おじいちゃんとエアコン戦争の話

 人間は怒りを通り超えると、呆れになる。
 悲しみを通り超えると、笑いになる。

 人間の感情は複雑である。


 おじいちゃんの私小説の中に出てくるエピソードにこんなものがあった。

「戦争で死にいく若者は皆、最後は笑っていた」

 この話は、おじいちゃんなりの戦争の恐ろしさを表現したものなのだろう。


 私のおじいちゃんは、本当にいつも笑顔の人だった。不機嫌なことがほとんど無く、怒っている姿は一度も見たことがない!!

 しかし……一緒に暮らし始め2020年の夏、エアコン戦争が勃発した。

 おじいちゃんの部屋は常にエアコンを入れていた。たまに除湿モードにしたり、その日の気候で快適なモードを選んだりということが、私たちの仕事となった。
 ものすごく私たちは神経を尖らせているのに、おじいちゃんは「寒い」と言ってエアコンを簡単に切ってしまう。
 昔、夏休みにおじいちゃん家に行っていた時は冷房をガンガンに入れて、よくおばあちゃんに怒られていたのになぁ。冷房好きのおじいちゃんが、冷房を嫌がるなんて……ちょっとした年月の移り変わりが少し寂しい。

エアコン戦争は日中だけにとどまらない。知らない間に自分でエアコンを切ってしまうので、私たちは夜中も神経を研ぎ澄ませていた。もしかしたら、この頃はほとんど眠れていなかったのかもしれない。おじいちゃんがトイレに行った隙におじいちゃんの部屋のエアコンを確認しに毎日行った。

 そんな日々が続いたある日。

 この真夏にエアコンを付けないどころか、暖房を入れていた。私たちは「今と昔は違うの!!暑さが異常なの!!外が35℃もあるのに暖房なんか入れてたら死んじゃうよ!!!!」と怒ったその時、おじいちゃんは初めて怒りの感情を見せた。

 私は生まれて初めて、おじいちゃんの怒りの感情を感じた。しかし、その時のおじいちゃんの顔は笑っていた。

 私は、おじいちゃんの複雑な感情が垣間見られた時少し驚いたが、やはり私が守ってあげなければ!!という覚悟に変わった。嫌われてもいいから守らなければと思った。そして、この夏の出来事は今でも思い出して少し胸の奥がキュッとする。


 もうすぐ終戦の日。8月15日ですね。
 お盆も過ぎる頃ですが、昔と違ってまだまだ暑い日々が続きます。

 介護で一番大変なのが、このエアコン問題と言っても過言ではないというくらい、どこのご家庭でも良く話を聞きます。お年寄りはだんだんと皮膚感覚が衰えてきて、体感温度がわからなくなってしまうみたいです。気を付けて見てあげなくてはいけないですね!

 何気ない日常が一番。

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