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【灘中学校2020年度入試(1日目)算数第5問】同じものをかけることと組合せの数

今回は灘中学校2020年入試より1日目算数第5問をお届けします。

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(灘中学校・高等学校、2011年8月28日、Saoyagi2撮影、Wikipediaより)

私は数学の先生ではないのですが、プロフィールでも述べた通り、仕事柄、数学的な知識を必要としています。その中でも離散(りさん)数学を使うことが多く、今回の問題はその分野からの出題になっています。

かなり乱暴な説明になりますが、本題に入る前に離散数学とは何かを単純にして説明します。

まず、数直線を思い浮かべてみてください。数直線上には様々な数字があります。整数はもちろん、分数や、円周率などの数字が「途切れることなく」続いています。

「途切れることなく」をきちんと説明するのは難しいので、ここでは数直線上のどこをとっても値があるという意味だと思って下さい。

では次に、(数直線上の)整数を思い浮かべてください。整数は数直線上をとびとびで現れます。分数(+整数)は一見すると「途切れることなく」続いているように見えますが、実はとびとびに現れています。(例えば、円周率は分数で表すことができないことが知られているので、分数は数直線上で円周率の部分をとんで現れることになります。)

こういう、とびとびの数字だけからなる世界を元にして作られた数学が離散(=とびとびの)数学です。数え上げ(場合の数)は離散数学の代表的な分野のひとつです。

さて、本題に戻りましょう。問題は以下の通りでした。

[問題] 下のように数を並べたものがあります。各段の両端(りょうたん)の数は1で、2段目以降の両端以外の数は、その数の左上にある数と右上にある数の和になっています。

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この100段目について、その一部(左から2つ、右から6つの数)をかくと、

1     100     … …     75287520     3921225     161700     4950     100     1

です。また、

11 × 11 = 121,     11×11×11 = 1331,     11×11×11×11 = 14641,
11×11×11×11×11 = 161051

です。以上のことを参考にすると、100個の11をかけた数

11×11× … ×11×11

の下6桁は (A) です。

例えば、123456789 の下6桁は 456789 です。

[問題終わり]

さて、この問題。まず、数字がピラミッド状に並べられた図が出てきましたが、これはパスカルの三角形として知られています。

n 個の異なるものの中から k 個を取り出す組合せの数を nCk と書きますが(某塾で教えていたのでこのまま使います)、パスカルの三角形では n 段目の左から nCn, ... , nC1, nC0 という風に数字が並びます。(一般には nC0, nC1, ... , nCn ですが、左右対称なのでどちらでも問題ありません。)

パスカルの三角形を作る方法から、n≧k≧2のときに nCk = (n-1)Ck + (n-1)C(k-1) が成り立たなければいけないことになりますが、これは簡単です。

1, 2, ... , n がそれぞれ書かれた n 枚のカードから k 枚を選ぶときの組合せの数を数えるとき、n と書かれたカードを選ばないときと選ぶときのそれぞれについて組合せの数を数えて足せばよいことになります。
・n と書かれたカードを選ばない場合、残りの n-1 枚から k 枚を選ぶことになるので、組合せの数は (n-1)Ck 通り
・n と書かれたカードを選ぶ場合、残りの n-1 枚から k-1 枚を選ぶことになるので、組合せの数は (n-1)C(k-1) 通り
したがって、nCk = (n-1)Ck + (n-1)C(k-1) が言えます。

では、パスカルの三角形と 11×11×...×11 にはどういう関係があるのでしょうか?

これを理解するために、まずはひっ算をしてみましょう。手を動かすのは理解への近道。

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5個の11をかけるところまでは右上にある数と左上にある数の和を求める様子が現れていることに気が付きませんか?ひっ算のそれぞれの桁は下の図のように上から左にある数(赤矢印)、右側にある数(青矢印)、その和の順に現れています。

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ところが、繰上りが発生し始める5段目(5個の11を書けたところ)から分かりにくくなっています。これを次のように書いてみましょう。

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あえて繰上りをしない状態で答えを書いて、あとで繰上りをした答えを書くと、5段目以降も11のかけ算の結果と一致します。要するに、n 段目に出てくる数字は、右から見ていくと n 個の11を書けた計算結果の下1, 2, 3, ... 桁目になります。ただし、繰上りをあえて行っていない結果となっています。

11を100個かけた数の下6桁を求めるには、100段目の数字を右から6つを桁をそろえて足してあげればよいので、下のようになります。(右から7つ目以降の数字は下6桁には影響を与えないので必要がありません。)

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よって、答えは 446001 となります。

では、何故、パスカルの三角形と n 個の 11 をかけた数字が関係したのでしょうか?

今回の問題では 11×11×…×11=(10+1)×(10+1)×…×(10+1)と見なして、右辺を分配法則を使って表現したあと、10をかけた回数が同じ項でまとめています。例えば、こんな感じになります。

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上の図のように3個の11をかける場合、3個の(10+1)をかけると見なして、それぞれの(10+1)に1番から3番まで番号をつけます。分配法則を使うと、3個の11をかけた数は、それぞれの(10+1)から10を取り出した場合と1を取り出した場合の全ての組合せについて、組み合わされた数をかけ合わせて、それらの組合せを全て足した式として表されます。

では、10が2個、1が1個の組合せ(上図の赤線の項)は何通りできるでしょうか?それは、3個の(10+1)の中から10を2個(残りは1を)選ぶ組合せの数になります。したがって、3C2=3通りとなります。10を2個、1を1個かけると100となりますので、10を2個、1を1個かけた項を全て足し合わせると、3×100という項が出てきます。同じように考えていくと、

・10が3個、1が0個→1通り→1×1000
・10が2個、1が1個→3通り→3×100
・10が1個、1が2個→3通り→3×10
・10が0個、1が3個→1通り→1×1

となり、11×11×11=1×1000+3×100+3×10+1×1=1331と計算されるわけです。

今回、11という数字が選ばれたのは、パスカルの三角形が直接使えるからというだけで、少し計算が複雑にはなりますが、いくつであっても同じように計算ができます。例えば、3 個の a + b をかけた結果は

3C3 × a × a × a + 3C2 × a × a × b + 3C1 × a × b × b + 3C0 × b × b × b
= 1×a×a×a + 3×a×a×b + 3×a×b×b + 1×b×b×b

となります。 

中学入試の算数の問題は、高校数学を焼き直した問題も少なくありません。今回の問題はその一例と言えます。

ややもすると、高校数学で習うものを中学入試で問うことに何の意味があるのかという疑問や批判もあるかもしれません。

ですが、パスカルの三角形で言えば、高校で習うのは「nCk が規則的に並んで、nCk の具体的な値が計算できる」という事実関係のみです。今回の問題はそこから踏み込んで、パスカルの三角形を見て何を感じるかを問うています。

このような問いは頭の柔らかい小学生に向けた方がむしろふさわしい、と私には思えます。

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