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【レビュー(Review)】ズートピア(Zootopia)

(以下、今年3月ぐらいの感想なので、詰めの甘いトコ多々あるが、まあそれも一興)

事前評判の高さや、直接やり取りしている方々から「見たら感想を是非」と言われていたので、デッドプールに続く今年2つ目の大きな話題作、「ズートピア(Zootopia)」を見てきた。

家族連れが大挙する「サンタアニタ・モール(Santa Anita Mall)」へ、日曜の午前中に向かったからか、1人$7で見れる午前の回は完売。

午後以降はチケット代が1人$12にハネあがるので、どうしようかと思ったが、3D/IMAX仕様の席がまだ余っていたので、せっかくだから$13払ってそっちを選んだ。

私と同じく、安いチケットは買えなかったけど、まあ少し高めに払っても良いかと思った家族が意外に多かったらしく、3D/IMAX席も、午前中にも関わらずかなり埋まっていた。

結論から言えば、これは大正解。

このズートピア、物凄く面白かった

「普通に」ではなく、「物凄く」、だ。

単なる可愛いキャラものとしても、
矢継ぎ早に展開していくアクション・アドベンチャーとしても、意外性を帯びた犯罪スリラーとしても、
主人公たちのまっすぐな成長物語としても、
豊潤な世界観・ビジュアルイメージを楽しむにしても、
野生動物と哺乳類との関係性を喩えに人間社会を炙り出したテーマにしても、
何よりも豪快で美しいアニメーション作品としても、
とにかく全ての歯車が2時間弱で綺麗に噛み合った、ピクサーの新たな代表作なのはもう間違いない。

日本では4月23日(土)と、ゴールデンウィークに合わせての公開だが、日本でもこれはほぼ確実に当たると思う

一般的な感想としては……:

1. キャラクターたちがかわいい

2. キャラクターたちがカワイイ

3. キャラクターたちが可愛い

……の辺りにまず着地するので、可愛いものに対して目の肥えている日本の客にこそ、ヒットは確実だろう。

それぐらい今回、ピクサーとディズニーは、可愛いキャラクター目当てで来るお客さんたちを全力で「殺しに」かかっている。

全てのキャラクターは動物を擬人化したものだが、表情の豊かさや木目細かな動き、毛皮の質感(これが本当に凄い、特に羊のキャラ)が常に見所になっているので、文字通り作品自体が「動物の楽園(Zoo + Utopia)」になっており、タイトルから得た客の期待に最初から最後まで応えている。

擬人化された動物好きの、所謂ケモナーな方々に触れた、ちょっとした騒ぎが公開前にネット上で起こっていたが、むしろ本作のこの最初の大きなセールス・ポイントは、余計に騒ぎを大きくする燃料投下バッチリといったところだ。

そうした動物たちが所狭しと遊び、暴れ回りながらも、住み分けがきちんとされているのをたった数カットで魅せていく世界観にもまた、このアニメーション作品の素晴らしさが打ち出されている。

雪が降り続ける町など、ストーリーの中心にはほとんど関わってこない背景やオブジェが印象的なビジュアルに富んでいるから、もうそれこそ、これをベーシックな素材にして想像を膨らませて、ファンアートや同人誌を作ってください、と言わんばかりのサービスぶりだ。

勿論本作はそれだけでは終わらず、内容に密度を求める大人や映画好きを大変満足させるシカケが、あちこちに施されている。

まず大きな点として、アクション・アドベンチャーとして非常にタイトに作られていること。

ピクサーお得意の豪快なアニメーションを最大限に活かしているだけでなく、主人公視点が一切ブレること無く、起承転結が分かりやすく配されているから、受け手が置いてかれず、スムーズに物語に入っていける。

主人公のウサギ(ジュディ)が、積極的且つ行動派で、明るく、困難にもめげず(物語の後半で、主人公が大きな挫折を味わうお約束も、そこで活きてくる)、良い意味での正義感に溢れている(多少の悪さには、それが実を結ぶなら目をつむる)辺りもまた、視聴者の共感を非常に得やすい。

その相棒となるキツネ(ニック)も、やさぐれていて最初は取っつき辛いイメージを持たせつつも「実は……」という、これまたピクサーのスタッフのキャラ作りの巧さを感じさせる、深みのあるキャラクターだ。

