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困窮子育て世帯が生活保護に踏み切れない理由

先日、最後のセーフティネットとして日本には「生活保護」という制度があるので、困窮した場合には、ぜひそれを利用して欲しいという趣旨の発言が総理からありました。私は10年以上、子どもの貧困という課題に取り組んでおりますが、子育て家庭にとって「生活保護を受ける」というのは、かなりハードルが高いと感じています。ここではその理由をご説明したいと思います。

①そもそも生活保護とは

以下は厚生労働省のHPから引用したものですが、生活保護の対象となる方は以下の通りです。

○ 生活保護は、資産、能力等あらゆるものを活用することを前提として必要
な保護が行われます。
(以下のような状態の方が対象となります。)
・ 不動産、自動車、預貯金等のうち、ただちに活用できる資産がない。
※ 不動産、自動車は例外的に保有が認められる場合があります。
・ 就労できない、又は就労していても必要な生活費を得られない。
・ 年金、手当等の社会保障給付の活用をしても必要な生活費を得られない。
・ 扶養義務者からの扶養は保護に優先されます。

仕事がなくて収入がなく、さらに貯金も底をつき、車や不動産など資産価値のあるものは全て売り払ってもなお生活ができない人が受ける制度です。

②自動車の所有が認められないことがかなりネック

東京23区内などごく一部の公共交通機関が充実した地域以外に住んでいる人にとっては、自動車は決して贅沢品ではなく必要不可欠なものですが、生活保護を受給するためには、自動車の保有が認められていません(一部例外もあります)。地方では子どもの送り迎えなどに車が必須です。仕事にも買い物などの日常生活にも車は欠かせません。

例えば子どもが部活をやっていて、学校には徒歩で通えても、練習試合などで遠出をするときに保護者の送迎が必要です。毎回、知人の車に乗せてもらうのも気が引けるので、結局子どもが部活動を辞めてしまいます。

子どもの具合が悪くなって病院に連れて行くのにも、子どもを連れて買い物に行く(家に子どもだけを置いて買い物に行くわけにも行きません)のにも、仕事が見つかって仕事をするのにも、車は必要です。

車を手放すことは、普通の生活ができなくなることです。子どもに「どうして車を売っちゃったの?」と言われるのは、どれほど辛いでしょう。

車だけは手放したくないので、生活保護を受けずに、子どもの食費までを削りながら生活している子育て家庭がたくさんあります。

③引越しをしなければならない

もっと大きな問題は住宅です。基本的には、持ち家の場合にはまずはそれを売却して、そのお金で賃貸住宅などに移り、現金がなくなるまではそれで生活をし、いよいよそのお金も底をついたら生活保護を受給します。

コロナで失業した二人親の家庭で、住宅ローンを払いながら持ち家に住んでいる場合、生活保護を受けるためには、家を売ることを検討する必要があります。また賃貸住宅に住んでいる人も、生活保護の基準に満たない場合、もっと狭い部屋に転居するなどの必要が出てきます。場合によっては、子どもの転校を伴います。

大人一人が引越しをするのと、子どもを持つ家族がお金がないために引越しをするのでは、そのハードルの高さは比べ物になりません。コロナがなければ仕事も失わなかった、生計維持者(多くの場合日本では父親)にとって、自分が働けないために、持ち家を手放したり、子どもを転校させなければならないのは、耐えがたいものでしょう。

そんな惨めな思いをするのなら、いっそ皆で死んでしまおう、と無理心中を考えるひとも多いでしょう。

子どもにとっても、明るい話での引越し・転校ならまだしも、生活保護を受けるための転校など、どれだけ気持ちを下げるでしょう。それをきっかけに不登校になってしまうような子どもも増えるでしょう。

④困窮子育て世帯に生活保護はデメリット大

今、コロナで働けなくて、蓄えも無くなった子育て家庭を、既存の生活保護受給で支えるというのは得策とは思えません。車も家も失い社会復帰が難しくなりますし、子どもの勉強のやる気も、夢や希望も失います。一度失ったやる気や気力を取り戻させるのは、本当に難しいのです。

コロナの前から、日本の子どもの貧困率は13.9パーセント、それに対して日本の生活保護受給者の割合(保護率)は1.7%程度。コロナの前から、困窮していても生活保護を受けずに頑張っていました。生活保護以下の収入しかなくても「子どものために」生活保護を受給せずに頑張っていたのです。生活保護受給者の内訳も、就労が難しい高齢者の割合が半数弱と高く、現役で就労意欲の高い子育て家庭の受給などはほとんど想定されていない制度であると感じます。

戦後高度経済成長が続き、失業率もずっと低かった日本では、「働きたいのに働けない」という状態を社会全体が認めず、失業している人に対して「選ばなければ仕事はある」「健康で仕事ができるのに生活保護を受けるのは良くない」という社会通念が存在します。

そのために、生活に困窮するシングルマザーが、生活保護を受けずに風俗や夜の仕事に付き、その結果子どもが虐待死をするというようなことが長く続いています。この問題については、コチラ「風俗に福祉が負ける」―虐待死という悲劇を繰り返さないために に書きましたのでお読みください。

しかし今、コロナ災害により、シングルマザーだけでなく、二人親の父親も「働きたくても働けない」状況が出現しました。このように就労意欲の高い健康な現役世代の困窮者を支えるためには、生活保護はマッチしません。給付型就労訓練の充実など、生活を安定させながら速やかに次の就労につなげる仕組みが必要と感じます。

⑤生活保護をすすめる前に、まずは給付金を!

2度目の緊急事態宣言の効果も出始め、感染者数も減少傾向です。ワクチン摂取も始まります。まだまだ気を許すわけには行きませんが、早晩、経済が好転しはじめ、今失業している人も仕事ができます。コロナの前は、どこも「働き手」が足りない状況だったのです。

なんとか今の苦境を乗り越えるために、困窮する子育て家庭に現金給付を行うことは最優先と考えます。少子化の今、一人一人の子ども・若者が自立し社会を支えてもらうために、今数万円の現金を給付することは非常に費用対効果の高い使い道です。

野党連合で今国会に提出している子どもの貧困給付金法案では、ひとり親ふたり親を問わず、住民税非課税レベルの困窮度の子育て家庭には、一人目の子どもに5万円、二人目以降については3万円づつの給付を3月までに行うというものです。これにかかる費用はおよそ2100億円です。

Go Toトラベルを利用した方は、1泊上限2万円、2泊なら4万円、3泊なら6万円が税金から補助されています。最大7泊まで利用可能なので一人14万円まで補助されます。現在までに5260万人泊・3080億円が補助されています。

Go Toトラベルは経済を回復させるための事業として、税金を、利用者である国民に割引という形で現金給付しています。だとしたら、今、食べ盛りなのに満足にご飯も食べられない困窮子育て家庭に税金から現金を給付することも同じく重要ではないでしょうか?

とにかく、困窮子育て家庭は大変な状況です。日本大学末富先生のyahoo! ニュースの記事では、ひとり親困窮世帯約33万、ふたり親困窮世帯約140万世帯がほんとうに危ない状況。困窮に震えている子どもは300万人を超えます。

政府には、生活保護の前に、まずは困窮する明日が見えない子育て家庭に、ひとり親ふたり親問わず早急に現金給付の支給決定をお願いします。

#子どもの貧困給付金
#子どもの命と未来を守ろう



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