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初心は折られてなお強く 心に響く 繰り返し

「自分,作業療法って,一体何をする人と思う?」
 一瞬何かを言いかけ,でも言葉を飲み込み,思考が脳を駆け巡る.時間の猶予はそれ程無い,でもその中で自分の信念を表現しなきゃ.逆に言えば,こんな機会は滅多にない.4人と1人,そしてもう1人の瞳がこちらをじっと見据えている.

 きっかけは単純な事.病棟で作業療法を続けて1年くらい,全くの新人から病棟を受け持つようになり,小グループ活動を担当していく中でのささやかな希望をクライアントから聞き,「焼肉パーティをしたい」との言葉を額面通り受けて,栄養部から肉と野菜を調達し,料理室からホットプレートを借り,看護師さんの(おっとこの頃は看護婦か看護士やったかも)「えーやるのー」という視線を物ともせず,「クライアントのやりたいを実現するのが作業療法士」と粋がってた面も今ならあると言える状況.主治医からの許可は何とか貰って,いざ焼肉パーティをデイケアの1室を借りてジュージューと.
 クライアントはがっつく.ジブンもがっつく.一緒に担当していた看護師さんも含めて「うまいうまい」と食べ尽くす餓鬼の群れ.
 満腹感を味わってまったりお茶を飲んでいた矢先,それまでずっと黙って場を見ていたリハ科の上司から,

「自分,作業療法って,一体何をする人と思う?」

 それは何気なく問われた言葉(いやいや,何気なくというのは今思えば違う.それはそれまでのジブンの行動を見ていて,いつか問われていた言葉.それがお誂え向きなタイミングで発せられたに過ぎない).
 多分,この時が,「作業療法とはなんぞや」というのを最初に真剣に考えた時.しどろもどろになりながらも答えたね.
 「人は生まれた時から作業をします.作業にはいろんな事があります.赤ちゃんは世界を探索し,発達します.生まれてから死ぬまで人は作業を行います.暮らし,生活,家事,仕事,趣味,学習,その手伝いをするのが作業療法士です」みたいな話をしたと思われるんよねぇ.
 その時のクライアントの「はあ?」ってなりつつ,「でも一生懸命喋ってくれたし」という感じの生暖かい表情が,書いてて頭に浮かぶ件.看護師と上司の表情までは覚えてない.そっちまで見る余裕は無かったから.
 今ならね,それは作業の説明であって作業療法の説明じゃない.別に間違ってはいないけど,その言葉は単に説明をしているに過ぎず,クライアントとの対話になってない,と言えるんやけどねぇ...
 そして一通り片付けが終わり,各部署へ返却とお礼を済ませて,リハ室へ戻った後の上司からのフィードバック.別に叱られたりしたわけやないんですけどね.でも,
「言ってる事は間違ってない,でもあれじゃ相手にはわかってもらえないよ」
というのは響きました.いや言われるまでもなく,だけどやっぱりはっきり言われて得心したというのはある.「ああ,やっぱりまだまだ未熟や」というのをはっきり思い知らされた.この問いかけはふと慢心した感がある時に頭をよぎります.

プログラマを経て作業療法士へ.精神科病院で病棟やデイケア,通所リハなど渡り歩いた後で自立支援事業所へ.主な担当領域は精神障碍を持つ方の生活支援,特に就労支援が中心.大切な作業を大切に,がモットー.