2021年4月の記事一覧
「短歌人」2021年5月号掲載作品
「猫踏んぢやつた」
教員として過ごしたる若かりし数年間は猫踏んぢやつた
踏んぢやつた猫踏んぢやつた基礎のなきがむしやらピアノ弾くごとき日々
なぜあのときあの生徒(こ)にああ言へなかつたか二十年(はたとせ)のちも悔いはのこりて
諦めたのか投げ出したのか逃げたのか追はれたのかもしれぬ教職(しごと)を
教室にノスタルジーを抱かざるわれにもかつてゐし佐野朋子
定時制普通科生徒家出して遍路姿で戻
「短歌人」2021年4月号掲載作品
「夜空を仰ぐ」
コートきてマフラーまきて外にでる月うつくしと母に呼ばれて
ちちははと夜空を仰ぐ星の名を教へる役のいつしか替はり
藍色のプラスチックの星座盤かの夏買ひてそののち捨てき
捨てなければよかつたもののいくつかを星をむすんでゑがくあそびよ
午後七時からの礼拝聖堂の木の窓が夜を切りとる
雪雲に蓋をされたる瓶のごとき小さな町も宇宙の一部
理科室を好めるやうなこころもて整理整頓する台