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人類学とアート #1

昨年10月にはじまった修士過程が、この10月で2年目に突入してしまった。そいでそのうちの半年以上がコロナで身動きとれなくて、これまでみたいなフィールドワークできないとかなんなの〜ひー。

しかし、そんなこととは関係なしに時は進んでいくわけで... 調査フィールドがペルー・アマゾンな私の不安をよそに、来年10月の卒業に向けた修論の制作指導がスタートした今日この頃。

10月〜2月半ばまでを目処に行われるオンライン授業と並行しながら、修論のプロボーザルを提出し、4月頭までにフィールドワークを実施。さらに、その期間中に最低9週間のインターンシップをこなすという... なかなかタフな3学期の幕があがったところである。

ちなみにこの「修論」は、映像作品や展示作品(インスタレーションや写真)でもOK。自分は「シピボ族のシャーマンの身体性」をテーマに、彼らが植物の意識と繋がるプロセス(=プラント・マエストロのディエタ)を可視化し、現在のデジタル社会における彼らの身体感覚の意義を模索する映像作品をつくりたくて。近年、にわかに注目を集めている植物神経科学をめぐる言説も参考(※)にしながら、先住民がもつ植物と繋がる感性を可視化したい。ペルーでのフィールドワークを12月中には開始して、2月半ばからの約2ヶ月でベルリンのアートスタジオでインターンする予定なんだがどうなることやら〜

修論と並行して進む授業も、三学期に突入してより応用的かつ実践的になってきた。人類学とアートの交差について考察するような授業が増え、これまで以上にベルリン魂炸裂。100%コミットしたいエキサイティングな授業ばかりだが、そこはどうしてもフィールドワークとのトレードオフ問題で... いや〜 せめてもうちょい時間に余裕がある第二セメスター(4月〜8月)にやって欲しかったな〜...  で、そのクラス構成ってのがこんな感じ↓

三学期のクラス

月曜日:Auto-ethnography in the V-logger Era (1.5時間)全10クラス(V-logger時代におけるオートエスノグラフィー)
オートエスノグラフィーとは、人類学者自身が主体となり、ある文化や政治、或いは他者との間に横たわる問題意識を記述・可視化する民族誌のジャンルのこと。いわゆる普通の民族誌との違いは、作家自身の個人的な経験や身体性が、撮影対象に投影されている点にある。例えば、このジャンルの代表作として学んだのがみんな大好き、クリス・マルケルの「Sans Soleil」やシャンタル・アケルマンの「News From Home」。物語の主人公が、「ある異文化の・他者」ではなく、作家自身であることが特徴。個人的に最も習得したい民族誌制作の手法のひとつで、対象に対する「Positionality(個人的な見解や立ち位置)」を詩的に投影する手法に一番興味があります。Sans Soleilのような、作者が一度も映像の中に映り込まないのに作品中に作家の息吹と対象への愛を感じるような存在のプレゼンテーションの仕方を学びたい。
火曜日:Documentary Photography (1.5時間)全10クラス
その名の通り、ドキュメンタリーの手法で制作された写真表現を学ぶクラス。写真表現におけるフレーミングや文法の基礎を同ジャンルの作家たちの作品を通じて議論する。Taryn Simon, Gideon Mendel, Sophie Calle, Jörg Sasse, 川内倫子らをはじめとする15名の作家のなかには、Alec SothRichard Billinghamの名も。嬉しい〜!!そもそも、「ドキュメンタリー」って何?それらに用いられた手法と人類学的な調査手法はどうオーバラップするの?ってことがポイントなんだろうなあ、と。
水曜日:Artistic Practice (1.5時間)全10クラス
文化的な枠組みを超えるコンテクストで作成された現代アートの制作手法を分析することで、アートと人類学の交差を議論するクラス。もうね、きたー!!! って感じのど真ん中のやつです。ベルリンの十八番っていうかね。Hal Foster (1995)の「The Artist as Ethnographer? 」とKris Rutten, An van. Dienderen , Ronald Soetaert (2013)らの「Revisiting the ethnographic turn in contemporary art」をコースの導入に据えて、Ann Hamilton, Hito Steyerl, Allan Sekula, Luis Jacob, Ai Wei Weiなどアクティビズムとしてのアートやエンゲージメントアートの制作プロセスから人類学への応用を学んでいく。
コースの問題意識として据えられているひとつの視点が、アウトプットの手法を変えることで拡大するオーディエンスの質量について。同じ成果を発表する上で、論文よりも映像やアートの手法をとりいれることでリーチできるオーディエンスが拡大するのであれば、人類学もその手法を取り入れようと。近年話題になるアーティストが取り入れる制作手法としての「Research Based」なアプローチと人類学者の「Practice-led 」な手法がオーバーラップしている点もまた、アートと人類学の境界から学ぶアーティファクトとなる。
木曜日:Decolonized: Images, Race and Representation (1.5時間)  全10クラス
 脱植民地化の文脈で表明されたイメージ、民族性や表現について学ぶクラスで、先住民や黒人、黄色人種といったいわゆる「非白人」のアーティストやアクティビスト、人類学者によるイメージの表象を議論する。そもそも「脱植民地化」とは何か?「Whiteness(白人さ)」とは何か?イメージに潜む植民地的な表現を反証としながら、自分自身のルーツや偏見についても考えさせられる。

この他に、編集の実践とエスノグラフィーの調査手法のクラスをあわせて合計6つが3学期の授業となる。

アートの手法を使って、シャーマンと植物の関係性と身体性を可視化することが修士過程での目標なので、ここから半年が正念場。しっかり吸収するぞ〜 以下、Artistic Practiceでシェアされたアートと人類学の実践例。参考までに。

The Humboldt Forum
https://www.humboldtforum.org/en/
THE HUMBOLDT LAB DAHLEM
http://www.humboldt-lab.de/en/about-us/index.html
ベルリンのダーレムエリア(ベルリン自由大学がある地域)にある3つの博物館が、移転に伴い実施した3年間のプロジェクト。国の支援のもとに(4, 125 million euros)博物館のキュレーター、外部のデザイナー、アーティスト、人類学の研究者らが一同に介して、各自が所有するアーカイブを最大限に活用するための戦略策定と場のリデザインを手掛けた。その時の記録は、The Laboratory Concept: Museum Experiments in the Humboldt Lab Dahlem にまとめられている。
Documenta 14 (2017)「artistic and anthropological research」に関するジャーナルのフィードバック
※ 植物神経科学における「植物は知性・意識がある」派に対するPlants Neither Possess nor Require Consciousness
Source: Trends in Plant Science
https://www.cell.com/trends/plant-science/home

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