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エジプト旅行記⑥ 〜考古学博物館・新王国時代〜

それでは前回の記事
https://note.mu/yumiko_n/n/ncbc6572daa5f
こちらに引き続きまして、カイロ タハリール広場の一角にあります、エジプト考古学博物館の展示物について書いていきたいと思います。

華麗なる新王国時代

古代エジプト文明において最も盛えたのがこの新王国時代です。第18王朝〜第20王朝までを指しますが、特に第18王朝と第19王朝はエジプト旅行をするならば、必ず押さえておくべき王朝です。
第18王朝には、王家の墓に最初に王墓を作ったトトメス1世、デリ・エル・バハーリで有名なハトシェプスト、アメンホテプ4世と妻のネフェルティティ、そしてツタンカーメン。
第19王朝には英雄セティ1世、そして偉大なるラムセス2世などが生きていた時代で、この両王朝のファラオの名前を覚えておくと、エジプト旅行はより豊かなものになります。

今回の記事は先に展示品の紹介をして、後半はアメンホテプ4世のお話をしたいと思います。それでは早速…

新王国時代の芸術

牛の姿で表される女神はハトホル神です。この彫刻を違う角度から見てください。

程よい画像が無かったので、エジプト考古学博物館の冊子を写メしました。後ろ足辺りに男性がいるのが見えますでしょうか?アメンホテプ2世です。ハトホル神から直にお乳を飲んでいる様子です。この構図は多くの神殿の壁絵にも見受けられ、ファラオが神の恩恵を受けているというメッセージです。

では、この像の裏手にトトメス3世が描かれているお堂が展示されています。トトメス3世とアメンホテプ2世は共に第18王朝のファラオで大凡3500年前のものです。

壁絵には2人の男性が書かれていますが、右側の長く白い帽子をかぶっているのがアメン神、左側がファラオのトトメス3世です。色がとても綺麗に残っていて、当時の神殿もこのように鮮やかな色調であったと推測することができます。天井は青く塗られ満天の星が輝いていますが、この絵柄も色んな神殿で見られます。ぜひこの鮮やかさを覚えて頂いて、カルナック神殿等に行かれた際に思い出して下さい。

ところで、こちらに書かれているアメン神は当時の国家神です。当時、アメン神を讃える神殿が沢山作られ信仰が強まっていきます。そうする事でアメン神官たちの勢力は拡大していき、政治的権力も強くなっていきますが、ここがとても重要なポイントです。


こちらはハトシェプスト女王のスフィンクスです。女性でありながら、髭をつけ男性の格好をしています。デル・アル・バハーリのハトシェプスト神殿にも男装のハトシェプスト女王のモチーフが沢山あることから、実際に男装をしていたとも、強さをアピールするためのモチーフであり実際は男装をしていなかったとも言われるそうです。ここが考古学の面白味ですね。皆さんはどう思いますか?

ファラオたちのミイラ

エジプト考古学博物館の二階には二部屋のミイラ室があります。写真撮影が禁止なので、こちらも冊子の写メですみません。新王国時代のファラオやその家族、高官たちのミイラを沢山見ることができます。ところで、王墓のほとんどは盗掘されていたのになぜミイラが無事に残っていたのか、不思議ではないでしょうか?この件は後々の記事にしていきますね。

アメンホテプ4世改めアクエンアテン

冒頭に名前を挙げました、アメンホテプ4世です。彼が統治していた期間ははっきりしていませんが大凡15年〜20年ほどだったそうです。それほど長くはない期間でしたが、芸術の上で興味深い変化がありました。その変化とは、言葉にすればより写実的になったという事なのですが、この変化の裏側には政治的かつ宗教的な背景が隠れています。ですので先にアメンホテプ4世がどんなファラオであったかをお話ししたいと思います。

彼は国を治める最中に改名をしています。アメンホテプという伝統的な名前を捨ててアクエンアテン(もしくはイクナテン)と名乗ります。この改名の意味するところは信仰神を変えたという事です。では、この政策を進めるためどんな事をしたのか、またどんな意図があったのかを書いていきます。

アマルナのアケトアテン

アクエンアテンは第18王朝時代後半のファラオです。第18王朝は古代エジプト文明の絶頂期で、領土の統一と拡大化が進み、また外国との交易も盛んで国力は最大級に高まっていました。現在、遺跡を見学するとアメンホテプ、トトメス、ハトシェプストなどのファラオの名前を聞くと思いますが、これら皆、第18王朝時代の王です。どれほどの富豪だったのか想像もできませんが、とにかくお金持ちな一族にアメンホテプ4世(後のイクナテン)は生まれました。

彼は元々、世継ぎの予定ではありませんでしたが、兄が早くに亡くなったため結果的にファラオになりました。彼は伝統を重んじるタイプではなく、どちらかというと奔放なところがあったそうですが、それは王位継承者としての教育があまりされていなかったからではないかと言われています。

