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せっかくだからラグビーから組織を学ぼう #1

2019年。まだコロナの足音も一切聞こえぬ頃。
日本はラグビーW杯に熱狂しました。
その時をきっかけにラグビーにハマった友人、興味をもっと友人が増えて、長年孤独に応援していた私としてはとても嬉しい出来事でした。
そのまさにラグビーW杯2019が開かれていた頃に、とあるサイトにラグビーから組織づくりを学ぶという切り口で記事を書いたことを思い出しました。事情により元のサイトでは読めなくなってしまったので、時間軸がおかしいところを修正し、掲載してみます。

いきなりですが、2019年ラグビーW杯は熱狂のうちに幕を閉じました。
日本の衝撃的な勝利や連日の感動的なシーンの数々に、小学生の頃から観戦してきた私としては毎日楽しくて仕方なかったのですが、そこはさておき。

実はラグビーというのは、組織づくりを語る上でもとても興味深い要素がたくさんあります。
ラグビーは、はげしく泥臭いスポーツなので、いわゆる「体育会系根性論」な組織と思われがちなのですが、世界最強と言われるニュージーランド代表(通称オールブラックス)や、日本代表のようなトップレベルのチームでは、非常にロジカルで高度な組織づくりが行われています。大学ラグビーで前人未到の9連覇をした帝京大学や、社会人ラグビー(トップリーグ)で一昨年優勝した神戸製鋼の組織づくりも話題になりました。
私はただのファンなので、どこまで実態を汲み取れているかわかりませんが、本やインタビューなどを読んだ限りで、一般社会の組織づくりにおいて、ラグビーから学べることがたくさんあるなぁと思うので、私なりの見解を3回つづけて紹介したいと思います。

多様性を体現するラグビーの世界

現代社会を語るうえでよく言われるのが「多様性の時代」というもの。様々な人種や宗教の人が混在するだけでなく、個々人の価値観も多様で自由な考え方が派生していく時代です。これもひとつの進化や平和の証ととらえることもできる一方で、多様性を受け入れながら組織を形成していくことの難しさに向き合わなければいけない時代でもあります。
ところで、ラグビーでよく話題にされるのが「なんで日本代表に外国人がいるの?」という話です。私は小さい頃から見慣れているのでそんなものだと思っていたのですが、はじめて見る方には違和感を持つ人もいるようですね。
ラグビーは、その国に3年以上居住していたら、国籍に関係なくその国の代表になれるというルールがあり、どの国にも外国出身の選手が多数在籍しています。
参考:ラグビーW杯日本代表の半数15人が海外出身 「違和感ありすぎ」と思った人へ伝えたいこと

もともとは、ラグビー発祥の地イングランドの選手が、世界じゅうで代表になることでラグビーを普及する狙いでつくられたルールだそうですが、今やこれがラグビー独特の特徴となり、各国のチームに”多様性”をもたらすことになりました。
多様性は、時にチームビルディングにとっては足枷になります。めまぐるしく攻守が入れ替わる試合では、ただでさえお互いの”阿吽の呼吸”が必要なのに、さらに言葉や文化の違いも加わるのですから、チームをひとつにまとめるのは難しくなります。
一方で、ラグビーをしてきた環境の違いや、戦術の違い、ラグビーに対する意識の違いは、うまく歯車がかみ合えば創造的で強いチームをつくります。
つまり、このような”多様性”を生かすチームづくりが、勝つための重要なポイントになるのです。

歴史を理解し、お互いを尊重するーー日本代表

例えば日本代表は、ミーティングの合間にチーム全員で「君が代」の練習をするそうです。試合前の国歌斉唱の時には、外国人選手も含めた全員が大きな声で(時に涙を流しながら)歌っている姿が確認できます。
参考:迫力の「君が代」斉唱、W杯外国出身選手はどう練習?

