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子どもが飢えている時に、9月入学を議論する余裕はない

コロナで困窮する子育て家庭の実態

 この写真は、外資系金融企業ゴールドマン・サックスの寄付を受けて私が運営するNPO法人キッズドアが1万人の困窮家庭の子どもたちに文房具と2000円のクオカードを届ける「コロナに負けるな!家庭学習応援パック」が届いた子どもからのお礼のハガキだ。

 一方、下は応援パックにお申込みいただいた保護者に「現在の生活で困っていること」を聞いた回答だ。

●収入がほぼなくなってしまったので不安しかない。収入減なのに食費や光熱費等が上がった。
●子供がストレスから奇声をあげたり 部屋中を走り回ったりするので 上下、両隣から苦情がくるかと心配しています。
●金銭的にも不安しかありませんが、子供と二人暮らしで24時間ほぼ一緒なので親の私の方が精神的に疲弊しています。
●収入が減ったので今の生活費も不安ですし、大学にいかせる為にお金があるのかとか子供が大学受験ができるのか不安だらけです。
●今月の家賃が払えるかもわからない。
●食べ盛りの子供が3人いて食費がかさ張る。子供が元気ない。
●仕事が見つからない事への不安
●ハローワークに通うも就職活動が困難
●半年で収入が32万円しかありません。それでも半年間で会社の立て替えた社会保険の支払いが36万円ありました。保険をはらって、それだけで赤字。貯金が底を、つきそうです。児童扶養手当はもらっていません。つらいです
●仕事もなく高校生2人になり学費が払えておりません。高校生には支援が全くありません。高校はせめて卒業させたく思っていますが、金銭余裕がなく困っております。
●収入が激減してしまったので、早く給付金が欲しいです。今月末が不安で不安でたまりません。なんのめどもたってないのが、1番不安でこわいです。
●収入も減り、食べたいものも買ってあげられず、子どもの栄養状態が心配です。
●次の仕事が全く見つからない。残高もあと少しになってしまいました。食事も一日一食です。
●家族みんなでイライラしてしまい、このまま家族関係が悪化して戻れなくなってしまいそうで毎日不安で眠れない。収入もほぼなく、このまま生活ができるのか心配。
●無収入、ネット環境が欲しい
●補償が無い。お金がない。申請書が来ない。全てが遅過ぎて困る。
●5月いっぱい休業要請でしたら6/25の給料日は無給です。

 これはごく一部。4700を超える世帯から申し込みがあり、このような悲痛な叫びが面々と綴られている。5月10日から申し込みを開始した応援パックは、申し込みが殺到し、5日間で終了した。今でも、先着にもれてしまって悲しいというメールをいただく。


子どもも親もどんどん衰弱していく

 私は2009年からNPO法人キッズドアの代表として、日本の子どもの貧困に取り組んでいる。コロナの前でも、日本の子どもの相対的貧困率は13.9% およそ7人に1人は、ギリギリの生活をしていた。わずかな収入でアパートを借りる。貯蓄もほとんどできない余裕のない生活だ。下のグラフは、同じく収入の変化を聞いたものだ。

応援パックアンケート収入

 約3割が収入が5割以上減り、無収入になった方も9%。子育て家庭の家計は急激に悪化している。コロナで働きたくても働けない状況の中、困窮子育て家庭は、すぐに食べることが難しくなるのだ。

 まずは命を守るため、私は同様の危機感をもつ団体と、休校に苦しむ子育て家庭に給付金支給を求めるプロジェクト を立ち上げた。給食がなくなると昼食代の負担が増える。それに耐えられない家庭があるからだ。とにかく早い支給をするために、すでにある児童手当で一律3万円をいち早く現金給付をして欲しいと政府にお願いした。結局これは、児童手当の1万円上乗せというなったが、支給は6月であり、未だ受け取れていない。

 一人10万円の特別定額給付金も、いまだに受け取っていない家庭がほとんどだ。休業補償も緊急小口資金の貸付も、受け取れているのはごく一部でしかない。

 そのような状況で、子どもも親もどんどん衰弱していく。

 コロナの影響が長引くことを想定し、私たちは今、困窮する子育て家庭へのさらなる現金給付をお願いしている。収入の低いひとり親家庭に支給される児童扶養手当の増額や、二人親でも収入が低い家庭、コロナで減収した家庭に現金給付である。とにかく、子どもが死なないように、親が死なないようにお金を配ってくれという要望だ。

 しかし、状況はあまり芳しくない。何がしかのお金は出るけれど、要望している満額ではない。児童扶養手当は少し増額しそうだけれど、ふたり親家庭には難しい、という声が聞こえる。

 その最大の理由は、お金が無いからだ。財政が厳しいので、子どもがお腹をすかせていても、給付が難しいと言われてている。


子どもの命か?9月入学か?

