密なアートの思い出
去年連載が終わった直後数カ月の間にあいちトリエンナーレと瀬戸内国際芸術祭の両方に行った。今となっては幻のような。あいトリの「旅館アポリア」と瀬戸内の豊島にある「ストーム・ハウス」は両方とも家ひとつを装置として映像や演出と物理的家鳴りとともに記憶に語り掛けてくるアートで、どちらも芸術祭の特色が出ていてよかった。
家の中で回る大きなファンの前の狭いスペースにびっちり詰め込まれて轟音に包まれ、飛び立っていく特攻機をイメージしたことや(「旅館アポリア」)、暗く狭い2部屋に思い思いに座って「島の荒天」を体験した(「ストーム・ハウス」)、あれもこれも今は無理なのかと思うと悲しい。部屋に雨漏りをうけるバケツがあるのだけど、照明のせいで水が不思議な感じに見えるので手を出して「あっ本物の水だ」と言ったら外国からきた若者たちが笑った。そんなちょっとしたエピソードが、旅とアートの合体した芸術祭の醍醐味だった。
いつかまた世界中の人とぎゅうぎゅう密になって同じアートを見たりできるんだろうか。時代をとらえ、アートも変わっていくし芸術祭も変わっていくのだろう。今このウィルスが弱毒化したりワクチンができたら元に戻るのだろうか。完全には戻らないのだろうか。旅をよくする方ではないけど、またいつか、と願わずにはいられない。
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