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沈黙を楽しむカフェ(があってもいいと思う)

11都道府県に緊急事態宣言が再度発令された。

ここ栃木県も感染者が急増しているので、それは仕方ないことと思う。しかし今回解せないのは、「飲食を介して感染が拡大している」とか「飲食店はリスクが大きい」などと言っておきながら、夜8時までの営業時間短縮を要請するのみで、昼間の営業については何ら制限がないことだ。

夜の時短営業に対しては協力金が支払われるが、もともと昼間しか営業していない飲食店は対象ではない。飲食店が感染を拡大しているのなら、第一波の時とおなじように、すべての飲食店に休業要請するべきではないのか。この状況下では店を開けていてもお客さんは来ず、現状は第一波の時とさほど変わらない。

お客さんが「不要不急の外出を控える」という行動を取るのは正しいことなので、それに対して不満を訴えるつもりはない。しかし、私が気になるのは「飲食店には感染リスクがある」というような言い方なのだ。

そうじゃないでしょ。

リスクがあるのは、「飲食」でしょ。

「飲食のしかた」でしょ。「飲食店」じゃないでしょ。

去年の5月、緊急事態宣言が解除されて営業を再開して以来、私たち飲食店は本当に努力して、感染拡大を起こさないために、様々な対策を取ってきた。

当初はアルコール消毒液が品薄だったり、マスクが手に入らなかったりする中で、あちこち駆け回って必要な資材を確保し、営業を再開。客席の数を減らして間隔をあけ、お客様には入店時の手指の消毒とマスク着用をお願いし、換気を徹底して行い、退席後はテーブル、椅子、メニューなどあらゆるものをアルコール消毒し、決済はクレジットや電子マネーが使えるようにした。

自分たちも、食器を下げるときやお会計のとき、石鹸で必ず手洗いをする。いつもマスクをつけているので肌荒れを起こし、アルコールと洗剤で手はガサガサになる。

すべては「感染拡大防止のためのガイドライン」に沿って完璧に行われ、それにも関わらず、やはり怖かった。これだけきちんと対策していても、感染する可能性がゼロとは言えないから。

人は飲食店に何を求めるのか。

いろんなタイプのお店があるので一概には言えないが、食べたり飲んだりする「モノ」を求めるのであれば、それを売る店に行けばいい。このごろのコンビニはとてもクオリティが高いし、テイクアウト専門のチェーン店もある。

でも人は、「誰かと一緒に」おいしいものを食べたかったりする。それは、「誰かと会うこと」とセットだったりする。そして、その「誰かとおしゃべりする」時間を楽しみたかったりするのだ。

おいしいものを食べながらおしゃべりをする。

それは、ウチのようなカフェにとって、普通のお客様がする行為だ。食べるときは黙って食べて、食べおわったらすぐマスクをつける。とか、飲み物をさっさと飲んで、すぐマスクをつけて、それからおしゃべりする。とかは、相当に意識しないとできない行為だ。

ほとんどの人は、誰かと食事を共にするとき、食べたり飲んだりしながらしゃべっている。つまり、飛沫感染のリスクは常にあるーー共食するかぎりは。その飲食店が、どれだけきちんと感染症対策を取っていたとしても。

逆に、「共食」ではなく「個食」であったらどうなのか。ひとりでいるとき、相手もなくしゃべりながら食べる人はまずいないだろう。ひとりで来店する人は、ひとりを楽しめる人だ。

ウチの場合、このようなタイプのお客さんが少なからずいる。ゆっくりと食事をし、飲み物を楽しみ、本を読んだりスマホを見たりしている。店の中が「個食」のお客さんばかりだったら、感染リスクはほぼゼロと言っていいだろう。

誰かと一緒だったとしても、沈黙が楽しい間柄というのもある。黙って囲炉裏の火を見ていたり、それぞれ読書に没頭している仲のいい二人というお客さんもいる。この人たちも、感染リスクは限りなく低い。

とっても静かで、沈黙が支配しているけど、なぜか楽しいカフェ。それだったら、今の状況でも営業して大丈夫ではないかと思う。

入口に「沈黙を楽しむカフェ」って書いておこうかな。

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