 そんな中、急に降って湧いたような9月入学議論。2021年度の9月入学移行に何千億円、何兆円も使うお金があるのなら、どうか、子どもがご飯を食べられるようにして欲しい。

 子どもの命か?9月入学か?という選択肢で考えれば、答えはすぐに出るのではないか?

 確かに運動会や修学旅行ができないのは可愛そうだと思う。しかしそれは9月入学に移行してもおそらく同じようにはできないのだ。みんなでバスに乗って長時間移動したり、子どもの運動会を家族総出で見るようなことは、9月入学になっても出来ない。新しい学校行事を考えなければいけない。

 受験勉強が不公平だという気持ちも良くわかる。しかし、休校期間中の勉強の遅れをどう取り戻すのか、不公平が出来るだけ起きないような試験や受験体制を整える。なんとかそれで乗り越えていけないだろうか?

 私たちの学習会に通う高校生と先日ZOOMで座談会をした。高校3年生の生徒は、「私は就職しようと思っているのだけれど学校から就職についてなんの連絡もない。いつもなら、会社選びなどをしている時期なのにとても不安だ」と。スタッフに聞くと、ひとり親家庭で事情があり昨年から生活保護になったそうだ。本当は大学に行こうと思っていたそうだが、就職に切り替えたそうだ。

 受験の不利を訴える高校生もいれば、このような高校生もいるのだ。今年は高校生の就職も厳しいだろう。9月入学移行に割く時間があるのなら、就職先を探して欲しい。

 キッズドアでも勉強の遅れをフォローするために、オンライン学習支援を4月末から始めている。家庭の環境調査を行なっているが、自分のPCを持っている子はまずいない。半数以上はスマホで学習支援を行なっている。親が仕事でモバイルwifiやスマホを持って行ってしまうと、学習支援に参加できない。そのような状況なのだ。

 文部科学省は、休校直後にオンライン化を早急に進める、予算も確保したといっていたが、いまだに、私たちが支援するご家庭にそれが届いている様子はない。

 休校からすでに2.5ヶ月たつが、多くの困窮子育て家庭は、いまだに1円も政府からも届いていない。Wifiもタブレットも無い。

 1日1食しか食べられない子育て家庭にまずは1日3食食べられるようにすることが国の最優先の仕事ではないだろうか?


9月入学は、今でなくてもできる

 9月入学では、様々な財政負担が何千億円という規模でかかるのに加え、就学期間が半年伸びることで、家庭への負担は3.9兆円とも試算されている。これを財政が負担すれば、消費税をさらに2%上乗せしなければならない額だ。かといって、政府が出さなければ、この負担はすべて、子育て家庭が負うことになる。

 9月入学移行は、今でなくてもできると私は思う。

「今まで散々議論してきたのに、できなかったから、こういう時でないとできない」という方もいらっしゃるが、国民に不要不急の外出どころか、仕事も控えてもらっている状況で、9月入学を今やる必要があるのだろうか?

 子育て家庭だけではない。日本中、仕事がなくなり、収入がなくなる人がこれからますます増えていく。国のお金も、人材リソースも最も重要なところに集中していくべきではないだろうか?お店の家賃が払えない、従業員の給料が払えない、そういうところにお金を回すべきだろうと考える。


署名へのご協力を

 私は今、#9月入学本当に今ですか という拙速な9月入学移行に反対する署名活動を、たくさんの賛同人の方々と行なっています。ぜひよろしければ、皆様にも署名へのご協力をお願いいたします。

#9月入学本当に今ですか?
https://www.change.org/SeptemberAdmissionNotNowhttps

9月入学に関する様々な課題や、日本教育学会や全国連合小学校校長会など各団体の9月入学に関する意見などをまとめたHPはこちらです。
9月入学本当に今ですか?公式HP

一刻も早く、9月入学移行議論に終止符を打ち、今必要な支援を皆が全力でできるようになることを心から願っています。

キッズドアのコロナ関連支援活動はこちら