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青臭い理想

財政課の査定ってものすごく厳しくて
いつも理屈やデータを重視するけど
偉い人が言うとそのあたりがすっ飛んで
ザルみたいになることあるよね
#ジブリで学ぶ自治体財政

昨年来のコロナ禍の中,対面での講義,講座への登壇を見合わせておりましたが,先日,久しぶりに対面での出講が叶いました。
講座と言っても全国各地を飛び回る出張財政出前講座ではなく,同じ福岡市役所の中で専門職として働く保健師さんの研修です。
2年前にすでに財政課長の職を離れていた私に個人的なつてで依頼があったもので,全国でお話ししている財政出前講座の内容のエッセンスに加えて,新規事業を企画するにあたり財政課がどこに着目し予算査定しているのか,どうすれば予算がつくのかを講義してほしいという難題をいただきました。
この門外不出の奥義を伝授した幻の講義(笑)を再演してほしいというものです。
2回にわたる講義では,第1回で自治体財政の概要をいつもの出前講座のダイジェスト版で30分程度話し,そこから財政課がどこに着目しているのかということで,主に個別の施策事業の立案にあたっての留意点をお話ししました。

現場の皆さんの最大の関心事は「どうすれば予算が付くのか」ですが,福岡市においては,財政課は少なくとも予算編成の過程で施策事業の優先順位付けを行うことはなく,総合計画,政策推進プラン(多くの自治体では実施計画と呼ばれています),毎年度予算編成時に発出される市政取組方針に基づき,企画部門で施策事業の優先順位付けの考え方を示し,各局では配分された「枠予算」の範囲で施策事業の優先順位づけを行い,担当領域での政策効果を最大化する経営を実現することとされています。

財政課が予算査定で行うのはもっぱら個別撃破。その事業が予算計上するに足るものかを一つ一つ吟味し、費用を精査するのが私たちの仕事でした。
その事業で何がどうなることを期待しているのか。
その事業の成果は誰が求めているのか。
それは税金を使って公共が担うべきものなのか。
これらの問いかけに続いて最後に投げかけられるのがこの問いです。

施策事業の立案にあたっては,EBPM(Evidence-based Policy Making,エビデンスに基づく政策立案)がもてはやされていますが,データによる測定・検証の限界を知り,そのうえで「風が吹けば桶屋が儲かる」というロジックモデル,すなわち政策の実現手段についての論理展開を重視すべきというのが私の考えです。
課題解決の手段として採用する方法が課題解決の手段たりうるのか,論理的に因果関係として説明できるかどうかがその施策事業の実効性の鍵となります。
「風が吹く」から「桶屋が儲かる」までの展開における因果関係に矛盾や無理がなく,手法と課題解決の間に相当な因果関係があることを多くの人が確からしいと感じることが,その施策事業の意義を理解するうえでも,その効果を測定し検証するうえでも非常に重要なのです。

政策,施策,事業は未来の「ありたい姿」を実現する手法です。
しかし,その「ありたい姿」,実現すべき未来は共有されていますか?
何がどのような状態か具体的に定義されていますか?
それは何らかの方法で測定できますか?それを定期的に測定していますか?
多くの場合,「良好な」「適切な」「積極的に」といった定性的な語句で飾られたポエムのようなあいまいな目標水準を掲げ,「推進する」「目指す」「図る」などその到達を名言しない逃げ道を用意しているおかげで,目標達成について定量的に測定評価しないで済ませている,逆に言えば定量的に評価することができないのではないでしょうか。
そして,評価をあいまいにすることで,やり方も体制も投入資源も見直されず,ただ事業概要に掲げられた「やるべきこと」の実施だけに意義を見出し,粛々と「やるべきことをやるだけ」が継続されているのではないでしょうか。

このような講義を行ったところ,ある受講者からご指摘をいただきました。
これまでにいくつか「なぜやるのか?」「どこを目指すのか?」「何をゴールとするのか?」という思う事業に出会いました。
トップダウンでやれと言われて,やる事だけ決まっている。
そういう事業,予算はほかにもあるのでしょうか。

ご質問の件,ごもっともなご指摘だと思います。
全国の財政出前講座でもこの手の質問(愚痴?)はよく耳にします。
私が講義でお話しているのはあくまでも純粋な理想論で, 実際にはそのような「理想の姿」を完全に体現している事業に出会ったことはありません(笑)
目的と手法のアンマッチ,定性的な評価軸,終期設定のあいまいさ,など不備を挙げればきりがありませんが,それでも「まだましなもの」を選んで予算化していくのが予算編成作業なのかもしれません。

トップダウンというのも厄介で,事業構築がしっかり練られていないのに現場は上がやれと言っているのでとにかく「やる」の一点張り。
財政課から見れば,こんなものを予算案で議会に出したらトップが恥をかくだけという思いで,必死でお化粧を塗りとにかく「ましなもの」に仕上げていく作業もよくある話です。
私自身も財政調整課長時代には,よく現場の皆さんから「理想の事業」に至らないものを予算化していることを指摘され,口では偉そうなことをいうが実際は上に忖度してお目こぼしをしているといわれたこともあります。
それは首長の予算編成権限を市役所の中で事務委任され,代行しているだけですから,ある意味そうなのかもしれません。

それでも私は査定ではなるべく正論をいうようにしていましたし,財政出前講座や各現場での質問に対しても,理想を述べるようにしてきました。
それは,本来どうあるべきかを考えなくなったらオシマイだからです。
本来あるべき姿を知っていて,それでも状況に抗えずに易きに流れるのと本来あるべき姿を知らない,あるいは知っていてもその実現をハナからあきらめてしまうのとでは事業の計画そのもの,あるいは実際に現場で実施される際の仕上がりに差があります。
本来目指すべき「理想の事業」に少しでも近づくように,少しでも良い事業にしよう,効果の高いものにしようと現場で考え,工夫するモチベーションを持ってほしい。
そのためには多少青臭くても,理想を述べ,本来求められるものについて理解してもらうことが必要だと強く思うのです。

私はこの指摘をいただいたご本人に直接お返事するとともに,第2回めの講義の最後にこの話をさせていただきました。
第2回目の講義では,受講者が考案した新規事業の企画に対して,事業立案で必要な要素が備わっているかどうかを審査講評するもので,久しぶりに予算査定の現場に戻ってアイデアのブラッシュアップをお手伝いできたことがとても楽しかったです。
講評では,第1回目の講義同様に青臭い理想論も吐きましたが,件の受講者からの指摘の件も含めて共有したことで,受講者の皆さんに財政課の現場感がきっと伝わったと思います。
この「自治体財政よもやま話」では,いつも正義漢ぶってかっこいいこと,理想論ばかり述べていますが,現実はそんなに楽じゃないということはわかったうえで,あえて苦言を呈している自分を改めて振り返るいい機会になりました。
財政課卒業後もこんな場に自分の身を置くことができることに感謝したいと思います。

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★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
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