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『わかば』        

   シナリオ・センター 本科 課題⑧「湖」
                                     作 瀬下祐美

⭐️私が中学、高校と弓道部だったこともあってか
「湖」と聞いてパッと思いついた
青春胸キュンストーリー💕笑

人物👤
広田わかば(16) 高校一年生
西園寺尊(18) 高校三年生
須藤あかね(16) 高校一年生 わかばの友人
広田雅子(45) わかばの母
鵜飼二郎(75) わかばの祖父
坂本健一(35) 弓道部顧問
弓道部員1
弓道部員2

◯畦道
   のどかな田園風景。蝉の声。
   自転車を半袖セーラー服のスカートが乱れ
   るのも気にしない様子で全速力で漕いで
   いる広田わかば(16)。
   眼鏡をかけて、おしゃれには全く興味ない
   感じの冴えない風貌。
   寝癖も目立っている。

◯中禅寺湖・湖畔
   扇の的が設置された小舟が湖上にある。
   『第57回扇の的競技会会場』と表示され
   た横断幕。
   袴姿の老若男女が並び、扇の的に狙いを定
   めるように矢を放っている。
   凛々しく袴姿が様になっている西園寺尊
   (18)の姿もある。
   矢が的に当たると、「射」の声。
   心配そうに辺りを見回している
   半袖セーラー服姿の須藤あかね(16)。
   腕時計を見ながら、落ち着かない様子の
   坂本健一(35)。
   息も切れ切れに走り込んでくるわかば。

わかば「おはようございます!!」

坂本「おはようございますじゃない!何やってんだ?ちゃんと時間通りに来い!!」

   居た堪れない様子のわかば。
   わかばの傍に来るあかね。

あかね「(小声で)寝坊?髪…寝癖ついてる…」

   寝癖を気にしながら笑って誤魔化す
   わかば。
   悠々とわかば達の傍にくる尊。
   夢見る乙女のような表情になるあかね。
   ポーカーフェイスの尊。

尊「(大声で)1年のくせに寝坊で遅刻とは…いい度胸じゃねえか?」

   周りを見回しながら慌てるわかば。

わかば「(小声で)そんな大声で言わなくてもいいじゃないですか…」
尊「気合いが足りねえんだよ…それに相変わらずダセえし…」
わかば「(小声で)格好は関係ないと思います!」

   わかばをじっと見て耳元に口を当てる尊。
   慌てるわかば。

尊「すげえ寝癖」

   笑いを堪えながら悠々と立ち去る尊。
   うっとりと尊を見送るあかね。

あかね「ねえ…何て言われたの?」

   仏頂面になるわかば。

わかば「…別に…」

   慌てて髪を整えるわかば。

◯広田家・茶の間(夜)
   畳敷の部屋。縁側もある。蚊遣豚から煙。
   大きな卓袱台の横で、物憂げに寝そべる
   制服姿のわかば。
   縁側で碁を打っている鼻眼鏡の
   鵜飼二郎(75)。
   羊羹3個を盆に乗せ入ってくる
   広田雅子(45)。

雅子「水羊羹でも食べましょう…」

   反応なしのわかば。
   子供のようにはしゃぐ二郎。

雅子「…なんか元気ないわね…」

   わかばを心配そうに見る雅子。
   背中を向けるわかば。
   美味しそうに羊羹を食べている二郎を
   見る雅子。

雅子「お父さん、食べたらそろそろ帰った方がいいわよ?
 またお母さんに捜されちゃうわよ?」

   呆れ顔の二郎。

二郎「わかっているよ…」

   わかばをチラッと見る二郎。

二郎「どうした?さっきから…わかったぞ!!
 しょんべんでも漏らしたか?」

   慌てて起き上がるわかば。

わかば「子供じゃないんだから…そんなわけないじゃん!」

   真顔になるわかば。

わかば「…ねえ…私って…ダサい?」

   わかばをじっと見る二郎。

二郎「何言ってんだ?わかばはな…可愛くて賢くて優しくて…
 自慢の孫だぞ!」

   わかばの頭を撫でる二郎。
   わかばを見つめて微笑む雅子。
   照れくさそうなわかば。

わかば「だから…子供じゃないんだって…」

   笑顔になり、羊羹を美味しそうに
   食べ始めるわかば。

◯二荒山神社・境内
   『流鏑馬秋季例大祭』と表示された旗。
   武者装束の男たちが飾りを付けた馬に
   跨り、的をめがけて疾走している。
   人々の歓声とため息。
   垢抜けた様子のわかば。
   あかねと弓道部員1、2の姿もある。

