わたしはスタバより喫茶店の珈琲でありたい
レトロな喫茶店
先日、街を歩いていた時のこと。休憩をかねてPC作業をしようと、カフェを探した。下北沢という街は、見渡せば美味しい珈琲が飲める喫茶店もカフェも沢山ある。
まだ入ったことのない猿田彦珈琲に入ろうか?
それとも友人に教えてもらった、珈琲焙煎店の店先でカフェラテを飲む?
いつものスタバにする?
歩きながら今日入るお店を決めかねていると、ふとレトロな喫茶店に目が留まる。
「今日は、ここで珈琲を飲もう」
そう思って狭い階段を上り、アンティークの重々しい扉を開けた。
品のいい女性の店員さんにアンティーク家具に囲まれた店内の奥へと案内され、窓に面した1人席に座る。メニューを開くと、700円以上の珈琲が並んでいた。スタバのドリップ珈琲を飲み慣れている私にとっては、ややお高い金額だ。
せっかくなのでカフェクレームなるお洒落な名前の珈琲をオーダーすると、ほどなくしてアンティークのカップに入った珈琲が運ばれてきた。
珈琲を口に含んで、ほっと息してからPCを開き、早速作業にとりかかる。ところが、全然捗らない。わざわざ集中して作業をするために、いつもより奮発した珈琲を飲んでいるのに、だ。
仕方なくPCを閉じてノートを取り出し、最近感じたことをメモしていく。今日はゆっくり珈琲を堪能しよう。
そうか。大切に手入れされているであろうアンティークの家具や珈琲カップや観葉植物。穏やかな雰囲気の感じのいい店員さん。きっとそれらが醸し出す空間が付加価値となって、珈琲の金額に込められているんだ。
「フリーランスも、同じだな。」
ふと、独立して今年5期目となる自分自身に重なる気がした。
珈琲とわたし
手頃で小回りが効くサービスを提供すれば、喜んでくれるクライアントも多いだろう。
でも、私は。もう10年以上、時には泣きながら心血注いで頑張ってきてたし、とっくにガムシャラに働くフェーズは過ぎているはず。無理して頑張らなくても、長い年月で培ってきた社会人生活は、これからも私を支えてくれる財産になっているだろう。
これからは私という人間に価値を感じてくれる少しの人とだけ、深く関わっていければいい。
そう、この喫茶店の珈琲のように。
まさか何の気なしに入った喫茶店で、珈琲と自分の価値を照らしあわせて考えるとは思ってもみなかったけど、それもこの空間がもたらしてくれたことなんだろう。
帰り際、ベレー帽をかぶった店主らしきおじいちゃんが、にこやかに「ありがとう」と言って会計をしてくれた。
「こちらこそ、ありがとう。」
心の中でお礼を言って、扉を開ける。
この先、忙しい日が続いて自分を大切にすることがおざなりになってしまった時は、この時間をまた過ごしに来よう。
そして、思いだそう。
この喫茶店の珈琲の価値と同じ自分でありたい、と。
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