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平等な規律と自由な裁量

これ、分けてもらっても大丈夫なの
うん。ここは僕に任されているんだ
足りないなかで誰が我慢するかを決めるのもね
自分で決めるのなら我慢もできるよ
#ジブリで学ぶ自治体財政

昨日もまた「枠配分予算」の話になってしまいましたね。
私はこの手法を何でも解決できる魔法の杖のように話していますが、今日はどうすればその魔法の杖を手に入れられるのかをお話ししましょう(笑)。
財政出前講座などで枠配分予算の話をすると必ず、配分する枠の具体的な算定方法を尋ねられますが、その根底にあるのは、どうすれば「適正」に「妥当」な枠を配分できるのか、という問題意識です。
しかし、ここですでに多くの皆さんが間違いを犯しています。
枠予算の配分方法は「適正さ」「妥当性」を追求するものではありません。

配分財源の計算方法としては、自治体全体の一般財源を予算編成時に見込み、そのうち義務的経費、特別会計・企業会計との負担ルールに基づき個別に算定される経費、及び政策的意図をもって個別に調整すべき経費に必要な財源を控除して留保し、残余について各部局の財政需要に応じて配分する、という説明になりますが、具体的な算定方法は、福岡市でも、私が課長だった4年間を含め、今でも毎年のように変更しています。
私が福岡市でこの制度を確立した際に留意したのは、正しく公平に配分するルールを制定し適用することではなく、配分を受ける各局がいかに現下の財政状況を「自分ごと」ととらえ、その中で最大のパフォーマンスを発揮する「自律経営」を行うモチベーションを持てるかという、組織マネジメントのためのコミュニケーションという考え方でした。

枠配分予算の制度設計を行う際に陥りがち落とし穴は「正しい予算」を組もうとすることです。
個々の事業費の見積もりが効率的で適正であること。
その事業の総計が全体として政策、施策事業のバランスが取れていること。
収入と支出が均衡し、持続可能な財政運営が担保されていること。
全ての事業を財政課で一件ずつ査定していた時代は、この「正しさ」をすべて財政課長一人のモノサシで測り、正しく査定していたというわけですが、以前も書いた通り、それは実在しない“神話”です。
確かに市民から預かった貴重な税金の使い道をいい加減に決めてはならず、筋の通った基本方針に基づき、調整されていなければならないわけですが、それを財政課に一手に引き受けさせるために権限と責任を集中させることの無理を避け、現場と官房部門が役割を分担したのが枠配分予算なのです。

個々の事業費の効率性や適正さは現場に任されます。
政策内の施策事業のバランスは政策推進の責任者である各局長が調整します。
政策どうしのバランスは基本計画を統括する企画部門と首長が判断します。
そして、収支均衡、将来負担への対応のための財源調整行い、持続可能な財政運営を司るのが財政部門という具合です。
この分業がうまくいくための仕掛けとして「枠」を配分するのです。

配分される財源の「枠」は、使える金額の上限規制ですがその上限いっぱいまでの裁量権を付与することでもあります。
「枠」の配分を受けた局長は、やるべきこと、やりたいことの優先順位を考え、与えられた権限の範囲内で最大のパフォーマンスを発揮できる施策事業に財源を充当するために、限られた財源をできるだけ有効に使おうという意欲のもとで、配下所属の個々の事業内容や金額を精査し比較優位を検討することになります。

すべての事業に満額の予算がつけられるだけの財源は与えられていないことから、局長自身は何かを取捨選択しなければいけない局面には立たされますが、それは自らの権限と責任で行いうることであり、行わなければならないこと。
権限、裁量と責任は表裏一体のものとして「自分ごと」化され、自分で何とかしなければならないと考えた局長は、配下の組織に命じて創意工夫を巡らせます。
こうして、限られた財源を「適正に」使う知恵が生まれるという仕組みなのです。

このやり方では、その費用の適切性や効率性が現場に近いところで意識されるため、同じ金額であってもその有効性が高まりますし、何よりも現場が財政課から頭ごなしに査定されるのではなく、自分たちの直属の上司である局長の下で自分たちの権限や裁量が認められ、創意工夫の余地が与えられることで職員のモチベーションが高まり、例え予算が削減、縮小されたとしても財政課から査定されるものよりは納得のいく結論になります。
枠配分予算制度は、全体最適と部分最適の相剋を乗り越えるために、可能な限り部分最適の良い部分を残した全体最適化の手法なのです。

むしろ、各局長に権限と財源を配分すれば、局ごとに好き勝手に事業を乱立させ、全体として統一感のないバラバラな予算になってしまわないかとの懸念を持つ人もいますが、これを束ねるのは首長や官房部門の役割です。
部分最適と全体最適の融和には、基本計画に掲げる将来像や首長の公約の実現に向け、自治体が目指す総合的な目標の共有と組織を挙げての一体的な取り組みが不可欠です。
そのために、予算編成に際して市政運営の基本的な考え方として重点的に取り組む政策やそれに対して与えられる資源制約の状況を共有し、各局長及びその配下の職員たちが何を目指すのか、そのために自分が分担して与えられている権限と責任は何なのか、を正しく理解する過程が必要になります。
そして、各局長に委ねた部分最適の総和が、首長の果たすべき全体最適になるよう首長を補佐し、調整するのが企画部門や財政部門の役割なのです。

枠配分予算の仕組みはこの役割分担が機能するように設計されなければならず、その財源配分は、机上の理論や平等公正な規律ではなく、どうやったら職員一人ひとりがやる気になるかが全てです。
そのためには、枠配分予算制度の決まりごとや配分財源に、この制度で誰に何を期待するのかをメッセージとして込め、それを伝えて組織を動かすことが何よりも大事であり、その思いが実現できたときに枠配分予算は魔法の杖となるのです。

※過去の投稿もご参照ください。

★2018年12月に「自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?」という本を出版しました。ご興味のある方はどうぞ。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
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