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風が強い日に桜を見た

風が強かった。ベンチに座っていたら、思わず目をつぶってしまうほどの突風が何度も吹いた。細かくなった枯れ葉が舞っており、風の形が見えるようだった。

右から風が吹き、くるくると渦を巻く。

左から風が吹き、髪の間に落ち葉が挟まる。

下から風が吹き、ノートを押さえた指の腹に枯れ葉が挟まる。

しかし、太陽の光は暖かく、立春を越え着実に春に向かっていることを知る。

季節が変わっている。

風も、波も動きのあるものは全て、差分から発生している。高気圧から低気圧に空気が動く。地球の自転に従って渦をまく。暖かい空気は上昇し、冷たい空気は下降する。

温度や気圧、重力に「差」があるから流体は常に動き続けている。

「差」は私たちを魅了する。大航海時代、胡椒に魅了された人々が金とスパイスを交換した。ワインの絶妙な差異に大金を払う人がいる。できないことができる人に憧れる。

分断することで「差」をつくることもできる。汚いものと清いもの、信頼できることとできないこと、敵と味方、同胞と異邦人。差がなかったところを分断し差異が発生する。

分断されたものも、断絶に甘んじるのではなく越境する。エネルギーが高いところから低いところへ、流れていく。避けていく。凌いでいく。

公園の向こう側にピンク色の影が見えた。紅梅だろうか。

近づいてみるとどうも、花の形が桜のようだ。
木肌も桜の質感がある。

「河津桜、かもしれませんね」

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