宮崎県で合宿した際には、キャプテンのリーチマイケルの発案で、「君が代」に登場する「さざれ石」を見学に行ったそうです。
参考:ラグビー日本代表、大御神社にある「さざれ石」を訪問

あるドキュメンタリーでは、リーチが江戸時代の終わりに黒船に乗ってペリーがやってきたという日本の歴史を自ら選手たちに語る姿が紹介されていました。彼は高校時代から日本にいるとはいえ、おそらくこのためにスタッフの手を借りて資料をつくり勉強したのでしょう。
ミーティング会場にはどの合宿地でも”赤備えの鎧”が飾られていたのも驚きました。こちらはヘッドコーチのジェイミー・ジョセフの発案だったそうです。これらを通して、外国出身選手も日本の歴史を、ひいては日本人のマインドや風土を理解し、仲間に対するリスペクトを醸成する狙いがあったのだと思います。

チームの誇りをもつーー神戸製鋼

一昨年、トップリーグ(社会人ラグビー)で優勝した神戸製鋼では、チーム強化のためにヘッドコーチや主力選手に多くの外国人が起用されていました。
なかには、世界的スーパースター、ダン・カーター(サッカー界でいうメッシみたいな人)をはじめとする超一流選手もいました。彼らはプロ中のプロなので、試合で結果さえ残せば評価されます。
でも彼らは、チームに合流すると、会社の歴史を学び、製鉄所の見学をするところからはじめたそうです。優勝が決まる決勝戦でグラウンドに登場する際には、選手全員がベンチコートの下に製鉄所の作業着を着込んでいました。鉄鋼マンの誇りを胸に戦うという意味があったとか。
参考:神戸製鋼所の作業服を身にまとい、決勝の大舞台へ!

私はこの決勝戦で、最初は相手チームを応援していたはずだったのですが、圧倒的なチームワークと躍動する選手たちに、気がつけば神戸製鋼のファンになっていました。
神戸製鋼は、かつては平尾誠二というスーパースターを擁し7連覇という偉業を達成しましたが、近年は長らく優勝から遠ざかっていました。昨年は企業としても不祥事があり、社内の士気もさがっていたと思います。ですが、製鉄所の鉄鋼マン達が日本の戦後復興を支え、今も日本を支えているという自負を取り戻すきっかけを、選手たちがつくったわけです。
逆に言えば、世界の一流選手たちは、”会社の誇り”のような共通の意識を持つことが、勝つためにも有効だと彼らは知っていたのだと思います。

目標ではなく目的にフォーカスするーーオールブラックス

そんな一流どころの選手を多数輩出するニュージーランドも、もともとの先住民族マオリ族と、入植した移民が混在し、伝統的に多様性に向き合ってきた国家と言えます。
ニュージーランドの子供たちは、そのほとんどが当たり前のようにラグビーをし、あちこちに芝のグラウンドがある環境で育ちます。そのなかで選りすぐりの選手が熾烈な戦いを経て国の代表(オールブラックス)になるわけで、当然、めったなことで負けるチームではありませんが、その一方で、国民から寄せられる期待も尋常ではありません。テストマッチ(ナショナルチーム同士の公式戦)で、オールブラックスが負けただけで世界的なニュースになってしまうほど。
そんななかでは、いかに最強チームと言えど、「絶対に勝つ」ためにどうしたらいいか、という課題を抱えているのです。
そんな彼らの発言によく登場するのは「ニュージーランドの誇り」という言葉です。
参考:『ALL OR NOTHING New Zealand ALL BLACKS』

なぜニュージーランド国民が尋常ではない期待をオールブラックスに寄せるかといえば、ラグビーは、彼らにとって世界に誇れる数少ない自慢のタネだからです。だからオールブラックスが勝つことは国民を元気にするし、逆にテストマッチに負けると株価もさがるのだとか。なので選手たちは、ただ勝つことではなく、気高く、紳士で、規律のあるプレーで相手を圧倒することで国民に誇りをもたらすことを常に意識しています。
ただ勝つだけであれば、時にモチベーションを失うこともあるでしょうし、自分が活躍できなければつまらないと感じることもあると思います。
ですが、「オールブラックスは国民の誇りであり続ける」という高い目的にフォーカスすることで、常に気を抜かずに試合に臨むという姿勢が醸成されるし、時に自己主張を抑え、いい意味で”組織の歯車”に徹することもできるのだ、と選手たちは語っています。
参考:『オールブラックス圧倒的勝利のマインドセット』

