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🎀作品紹介🎀 女王の鞍

機能性や生産性の追求は、人類や社会の発展にも、個人がより豊かな人生を送るためにも大切なこと。
ただその追求の網目から抜け落ちたものを、過去の遺物だと葬り去ってしまっていいのでしょうか。
でもそんな時代だからこそ、酔狂の世界がより芳香を放つのかもしれません。

乗馬好きのココ▪シャネルが、男性用の乗馬ズボンをはき、堂々と馬に跨って乗っていたのは有名な話です。

当時の女性は、馬に乗る際、サイドサドル(横乗り鞍)を使用し、長いスカートを着用したまま横座りをしていました。
「そんなのは実用的ではない」と思ったシャネルは、女性のための快適な乗馬ズボンをデザインしたのです。
シャネルはここでも女性たちを既存の価値観から解放したとされています。

『女王の鞍』と言われるサイドサドルは、中世後期のヨーロッパにおいて、女性たちが長いスカートを着たまま、安全に乗馬できるようにと開発されました。
以後改良が重ねられ、19世紀後半のイギリスにおいて、当時の女性の乗馬ブームと相まって、広く普及しました。

この普及の背景には、当時のイギリス社会の価値観や美意識が深く関係していました。
女性が馬に跨がることはおろか、足を見せることすら下品とされていたのです。
サイドサドルにより、優雅にそして上品に乗馬することができ、女性の騎乗の歴史に大きな貢献を果たしたと言われています。

優雅な乗馬スタイルを可能にしたサイドサドルですが、実は、乗馬者にも、馬にも余分な負担がかかり、健康には良くない乗り方なのだそうです。

そう考えるとシャネルのデザインした女性用の乗馬ファッションは、実用的かつ機能的、しかも人間にも馬にも優しいものでした。
そして彼女や彼女のファッションを好んだ人たちにとって、サイドサドルは女性を束縛する過去の遺物であり、捨て去るべきものだったわけです。

そうは言うものの、長いスカートの裾をはためかせて颯爽と走るサイドサドルの乗馬スタイルに、なんとも言えない美しさや妖しい魅力を感じるのは私だけでしょうか。

厚く張った氷上のクラックの美しさには畏怖の念を抱きます。その美しさには危険が伴います。
安全で機能的なスケートリンクにはない妖しい魅力がそこにはあります。

機能性や実用性だけを基準にモノの価値を決めてしまっていいのだろうかと思います。
私たちの人生は一見無駄や無意味に見えるモノによって、豊かに彩られている側面もあると思っています。

いろんな価値観がある中で、自分が美しいと感じるモノやその感性は大切にしていきたい。
なぜなら無駄と思えるモノに時間やお金や労力を費やす酔狂の世界にこそ、その人のこだわりやその人らしさが息づいていると信じているからです。

作品ページはこちらです。ご覧いただけるとうれしいです。
https://ordinalswallet.com/inscription/2c45190f1ba52764afc2b29e4f5803b200ba4929d6010df6cb947dc5decad9c2i0

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