弓道部員1「カッコいい〜」
弓道部員2「俺さ…これを見て弓道部に入ったようなもんだぜ?」

   談笑する弓道部員1、2。
   辺りをしきりに見渡すわかばとあかね。

あかね「西園寺先輩…来ないね?」

   悪戯っぽく微笑むあかね。

わかば「…別に…先輩を探しているわけじゃないし…
 流鏑馬やっぱりカッコいいね?」

   動揺するわかば。

あかね「なんかさ…わかば…可愛くなった…」
わかば「いきなり何?!」
あかね「…深い意味はないんだけど…最近先輩とけっこう話しているし…」
わかば「えっ?ただからかわれているだけだって…」
あかね「…そうなんだ…」
わかば「うん…そうだって…」

   辺りをそっと気にするわかば。

◯湯西川スキーパーク(夜)
   沢山のかまくらに蝋燭が灯り
   幻想的な様子。
   わかばと二郎が雪蓑を着て来場者を
   案内している。
   寒そうな様子で尊が来る。
   ダウンジャケットとニット帽も
   様になっている。
   わかばと二郎、気付かない。
   わかばを見つめる尊。

尊「こんばんわ〜」

   わかばと二郎、一緒に尊に気付く。
   お辞儀する尊。
   笑顔でお辞儀を返す二郎。
   驚き、目が泳ぐわかば。

二郎「…君が西園寺君かい?」
尊「そうですけど…」

   黙り込んでいるわかばをチラッと見る
   二郎。

二郎「…そうかそうか!噂通りのハンサム青年だ!
 あっ…せっかく来てくれたんだから2人で楽しみなさい…」

   慌てるわかば。

わかば「(小声で)おじいちゃん…余計なこと言わないでよ!」

   悪戯っぽく微笑む二郎。

尊「ありがとうございます!少しお借りします…」

   わかばを見つめる尊。
   慌てるわかば。

二郎「どうぞどうぞ…熨斗つけてさしあげても
 いいですよ…」

   戯ける二郎。

わかば「もう…」

   呆れるわかば。

   ×       ×       ×

   かまくらの合間を並んでゆっくり
   歩いているわかばと尊。

わかば「どうしたんですか?今日…」
尊「家近いし、お前が何かヘマやらかしてないかを見に来た」
わかば「何ですか!?それ…」
尊「何?…俺がお前に会いに来たとでも思ったの?」

   ドヤ顔の尊。
   慌てるわかば。

わかば「そんなこと…思ってるわけないですよ!!
 口悪いし、偉そうだし、カッコいいからって
 いい気にならないでください…って…すみません…」

   笑い出す尊。

尊「言ってくれるじゃん…」
わかば「少し言い過ぎました…」

   照れ笑いするわかば。
   立ち止まり、わかばを見つめる尊。
   目を逸らし、慌てるわかば。

尊「…お前…いや…何でもない…」
わかば「何ですか?途中で言うのやめるって…
 気になるじゃないですか…」

   真面目くさって言う尊。

尊「最近…弓上手くなってきてるって話…!
 来年の扇の的出ろよ…しょうがねえから
 見に行ってやるよ…」

   尊を見つめるわかば。

◯中禅寺湖・湖畔
   扇の的が設置させた小舟が湖上にある。
   『第58回扇の的競技会会場』と表示された
   横断幕。
   弓矢を持ち、袴姿の老若男女の中にわかば
   の姿もある。
   辺りを見回すわかば。ギャラリーの中に
   腕組み仏頂面の尊と目が合う。
   あかねと坂本、わかばの傍に来る。

坂本「那須与一の生まれ変わりだと思って行ってこい!!」
あかね「何ですか?それ!」

   苦笑いのあかね。
   あかねとハイタッチして微笑むわかば。
   目を瞑り、ゆっくり開けるわかば。

わかば「(小声で)先輩…私の一射を…見守っていてください…」

   意を決したように射場へゆっくり颯爽と
   歩いて行くわかば。

              終