それらの考え方を象徴的にあらわしているのが、あの有名な”HAKA”です。もともとはマオリ族が戦いに行く前に自分たちを鼓舞し相手を威嚇する儀式ですが、オールブラックスが試合前におこなうパフォーマンスとして人気があります。
ただ、以前はハカを試合前にやることに反発する選手もいたそうです。マオリ族ではない選手からしたら、なぜ慣れないことをわざわざやらなければならないのか、と考えるのも無理はありません。
しかし、かつてオールブラックスの強さに陰りが見えた時代に、オールブラックスにとってやはりハカは欠かせない、ということを選手同士で話し合い、むしろ全選手がしっかりと練習をして臨むようになったそうです。この儀式を通して、おそらく選手たちは自分がオールブラックスの人間として命がけで戦うという気持ちを再確認しているのではないかと想像します。

ちなみに、「目標ではなく目的にフォーカスする」という表現は、日本代表の前主将・廣瀬俊朗さんが言っていた言葉です。
2015年および2019年のW杯に向かう時、日本代表は「ベスト8に進出」するという具体的な目標を掲げていましたが、それ以上にチームが掲げていたのは「日本にラグビーという文化を根付かせる」というものでした。多様性や自己犠牲、ノーサイドといったラグビーのもつ価値観は、現代社会においても必ず意味があるという自負と、危険とかルールが難しいといった理由でサッカーや野球に人気が押され気味なラグビーを人気スポーツに押し上げるという強い想いが、選手のモチベーションになっているようです。
だからこそ、廣瀬さんのように代表に選ばれながらも一度も試合に出られなかった(しかもそれを大会前にヘッドコーチに宣言されていた)選手も、チームのためにできることはなにかと考えて行動できたのだと思います。ちなみに廣瀬さんは大会前に代表に選ばれなかった選手たちから応援コメントを集めて(700名!)VTRをつくって、あの南アフリカ戦の前日に流したというエピソードがあります。今大会でも、ベンチ入りでしていない選手が、分析役や練習台としてチームを支えている姿が確認できます。

多様性を乗り越える

多様性という要素は、これからの日本社会にとって非常に重要なものです。社会が成熟するにつれて、個々人のもつ価値観は様々に広がり、”一筋縄”ではいかない時代になっています。加えて、日本にやってくる外国人は、留学・就職・旅行問わず増えていきますし、新たなビジネスや価値観を作り出していくためには、彼らと協調するだけでなく、タッグを組んで新たな価値を生み出していくことが必要です。
ラグビーにおける様々な事例は、チームによって具体的な方法論は違えども、ヒントとして見えてくるものはあると思います。
言葉や文化が違うもの同士でも、歴史や文化の背景を知識として学ぶことで、お互いにリスペクトが生まれることもある。
目の前の目標だけでなく、大きな目的にフォーカスすることで、自分をいい意味で歯車のひとつとして全体のために力を発揮することができる。
これらの考え方は企業や行政の運営にとっても、応用が可能なものだと思います。
• 日本企業や自社がどのような歴史をたどって今のような文化を形成してきたのか
• 世代によってどんな環境や気運のなかで育ち、どのような経験をしてきたのか
• 海外ではどのような文化があり、何を良い/悪いと考えるのか
これは、単純に知識として身につけるだけでも、印象が変わることはあると思います。
また、今期の営業目標が○○万円と掲げる前に、会社が果たしたい理念や社会的貢献を共有することで、営業目標に意味を見出して奮起することができるかもしれません。
彼らのエピソードからどんな応用が可能か、W杯以降、彼らの姿を見る機会も増えたと思うので、スポーツにあまり興味がない方も、そんな視点で見てみていただけたら面白いと思います。


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