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予算編成が目指すもの

ずいぶん査定でため込んだな
それ,何に使うつもりだ
いえ,私はお金を貯めるのが趣味なので
何にも使い道はありません
#ジブリで学ぶ自治体財政

全国の財政課職員の予算編成お悩みランキング1位である「事業の廃止縮小が進まない」ということについて,3回にもわたり長々と持論を述べてきましたが,この話題をかみ砕いていく中で疑問に感じたことがあります。
予算編成の過程で行う「事業の廃止縮小」の目的は何なのでしょう。
そもそも予算編成の本来の目的,目標とは一体何でしょう。
予算編成によって達成したいと考える「目指す姿」とはいったいどういう状態を指すのでしょう。
財政課職員が悩む「事業の廃止縮小が進まない」ことは,この予算編成の本来の目的,目標の達成をどのように阻害しているのでしょうか。

予算編成では,収入の範囲内に支出を収めるという形式的な収支均衡に加え,その範囲内で法令に基づく責任を果たしつつ市民の負託に応えるために,可能な限り事業の必要性や経費の妥当性を精査(いわゆる査定)し,個々の事業にかかる金額を低く抑えてそれぞれを効率的に執行できるようにし,そこで得られた財源を多岐の分野にわたる施策事業の経費として適切に配分しています。
査定の一環として行われる「事業の廃止縮小」は単なる収支均衡という最低条件をクリアするために行われるのではなく,その制約条件の中でどれだけ市民の満足度を向上させていくことができるかを追求するためであり,この市民満足度の向上こそ予算編成の本来の目的,目標,すなわち「予算編成が目指すもの」であるはずです。
そのために予算編成は,財政課はどうあるべきなのでしょうか
市民から負託された財源を適正に配分し,市民のニーズに応えた政策を推進していくという予算編成本来の目的,目標の実現に向けて,財政課がどのような役割を果たしうるか,果たしているのか,私は全国の財政課の皆さんにお尋ねしたいのです。

財政課職員の悩み事に「政策推進」という言葉はあまり出てきませんし,私が財政課に9年間在籍した経験を振り返っても,「政策推進」について財政課が主導的な役割を果たしたことはありません。
一般会計で3,000ある事務事業の多くは過去の政策決定に基づく継続的なものや法令で定まった義務的なもので,政策の推進に大きくかかわるものでないことから,予算編成の作業の中ではどうしてもそれらの経費の精査でどれだけお金を浮かせるかということに終始するのです。
もちろん,市を代表するような重要な施策,大規模な投資を伴う事業について,財政運営上の観点から意見を述べ,調整することはありましたが,それは年間でも数件の話。
むしろそういった重要な意思決定で財政運営上の観点からしっかりとした意見具申を行い自治体として適切な判断を行う一助となるために,現場で判断できること,各事業部局で調整できることはその権限と責任を委譲し,財政課は官房部門の本務である全体調整,自治体財政全体の姿や形の調整に専念すべきではないかと思うのです。

政策の推進に関する市民のニーズは様々です。
お金のある時代ならお金で解決できたことも,今はお金以外の力で解決していかなければいけないのですから,そのやり方や到達すべき水準の設定,できないことをできないと市民に納得してもらうことの努力も含めて,財政課でできることはこれっぽっちもなく,すべて現場の職員に委ねざるを得ません。
現場を熟知し,課題解決に最後まで責任をもって担当することができる各事業担当課を信じて,そのやり方を任せることは,自分たちの創意工夫で解決するという現場職員のモチベーションにつながります。
職員のモチベーション向上は様々な市民ニーズを様々な手段で解決する力,すなわち組織としての対応力,問題解決力の向上につながり,そのことがひいては自治体全体として市民が納得できる課題の解決,市民満足の維持向上につながると私は考えています。
もちろん,各部局の裁量にとどまらない大きな政策課題への対応や,これまで各部局に配分してきた財源や人的資源の配分を大きく変更する政策転換においては,企画や人事といった官房部門とともに全市的な観点からの調整を行う必要がありますが,官房部門のマンパワーをそういった重要案件に集中させ,現場と官房部門の分担と連携を効率化させるほうが,重要案件を通じた政策推進に割く力が集中でき,十分な成果をあげることが期待できます。

予算編成は単なる数字合わせではありません。
予算は編成が終われば財政課の手を離れますが,本当の勝負はそこからです。
予算が現場で執行され,あるいは予算を伴わずとも現場で市民のニーズに真摯に向き合うなかで,現場職員が市民の満足度向上に向かって日々尽力していくことができる環境を整備し,その権限や財源,モチベーション維持向上のために側面から支援することが財政課を始めとする官房部門の役割で,予算編成はそのための手法にすぎません。
その役割を果たすうえで,財政課は自らが所掌する予算編成という意思決定にどのような態度で臨むべきか,それは今できているのか,できていないとすればそれはなぜなのかを今一度考えていただき,現行の予算編成に手法としての課題がないかご検討いただきたいと思います。

過去記事もご参照ください。

枠配分予算に関してはこちらにもまとめてあります。

★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
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