エッセイ#154 - 青いなにか
自分の部屋の、いつもだいたいここに居るという場所がある。机があって、スマホとか、パソコンとか、本とか、お茶が入ったコップとか、ノートやボールペンとか、とにかく自分に必要なものが周りに散らばっている場所だ。そこにいる時にふと、ツメの先に青い塗料のようなもがちょっとだけ付いている事が何度かあった。どこかにちょっとだけある青い塗料を、ツメで引っ掻いてしまってついたような感じだ。でも、周りを探してもそんな青い塗料のようなものは見つからない。それに、ツメの先以外にその塗料が、例えば服とか周りに置いてある物に付いている気配もない。
一度だけなら、どこか別の場所で引っ掻いたのだろうと思う。けど、一ヶ月ほどしてそんな事はすっかり忘れた頃にまた起こる。それが三度ほど続いて、絶対にこの、いつも居る場所の手の届く範囲に何か青いものがあるのだと確信した。
とは言えそれがどこにあるのか、さっぱり見つからない。手の届く範囲で触れられる物なんてたかが知れているのに、どこにも青いものは無い。釈然としないまま、それでも解決に執着するほど困った事でもないので、いつの間にかまた忘れる。
そうやって日々が過ぎていたのだけど、ある日突然見つけた。
スマホの充電ケーブルの、真っ白な線の1ヶ所に、うっかり青いペンが付いてしまったようなかすれた青を見つけた。私は普段黒ボールペンしか使わないので、そんな所に青いペンのかすれがあるのは不自然なのだ。それでよく見てみたら、ケーブルを覆う白いナイロン(素材は正確ではないけもしれないけど、とにかく絶縁体だ)に小さな亀裂が入っていて、そこにサビがういている。そのサビの部分が擦れて、青いペンがかすれたような色がついていたのだ。
それに気付いて、ここ数ヶ月たまにツメの先についていたいた物の正体がこれだったのだと理解した。わりと端子に近い部分の亀裂で、うっかり引っ掻いてしまいやすい位置だ。ちょっとスマホを使った時に、触れてしまっていたのだろう。
サビってこんなにキレイな種類もあるんだなと思った。緑に近い青の、かなり濃くて鮮やかな色だ。ティッシュで拭いてみると、青よりむしろ緑に近いように見えた。
こんなに近くに、しかも毎日何回も手に取る物についているサビに気付かないものなんだなぁと人間の無頓着さにはおどろいたが、しかしモヤモヤがひとつ解決したのは良かった。そして、このサビのせいでケーブルがいつか突然使えなくなるかもしれないという新しい問題が表面化したのだった。
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