古代エジプトにおける、彼以前の宗教はアメン=ラー神を頂点にした多神教でした。アメン=ラー神とは、アメン神(テーベ・現ルクソールの神、隠れし者の意味で大気に象徴される)とラー神(ヘリオポリス・現カイロ周辺の神、太陽に象徴される)が一体化した神です。
そしてファラオたちは力を示すため、自分の名前に神々の名を入れていきます。例えばアメンホテプはアメン神を崇める者という意味ですし、トトメスは月の神であるトト神に作り出された者という意味です。神の名前を使う事で、ファラオである正当性を示しました。

歴代のファラオたちが次に行ったことは、自分が崇める神の為に立派な神殿を作ったり、お供え物をする事です。そしてその神殿に仕える神官たちは神やファラオの偉大さを人々に伝えました。そうする事でファラオの威厳は保たれ、さらに国は発展していきました。しかし、この動きが過熱するにつれて、いつのまにか神官の力が強くなり、ファラオの権力を凌ぐ程になっていきます。

特にアメン神官は政治にも大きな影響を与える程だったそうです。そこで、そんな動きを変えようとしたファラオがいました。それがアメンホテプ4世です。アメンホテプ4世はそれまでの神々を否定しアテン神が唯一の神であると、宗教改革を打ち出しました。まずは名前をアクエンアテン(アテンに愛されし者)に変更し、新しい都アケトアテンをテーベから280キロ程離れた場所に作りました。そして、古い体制を払拭すべく改革を半ば強引に進めて行くことになります。

唯一の神 アテン神

この宗教改革の最大の目的は力を持ちすぎた神官たちを抑え、王の権威を再復興することです。その為にアテン以外の神々を否定しました。

上の写真がアテン神を表した絵です。アテン神は円系から無数の手が出ている絵で描かれます。これは太陽からの恵みを表していて、人々は平等に恩恵を受けられると説かれています。『全てはアテンから生まれ、アテンに還る。すなわちアテンが全てである。』と説き、偶像崇拝を否定しました。偶像崇拝の意味するところは、アクエンアテン以前の神々は人型であったり動物型であったり、何かに宿る形で存在していたということです。しかしアテン神の存在は、太陽が空を明るくし、大地を温め、植物を成長させる力そのものであるとしました。

また、アクエンアテンはアテン神を拝礼する為に神殿は要らないとしています。アテン神は太陽そのものなので、誰もがどこからでも拝礼できるとしました。神殿の管理人である神官から重要性を削ぎ落とそうとしたのだと思います。

ちなみに、都であるアケトアテンにはアテン神殿がありました。ここに仕える神官はファラオにより新たに募集されたそうで、旧体制の排除が進められました。

アマルナ芸術

この時期の芸術品は都があった場所の地名をとり、アマルナ芸術と呼ばれます。写実的で美しい物が沢山あり、有名なのがこちらです。

こちらはベルリンの博物館にあるネフェルティティ像(アクエンアテンの正妃)です。デザインに人間味が強いと感じますよね。
他のファラオは自身を神格化する事が重要で、容姿は伝統的で画一的であり、写実的ではありませんでした。しかしアマルナ芸術では伝統に囚われない自然主義で、ありのままの美しさを表現しています。宗教的思想を背景に新風が巻き起こったのでした。

アマルナ改革の失敗と衰退

先代のファラオが築いた莫大な財産を元手に、改革は急激に進められました。しかし、それが余りにも急であったこと、神官たちの反感を買ったこと、疫病が起こった事などの理由で衰退し始めます。またアクエンアテン王は戦いが嫌いで、他国の侵略に対して、アテン神に祈れば乗り切れると説いたそうです。現実的には祈るだけではどうにもならず軍人たちも不満を持つようになりました。結果的に、アクエンアテン王の死をもって改革の失敗とアマルナ・アケトアテンの終焉を迎える事となります。

結果的にアクエンアテンは異端の王と言われ嫌われ、都や神殿は取り壊されたり、別の神殿の建材として再利用され、ほぼ残っていません。歴代のファラオの名が連なるリストからも消され、歴史の表舞台から姿を消しました。あの大発見がされるまでは…

その後ファラオは9歳の少年王、息子のトゥートゥ・アンク・アメンに引き継がれていきます。(実際はトゥートゥ・アンク・アメンの前の2年間、スメンクカーラーという人物がファラオになっています。)

トゥートゥ・アンク・アメン、つまりツタンカーメンです。それでは次回の記事ではエジプトの至宝、ツタンカーメン王墓からの出土品をご紹介致します。

とてもとても長くなってしまいましたが、最後までお付き合い下さり、ありがとうございました。

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