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誰が決めたのかではなく

私は皆さんのために精いっぱい頑張ったんです!
財政課が言うことを聞いてくれなかったので予算が削られました!
私の力不足を責めないでください!
#ジブリで学ぶ自治体財政

地方自治体の予算について,市民や議会に対して「財政課から予算を削られた」「財政課に予算をつけてもらえなかった」という人がいます。
地域や市民の要望に応えられなかった言い訳として現場の職員がこういう言い方をする,あるいは財政部門以外の幹部職員が議会の答弁でこういう言い方をする場合があります。
これはとんでもないことで,財政課にいた身としては本当にやめてほしい物言いです。

財政課が査定した結果,現場が要求した予算がつかなかったのは事実であって,それをありのまま話して何が悪いと開き直る方もおられるかもしれません。
しかし,自治体内部の意思形成過程で意見を戦わせている間は互いの言い分はありますが,それをすり合わせて調整していくのが予算編成で,最終的に首長の判断を仰いで結論が出た後は,それは自治体執行部の組織としての判断で議案提出するのであって財政課が意思決定者として判断するわけではありません。
このことを市民や議会など自治体執行部の外側に対して「財政課から削られた」と不平を言うのは執行部を束ねる最終責任者である首長の責任を問うているのと同じで,議会答弁でこの表現を使うのであればそれは執行部として提案しているものに対するそれは当局の見解不一致になり,そのことについて議場で問われればその矛盾について首長が答弁せざるを得なくなります。
こういう展開になることを意識したうえで自分の言い逃れのために首長を売るのかという話なのですが,そういう意識の低い方がたくさんおられるのは嘆かわしい話です。

ところがそれでは現場は腹の虫がおさまりません。
じゃあ,市民から聞かれたら,議会から詰問されたら,何と答えればいいのか。
代わりに財政課長が釈明してくれるのか,と言いたくもなります。
財政課の立場からすれば,当然,現場にしかわからない細かいこともありますから,財政課ですべての予算査定について責任を持って答えることはできません。
財政課でお話しできるのは厳しい財政状況の中での施策事業の取捨選択,経費精査の必要性くらいで,その中で何を優先すべきかということについては自治体の将来像を所管する企画部門がふさわしいでしょう。
しかし,個々の施策事業の内容,積算根拠,事業費の増減があった場合の理由については,よほどのことがない限りは事業所管課でそれぞれ答弁していくことになりますよね。
市民の立場からしても,一番近い立場にいる現場の職員がきちんと説明できないということで不満が残りますし,それが行政への不信にもつながります。
市民や議会から予算が減った理由を尋ねられた場合にはその問いに対して納得と共感を得るためにも,「財政課から削られた」と他律的に理由を述べるのではなく,厳しい財政状況やその中での優先順位の考え方を財政・企画部門の考え方を踏襲して自分の所属の施策事業に落とし込み,そのうえで自らの所管する事業の見直しの考え方について,市民やその代表である議会に対しては現場自らが説明しなければいけないのです。

先日「行政を読み解く力」で書きましたが,市民の行政運営リテラシーの欠如は,自治体運営における大きなリスク要因です。

しかし「財政のことを勉強しましょう」と市民の皆さんに呼び掛けてみたところで,どのくらいの市民が関心を持って自分の時間を割いてくれるでしょうか。
私が財政課長当時,職員向けの財政出前講座が活況を呈していた際も,市民向けのほうは注文もさっぱりでした。
漠然と自治体の財政について学ぼうという意欲はなかなか湧いてきませんが,これが自分の関心のある施策事業の見直しや拡充という具体性を持っているとどうでしょう。
なぜこのサービスが削られるのか,どうしてこの市民ニーズに対応しないのか,という思いで自治体運営に疑問や不満を寄せている方はたくさんおられます。
その疑問や不満に対してきちんと答えていくなかで自治体の財政運営の全体像や目指す将来像と合わせて理解してもらうことで,個別具体の施策事業の見直しの話にとどまらず,行政運営リテラシーそのものを向上させていくことが可能になり,そのことが今後の自治体運営への理解や信頼の基礎となる。
そのためには,予算を削られた現場職員がまずその背景,査定理由を正しく理解し,それを直接市民に伝達できるようにならなければならないと思うのです。

このコロナ禍でどの自治体運営も非常に厳しい状況で,令和3年度の予算編成では相当に既存事業の見直し,経費の縮減が進むことと思われます。
その際にいかにその全体像をきちんと伝えることができるかが,厳しい中でも将来に向かって今あるものを生かして市民とともに未来を創っていくことができるかどうか,自治体の今後を占う試金石になると思います。
そのためには,この秋冬の予算編成ではお金がないからと言って乱暴に一律カットなどで金額を置きにいくのではなく,どれだけ財政・企画部門と事業を所管する現場とが互いに言葉を尽くして現下の財政状況や自治体の目指す将来像についての理解を共有し,そのことをきちんと市民に対して説明できる言葉を持つことができるか,が問われているのだと思います。

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