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豊かさの錯覚

県内でも有数の優良自治体じゃなかったの?
それがいきなり非常事態だなんて!
突然ハシゴはずすのってあんまりじゃない?
#ジブリで学ぶ自治体財政

ちょっと別の執筆が忙しくてこちらがお留守になっていましたが、ネタがたまってきたので再開します。
今日は少しマニアックな「財政力指数」の話です。
静岡県裾野市では新型コロナの影響で財政が危機的な状況に陥っているとして「財政非常事態宣言」が出されました。


裾野市によると市税収入が減少傾向になる中で平成22年度以降は市の貯金である財政調整基金で財源不足を補てんしながら行財政構造改革の取り組みを進めてきたところ、新型コロナの影響で大幅な税収減が見込まれ、これまで以上の取り組みが必要になったとのこと。
2年後にはこの基金が枯渇し、予算が組めなくなってしまうと報じられています。
私は以前にも京都市や新座市での同様の財政危機宣言を取り上げてきました。

今回の謎は裾野市の「財政力指数」。
裾野市は静岡県内市町で5番目に高い“優等生”。
それがなぜいきなりこんな財政危機に陥ったのかというのが今日のテーマです。
「財政力指数」という名前からすれば、その数値が良好であれば財政的に豊かなのだろうと想像します。
確かにこの指数は、財政運営における余力を表す指標で、1を基準として1を上回ればそれだけ余裕があると意味ですが、自治体財政のどの部分を表現しているのかという点で誤解されているように思います。
「財政力指数」は、地方交付税の仕組みと密接に絡んでいます。
地方交付税の仕組みについては以前ご説明しましたのでここでは詳細を省きますが、端的に言うと「国が国税として課税徴収する税金の一部を自前の税収の少ない自治体に国が配分する仕組み」です。


この配分に当たって、国が自治体の規模や社会的条件を考慮して定めた基準の支出に見合う収入がある自治体が財政力指数1とされ、1を上回る場合は国が定めた基準よりも収入が上回っているので余裕があり、1を下回る場合は収入が不足するため、地方交付税で補てんされるということになっています。

しかし、この基準は、収入については地方自治体が自前で課税徴収する地方税の75%(基準財政収入額)と定められ、実態に即したものが採用されますが、支出(基準財政需要額)は,人口や面積などの「測定単位」ごとに「教育費」「厚生労働費」といった行政目的ごとの「単位費用」が示され,それを掛け合わせ,足し合わせていくことが算出の基本です。
実際に自治体が予算計上し、あるいは実際に使った金額ではなく、あくまでもその地方自治体が合理的かつ妥当な水準において地方行政を行う場合に要する経費を算出したもの,いわば国が自治体運営について最低限度必要だと認める額です。
また地方交付税の算定の仕組みから「基準財政需要額で基礎的な行政運営を行い,市税収入の25%は留保財源として自治体独自のサービスに充てる」ことが想定されていますが、この基準はあくまでも全国の地方自治体に一定のルールで財源保障するうえで自前の収入と地方交付税の分担を定めたに過ぎず、基準財政収入額の範囲で行うべき事務事業が定まっているわけではありませんので、留保財源まで含めてその使途はすべて自治体の裁量にゆだねられています。

裾野市の場合でいうと、近年の財政力指数はほぼ1を上回っており、税収の75%に当たる基準財政収入額で国が定める最低限度の行政経費(基準財政需要額)を賄えることから、地方交付税の配分を受けない優良自治体と位置付けられてきました。
しかし、ここ10年くらいは税収が減ったにも関わらずそれに見合う支出の削減が十分に行えず、毎年度の収入の範囲内で支出が賄えないため過去の貯金を切り崩して収支を合わせてきたというのが実態です。
「各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもつてこれに充てなければならない。」という会計年度独立の法則を逸脱したまま、基金を減らし続けてしまったのです。
これは国の基準通りに予算を組み、執行しなければいけなかったということでは決してありません。
基準財政収入額も留保財源も自治体が使途を自由に定めることができる一般財源。
地方交付税も、国が課税徴収する地方自治体固有の財源を地方自治体の間で公平平等に配分するためのルールに基づき配分されるもので、その使途は25%の留保財源とともに自治体の裁量にゆだねられているのです。

全国の地方自治体の中には、同様に財政力指数が1を超え、地方交付税の交付を受けていないことを以て健全な財政運営が行われていると錯覚している地方自治体がいるのではないでしょうか。
財政力指数は、あくまでも全国の地方自治体を一律の基準で見た場合にそれぞれの地方自治体運営に必要な最低限の収入があるかどうかのバロメーター。
留保財源の25%まで含めてその運営を必要最低限でやるのか、少しお金をかけてやるのかは各自治体の市民が決めることです。
地方交付税の交付を受けない多くの自治体は交付を受けている自治体よりも確かに裕福で、留保財源まで含めた豊かな財源を市民サービスの向上に充てる財政運営が行われているという実情はあります。
ただ判断を誤ってはならないのは「各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもつてこれに充てなければならない。」という単純なルールの意味。
どれだけ収入が豊かであっても、その収入の範囲内に支出を押さえなければ「お金がない」という状態に陥り困窮することに変わりはありません。

財政が健全かどうかは、お金がたくさん入ってくるかどうかではなく、実際の収入と支出のバランスがとれているか、そして将来にわたってその状況が持続できるかどうか、で測らなければいけません。
財政が豊かだった過去に市民への給付やサービスの無償化などを拡充したことで、毎年必ず必要になる経常的経費がかさみ、税収が減った現在、サービスを切り下げることができず財政運営が苦しいという自治体が増えています。
会計年度独立の原則は、現在の収支均衡だけでなく人口が減少する将来の収支均衡をも見据える必要があり、将来の収支均衡を考慮すれば、給付やサービスを行うにあたっては持続可能性を十分考慮した適正な受益者負担を求めることや、将来の人口に対して過剰な社会基盤投資を抑制することも必要になることを忘れないでいただきたいと思います。

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