陳述書[山田明氏]

◇なぜ監査請求人に加わったのか
 請求人の山田です。はじめに、なぜ私が今回の住民監査請求に加わったかを話します。現在は名古屋市立大学名誉教授です。名古屋市から大阪市に転居し、4年半余りになります。大阪・関西万博開催が決まり、大阪府・市は万博と連動して夢洲へのIRカジノ誘致を推進してきました。私は長年にわたり地方行財政、公共事業と財政を調査・研究してきましたので、夢洲での大規模開発と財政を注視してきました。大阪湾の人工島・夢洲を舞台にした大規模開発は、環境や災害、財政などの側面から大きな問題があると、論文やレポートで警鐘を鳴らしてきました。
 夢洲は1987年以降、廃棄物や浚渫土砂、建設残土などで埋め立てられてきました。昨年10月撮影の写真のように、夢洲は左側の1区、真中下の万博予定地の2区、その上のIR予定区域の3区、右側の大阪港最大のコンテナターミナルが稼働する4区に分けられます。本監査請求は夢洲3区のIR予定区域約49haが対象です。高層建築物などを想定していない軟弱地盤の埋立地に、IRカジノ施設を計画するため、大阪市が底なしの財政負担をすることに異議を申し立て、差止めを求める監査請求であります。
 昨年末、IRカジノ計画案が公表され、大阪市がIR予定地の土地対策に790億円を負担することが明らかになりました。パブリック・コメントなどで問題を指摘しましたが、明確な回答はありません。この間の経過を知るため、大阪市に情報公開請求して資料を入手すると、IR業者と大阪市との「協議」の一端が少し見えてきました。とりわけ「基本協定書」は、業者の言いなりの協定であり、このままでは大阪市に巨額の負担が一方的に押しつけられることを危惧して、請求人の一人として名を連ねることにしました。


◇「基本協定書」の基本的かつ重大な問題点
 大阪府・市とIR事業者が2月15日に締結した「基本協定書」には、多くの問題があります。なかでも請求書29ページ記載の第13条の2 土地課題対策の実施及び当該対策費用の負担、34ページ記載の19条4項(4)開発が重要です。
19条4項(4)は次のように記しています。設置運営事業の開発に関して、以下の①乃至③の条件の全てを充足すること。

  1. 設置運営事業の実現、運営、投資リターンに著しい悪影響を与える本件土地又はその土壌に関する事象(地盤沈下、液状化、土壌汚染、残土・汚泥処分等の地盤条件に係る事象を含むがこれらに限らない。)が生じていないこと、又は、生じるおそれがないこと、かつ、当該事象の存在が判明した場合には、本件土地の所有者は、当該事象による悪影響の発生の防止を確実とするよう設置運営事業予定者と協力し、一定の適切な措置を講ずること(かかる適切な措置には、本件土地の所有者による関係する合理的な対策の費用の負担を含むものとする(後略))。

  2. 公共インフラ整備等による本件工事に対する制限が、設置運営事業の投資リターンに著しい悪影響を与えるおそれがないこと。

  3. 上記「1」及び「2」を含む予見不可能な事象の発生により本件IR施設の全部開業までに要する総費用が1兆円から著しく増加することが判明した場合には、本事業関連施設の一部や設置運営事業に関するコンテンツの開発を将来に延期(段階的な開発を含む。)できることが合理的に見込まれること。

 情報公開請求で入手した「基本協定書」全文を読んで、とりわけ19条4項に注目しました。議会でも問題となった790億円の公金投入は、土壌汚染や液状化対策など、きちんと調査して積算された金額ではありません。このほか地盤沈下や公共インフラ整備等なども、「土地所有者の責任として」、大阪市負担になることが懸念されます。まさにIRカジノ用地対策などに底なしの公金投入が続くことになりかねません。問題は請求書38ページ記載のように、IR事業者が指摘する夢洲のIR予定地の「極めて稀な地盤条件下での施設建設」が、大阪市の土地対策により実施されることです。


◇違法な財務会計上の行為停止の勧告を求める
 夢洲のIRカジノ予定地に対する土地対策は、港営事業会計の債務負担行為によって実施されます。3月議会で790億円の債務負担行為が認められましたが、「基本協定書」によると地盤沈下対策など際限のない追加負担が懸念されます。大阪港湾局は土地対策費の負担があっても、夢洲埋立事業は50数年後に収支回復といいますが(昨年12月8日の大規模事業リスク管理会議提出の大阪港湾局資料)、あまりにも先のことであり、不透明で甘すぎる試算です。 
 大阪IRカジノ計画(区域整備計画)は4月末に認定申請され、国土交通省で審査されています。国が計画を認定すると、大阪府・大阪市と大阪IR会社は立地協定を結びます。その後、土地所有者である大阪市と大阪IR会社は本件借地権設定契約を締結し、それに伴い土地所有者責任の合意も締結される予定です。
 大阪港湾局長等がIRカジノ用地の借地権設定契約をすることは、「最少の経費で最大の効果」を求める地方自治法2条、経費は「最少の限度をこえて支出してはならない」とする地方財政法4条1項、公営企業「経営の基本原則」を定める地方公営企業法3条に違反しており、違法であります。
私たち監査請求人らは、大阪市の違法な財務会計上の行為に対して差止めを求めます。監査委員の皆さんには、違法な夢洲の事業用定期借地権設定契約等の停止の勧告を要求します。これで、私の陳述を終わります。

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