細かい伏線とその回収もあちこちに張られていて、前半で出したコントを後半そっくりそのまま「対象を逆転させた状態で」出してくる、ささやかな正義の行動が後に実を結ぶ、といった小技が逐一冴えていて、そうした部分でも見所が沢山ある。この2匹の掛け合いの面白さがまた、物語を前へ前へと引っ張っており、所謂バディ・ムービーとして見ても、完成度が非常に高い。

多彩で豊潤なアニメーションによるアクションやビジュアルだけに頼らず、ストーリー面でも、破たんすることなく、あっちを返してはこっちを返しての連続で、主人公が警察に勤務という設定を活かした、犯罪スリラーものとしても、極めて良く出来ている。

文字通り「野生動物が牙を剥く」シーンなどは、小さい子供を本気で怖がらせるクオリティに仕上がっているし、事件の全容が見え始める辺りからは客席が驚きで(というよりはビビって立ち上がって)揺れた瞬間もあった。

実際この作品、擬人化された動物が集まるユートピア、という設定を基にして、人間社会そのものを風刺している。

大きな都市に人々が集まれば、まっすぐに生きる人も居れば、ほとんど詐欺に近いやり方で小銭を稼ぐ人も居るし、裏社会も形成すれば、権力者の間にも腐敗した物事が発生してくる。

特に後半、ある事件をきっかけに、楽園が崩壊しかかるシーンなどは、アメリカでいつも起こっている人種差別問題に、思いっきり踏み込んでいる。

そうして起伏激しく展開しつつも、最終的には立派な、主人公たちの成長物語になってもいるから、家族向けとしても最後まで安心して見ていられる。

主人公が前面に出すポジティブさと抱擁さは、子供の情操教育にもピッタリだし、若い視聴者へのロール・モデル及びインスピレーションにも、これ以上に無い程。

また、騒動を起こした黒幕の行動原理にも、一貫したスジが通っており、悪役にもきちんと華を持たせるピクサーの巧さがここでも、十二分に発揮されている。

ちなみに大人たちが一番、子供を置き去りにして爆笑し続けたのは、陸運局(その略は、Department of Mammal Vehiclesと、これまたヒトヒネリあり)の担当職員が全員、ナマケモノというシーン。

こっちの陸運局の、とにかく仕事の適当さと遅さを、身を持って知っている住人にすれば、これほど的確な風刺はないから。

以前ネタにしたように、私も陸運局ではかなり腹立つ思いをしたので、このシーンは笑いっぱなしだった。

その他、細かいネタだと、チンピラが路上で海賊版DVDを売りつけていると思ったらそれらのタイトルが「Pig Hero Six」だったりと、ピクサーやディズニーの作品好きならば思わず身を乗り出す「地雷」があちこちに撒かれていて、そうした遊び心も満載だ。

その意味で、DVDで入手して、繰り返しの鑑賞にも、十分耐える。

主題歌に目を向けると、ガゼルのポップシンガーを実際に演じて歌っているのがシャキーラ(Shakira)というのもまた、作品のお祭り騒ぎぶりに適しており、そうした部分も抜かりが無い。

そして何よりも、これ一作で完結しておらず、続編やスピンオフを幾らでも作れるスペースを残している辺り、ズートピアというブランドをいきなり確立している感がある。

ハッキリ言ってジャンルは全く違うけど、社会をテーマにし、多角的な面から楽しめつつ、全てがちゃんと一本にまとまっている映画と言う意味では、個人的にはブラジル映画「シティ・オブ・ゴッド」を見た時と同等のインパクトを受けた。

今日の客入りを見れば一目瞭然だが、週末のアメリカ興行収入でも約7,400万ドル(約80億円)でぶっちぎりの1位だし、こういう、本当の意味で完成された作品がマジョリティにウケるのは大歓迎だし、私自身も一人でも多くの日本人にも見て欲しいと思い、長々と見所を、ネタばれに極力ならないよう、書いてみた。

日本に居る方々にも、是非期待を膨らませて、ゴールデンウィークに存分に楽しんで欲しいと、思う。