側にお婆さんが立っていることに気がつく。恥ずかしい…お婆さんが道を渡ってきて私の後ろに立つ。バスが来る。

「バス来たね」
「はい!」

バスに乗る人は皆無口だ。

秋田市内をふらふら歩いて、気になった服屋さんで服を買う。私としては清水の舞台を飛び降りる値段だったが、えいままよである。新しい自分になるためには新しい衣装が必要だ。と言い聞かせつつ、カードの支払いを2回払いに後から変更しようと心に誓う。

服屋さんに勧められたカフェに行ったり、不思議な古本屋に行ったりしていたら、もう夜だ。空港に向かう。

空港でうどんを啜る。つけ汁がうまい。比内地鶏の出汁はなぜこんなに美味しいのだろうか。少しの酸味がポイントな気がする。

空港で日記を書く。今日は長い1日だった。

機内ではインターネットに繋がったので、大河ドラマを見ていた。平安時代を主題にしたものは結構なんでも好きだ。

羽田に着陸した。お金がないからマイルで飛行機に乗っているが、なんだか倒錯している気がする。

飛行機を降り、電車のホームに着くとなんだか工業的な匂いを感じる。他の場所から東京に帰ってくると、こんなにいろんな匂いがするのに普段は感覚が鈍麻していて気がつかないということに気がつく。

自分と同じだ。一旦自分を離れないと、自分の臭さや楽しさには気がつくことができない。こんなふうにまとめようとしている自分はあまり好きではない。この辺にしておこう。

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